第4話 二人:3 (1/2)

 授業が終わる頃には興奮も下半身も収まっていた。まぁ所詮は魚。そこまでという感じ。



 授業が終わって理科室を出ようと廊下に出る寸前で、右腕の袖に不自然な力を感じ、足を止める。誰かに引っ張られたためだと想像がついたので行動を阻害された事に若干イラつきながら振り返ると、そこには長い睫毛を伏せて目線を下に落とした女子生徒……北村が立っていた。


 その後ろに、女子生徒が二人。名前は覚えていない。北村の背中をつついたり、にやにや笑いながらなにか小声で言っている。

 これは不快極まりない。



「何」



「あ……のね。

 さ、差し支えなければ、榊原君の……」



「何言ってるかわかんない。

 声、ちっさすぎ」



「……。だ、だから!

 アドレス、……メールアドレス教えて!

 榊原君、ラインやってないって他の男子にきいたから……。あ、い、嫌だったら別に……!」



 なんだこいつ。友人をぞろぞろ引き連れて何事かと思ったら、大袈裟な。いや、そうだ、大袈裟だからタチが悪い。ここで嫌だと断ったら、この取り巻いている女子生徒二人から批難を浴びることになるのだろう。そんなことはどうでもいいのだが、大事になることは避けたい。

 この状況で穏便に済む断り文句が思い付かなかった俺は「いいよ」と承諾した。


 その瞬間、後ろにいる女子の二人の奇声。「きゃー」だか「ひゃー」だかよくわからない甲高い声で叫びながら北村をバシバシ叩く。不意をつかれたので、その声に頭を貫かれた気がした。


 ……え、おい。なんだこれ。頭に響く。やめろ。

 北村をそんなに殴ってどうするんだ。


 しかし叩かれている当の本人は顔を真っ赤にしながら満面の笑みを浮かべていた。「もー、やめてよー」とか言ってるくせに全然嬉しそうな顔をしている。俺の中で言葉と表情が伴っていない彼女に説明がつかず、きっとマゾなのだろうと結論付けた。



 そんな奇妙な光景を黙って見ていると、はっとしたように北村は二人をなだめ、ポケットから小さい紙を取り出した。



「これ、私のアドレス……。

 暇な時にでもメール送ってね」



 俺は「わかった」とだけ言うと紙を受け取り、理科室を後にした。後ろからまた奇声が聞こえたが無視をした。

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