サイダーの味がした


 夕方から降り続いた雨のせいで、酷く頭の痛い夜だった。突然鳴り響いたチャイムが頭痛を激しくさせる。


「はい……」


 チェーンロックもかけずにドアを開けた。

 誰が来ていたか、大体予想はついていた。


「よ。」


 シンプルすぎる挨拶と共に、大学の同期である香月が片手を上げた。


「よ、じゃないんだけど。何の用?」


 不機嫌を隠そうともしない私の言葉に、香月は「わかってるくせに」と言って目を細めて笑う。


「終電逃したから泊めて?」

「また? 計画性なさすぎ」

「いいじゃん。手土産持ってきたよ」


 香月はオリエンテーションで席が隣だっただけで、サークルも違うただの同期の女だ。

 それなのに、飲み会でたまたま顔を合わせ、雑談で家が近いという事がバレた。一度酔い潰れた彼女を家に泊めてからは、もう完全に宿扱いされている。


「私が家にいなかったらどうするの?」

「斎藤はいるでしょ。パソコンのゲームばっかりやってるんだから」

「追い出すよ」

「お許しください……プリンとサイダーを持って参りましたので……」


 コーラでなくサイダーという所で、少しだけ興味を惹かれた。梅雨明けを目前にして気温の上がった外気に触れると、炭酸の爽快感は中毒性の強い快楽になる。


「夏になるとサイダー飲みたいよね」

「わかる。無性に飲みたい。コーラじゃないんだよね」

「わかってんね」

「まあ、私はこれですけどね」


 そう言って、香月は袋からアルコール度数の高い缶酎ハイを引っ張り出した。軽く拍子抜けしつつも、「でしょうね」と流す。


 玄関を閉めてワンルームの自室に戻ると、エアコンのお陰で少し息がしやすい。


「あ、プリン。セブンの新発売のやつだ」

「うん。斉藤チョコ好きじゃん。欲しいと思って買った。でもバカの組み合わせじゃない?」

「は? どこが」

「えー、相性悪そうだけどな」

「バカはお前だ」


 香月は袋からイカの燻製を出したが、開けもせずにテーブルに放った。

 私はとりあえずサイダーのキャップを開け、ゴクリゴクリと喉を潤す。


「乾杯しないの?」

「しないよ。一人で飲んでろ」

「えー。サイダーでも良いから乾杯したかったー」


 唇を尖らせて文句を言っている香月を軽く睨みつける。


 もう一度サイダーに口をつけようとすると、伸びてきた腕にボトルを奪われた。どちらも目を閉じないまま、軽く唇を合わせる。


「……酒くさ」


 唇を合わせたまま文句を言うと、喉の奥で笑った香月がペロリと私の唇を舐った。


「サイダー久しぶりに飲んだ」

「飲んでないだろ」

「味はわかる」


 そのままサイダーはテーブルの上に押しやられて、もう一度、今度は噛み付くようなキスをされた。


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