第57話

 神社の駐輪場に自転車を停めてから須藤に電話すると、社務所のところにいるからトットと来いと怒られた。


 確かにもう16時半を過ぎている。

 すっかり遅くなってしまった。


 急いで向かうと、社務所より結構手前に須藤と岸田が清心の制服の女子たちと一緒にいるのが見えた。

 あれは吉野さんと川口さんと葉月さんか。


 水川さんを探すと社務所のカウンターのところにいた。

 巫女さんと何か会話しているようだ。



 他のメンツは、社務所で借りたのであろう猫じゃらしを使って猫たちと遊んでいる。



 川口さんがサワサワと振る猫じゃらしに向かって、黒猫が長いしっぽを揺らしながら身構えている。


 お尻を高く上げフリフリして体勢を整えているのを、みんなが息を呑んで見守っている。


 と、川口さんが大きく腕を動かすのに合わせ、一気にジャンプして猫じゃらしの先端に襲いかかった。


 ターゲットをキャッチして寝技に持ち込み、「フガガッ」と言いながら後ろ足で何発も強烈な蹴りを叩き込んでいる。


「「「「おおー」」」」と言う感嘆の声が上がった。



 ま、まあ楽しそうなら良かったのだろう。


 白猫たちも「次は私の番〜」とでも言うように女性陣の周りをうろうろしている。



「須藤、岸田、悪い。遅くなった。吉野さん、川口さん、葉月さん、こんにちは。待たせちゃってごめんね」

 アキラは女性陣に声をかけた。


「真島ー、遅いぞー」

「お疲れー」

「こんにちは。この間はアレンくんがごめんなさいね?」

「マジマジ〜、こんちわー」

「やっぱりHAYATO様はいないのね…」

 若干一名おかしい気がしたが、とりあえず女性陣プラス3匹の猫と合流し、社務所の水川さんのところに向かった。





「……あ、噂をすればなんとやらってやつね。ほら、アキラちゃんがきたわよ」

「え?本当ですか?ど、どうしよう」

「はい。じゃあコレ、この間約束したお守りね。私の特別製よ。しっかりね!」

「…ありがとうございます。頑張りますね」

 水川さんが巫女さんから何か受け取っていた。


「水川さん、こんにちは。待たせちゃってごめんね。巫女さんもこんにちは。今日は珍しく仕事してるんすね」

「あ、はい。こんにちは真島さん。皆さんと一緒だったから全然でしたよ」

「アキラちゃん、私はいつもちゃんとしてますー。で、どうするの?奥でお茶するならティーセットくらい用意してあげるけど」


 須藤と岸田に視線をやると、どこから出したのか例のラング・ド・シャの缶を頭上に掲げている。

「今日はあたしたちの役割はここまでだから〜」

「巫女ちゃんもシュヴーのラング・ド・シャでお茶しようよ〜」

「あら良いわね!今日は参拝の方も多くないし、神主様に表をちょっとお願いしてお茶にしちゃおうかしら」



 巫女さんはそういうとスマホを取り出すと電話をかけ始めた。どうやら、神主様を呼び出しているようだ。

「…あ、神主様。すいません。真島くんたちが来ていて。ええ、そうなんです。それで彼女たちが相談事があるそうで……。いえ、男性にはちょっと。ですので私の方で対応しますから、また奥の部屋でお話を……。はい。神主様がこちらに見えたら交代していただければ十分です。ありがとうございます。ではお待ちしていますね?」



 電話を終えた巫女さんがサムズアップした。

 そして、「神主様、OKだって!今ティーセットを出してあげるわ〜」と、ウキウキしながらどこかに消えていった。


 この場所に誰もいなくなってしまう気がするが、良いのだろうか。


「え?コレどうすんの?」

「神主様来るまで真島が待ってればいーじゃん」

「そーだよ。うちらが姫の護衛やるのは真島が来るまでだからねー」

「前にこちらでいただいた紅茶は美味しかったですよねえ」

「カンナちゃん!私もお菓子持ってきたんだ〜」

「今日はHAYATO様来ないんか〜」

 水川さんを除いた女性陣はゾロゾロと社務所へと消えてしまった。


 白猫たちは、ここに残るか女性陣について中に入るか悩んでいる様で行ったり来たりしていたが、黒猫が「ニャッ」と短く鳴くと、そそくさと女性陣について行った。



 後に残されたのはアキラと水川さん、それと黒猫だけ。



 今日の水川さんはとてもにこやかだ。

 前ここで会った時のような張り詰めた雰囲気も、喫茶店で会った時のような赤い目もしていない。


 でも男と二人きりになって良いのだろうか?


「えっと、水川さんは大丈夫?」

「え?何がですか?」

「水川さんは男嫌いって聞いてたから、俺と二人きりとかマズいんじゃないかと思ったんだけど」

「う〜ん…。確かに知らない男性と二人きりは嫌かもしれませんが、真島さんですから」


 水川さんが微笑んだ。


 その笑顔を見たアキラは少しドキッとした。

「えーっと、とりあえず大丈夫ってことで良いんかな?」

「ふふっ。わたしもずっとあの子たちと一緒なわけじゃないし、結構一人だけで買い物とか行ったりしますよ」

「ナンパとかされたりしない?」

「一人の時は風邪とか引かないようにマスクしてることが多いから、全然ですよ」

「まあ、そういうもんなのかな…」

「声を掛けられるのは大抵の場合は制服姿の時ですね。変な名前が広がって…」

「『清心学園の氷姫』?」

「もう!真島さんまで!やめてくださいよ〜。中二病みたいで嫌なんです…」

 水川さんが顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまった。

 本気で嫌なんだろう。


 水川さんの様子を見て心配したのか、黒猫が水川さんの近寄って体を擦り付けている。


「あ、ゴメンね。俺もみんなからホンダ呼ばわりされて嫌だったから、ちょっとだけわかるかも知れん」


 アキラがちょっと慌てて何かフォローしようと言葉を捻り出した。


「あー、でも水川さんって、美人で可愛らしい印象はあるけど、周りの人への態度も優しいし、『氷』って感覚はないんだよな。なんで『氷姫』なの?」

「え〜?美人で可愛くて付き合いたいですかぁ?なんで『氷姫』なのかは、麻衣も風香もアイも教えてくれないんです…。ひどいと思いませんか?」

「あ、あはは、そうなんすか〜。ちょっとひどいっすね〜」


 アキラは同い年の美人の上目遣いにドキドキしつつ神主様の到着を待っていた。

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