第56話
……………PiPi……PiPi……PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi
枕元に置かれたスマホからアラームが鳴り響いている。
ベッドの住人は薄手の毛布を抱きしめるような体勢で眠りについているようだ。
アラームに気づいたのかスマホをつかみ、薄目を開けて時間を確認した。
画面をスワイプしてアラームを止める。
「………起きるか」
Tシャツ・ハーフパンツ姿の青年がベッドの上で起き上がった。
「…今日かあ。ちゃんと話せると良いんだけどなぁ」
何事かに思いを馳せた表情の青年は、そのままパタリとベッドに倒れ込んだ。
スマホのロックを解除すると、登録しているサイトの新着情報やニュース・お天気情報の更新通知がきていた。
真島アキラだ。
昨日の雨が続いていないか心配したが、今日の天気は晴れのようだ。
最高気温は29度。最低気温が18度。
この間までの最高気温が今では最低気温だ。あっという間に暑くなってしまった。
眠い目を擦りつついくつかのサイトを見た後、シャワーを浴びに風呂場に行った。
シャワーを浴びながら鏡を見たら、随分と髪が伸びていることに気づいた。
近いうちに切ろうと思っていたのだが、先日怪我をしてからタイミングを見失っていた。
もう夏だし短く切ろうかなとも思うが、ベリーショートだとヘルメットを被った時になんだかしっくりこなさそうだ。
バイトする時は清潔感があった方が良いんだけれど。
とりあえず期末試験が終わったら切ることにしよう。
シャワーを終えて部屋に戻り制服に着替えていると、ピコン♪という音とともにベッドの上のスマホに一件のメッセージが表示された。
『北口ロータリー』
アキラはベッドから立ち上がってメッセージを返信した。
『OK』
改めて時計を見ると7時を過ぎている。
朝食を食べたら待ち合わせ場所に行こう。
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北口のロータリーにはハヤトが待っていた。
相変わらず女の子たちと話をしているようだ。
清心の制服姿の3人組の女の子から紙袋を受け取って笑っている。
またファンの子からのプレゼントだろうか。
「おーい。ハヤトー、行こうぜー」
少し離れたところから声をかけると、ハヤトがこちらを振り向いて手を振った。
「あ、アイツ来たからもう行くねー。コレ、ありがとねー」
「いいえ!じゃあよろしくお願いします!」
「HAYATO様、応援してますね!」
「頑張ってください!」
会釈しながらベイロードに立ち去っていく女の子たちに手を振っていたハヤトがやっとこっちに来た。
2人で並んで走り出す。
「アキラ、おはよー」
「ウッす、おはよーさん。相変わらずプレゼントか?すげーな」
ハヤトが軽く笑った。
「ハズレー。コレはアキラ、お前へのプレゼントだってさ」
「は?」
「清心の女バスの子たちから『姫を助けてくれたナイトへのお礼』だとさ。ほらよ」
赤信号で止まったところでハヤトから渡された紙袋の中身を見ると、クッキーの小箱のようだ。どこかで見た黒いブロッコリーの絵が入っている。
くすぐったいような、ありがたいような、不思議な気分だ。
「じゃあ、オレからもプレゼントやるよ」
ハヤトがいろはす天然水を渡してきた。
「んだよ。コレ」
「今日会うんだろ?その前に脱水症状でくたばらないように、かな。まあ頑張れって」
「あー。じゃあ、サンキュー。…ナベちゃんがコンビニで待ってるって言うから急ごうぜ」
アキラはちょっと照れくさそうにしたが、信号が変わると2人並んで走り出した。
あの日激坂に向かうハヤトと別れた交差点を、今日は2人で右に曲がって走っていく。
「真島くん、宮木くん、おはよー」
コンビニ前の駐車場でナベちゃんが待っていた。
「ナベちゃん、おはよー」「ナベっち、おはー」
アキラとハヤトが挨拶を返すと、ナベちゃんがアキラの自転車の前かごに置かれた紙袋といろはすに気がついた。
「どうしたの?それ」
「ま、まあ、良いじゃん。ナベちゃん行こうぜー」
アキラが先に自転車を走らせたので、ハヤトとナベちゃんも追いかけるようにして走り出した。
後ろでハヤトと話していたナベちゃんがアキラに追いついてきた。
「真島くんにもファンが出来たんだってねー」
「そんなんじゃねーって」
「照れなくても良いのに。宮木くんからお水をプレゼンントされたんでしょ?じゃあ僕もこれをあげるよ」
ナベちゃんはそう言うとコンビニのビニール袋から紙パックのいちごオレを取り出した。
自転車を走らせながらだから、ナベちゃんは相変わらず結構器用だ。
そのままいちごオレを差し出されたので、ありがたく受け取る。
「今日の放課後は行けないけど、頑張ってね」
「…ああ。ありがと」
アキラとナベちゃんが話をしていると、ハヤトが一気に追い抜いた。
「ここからレース開始!学校まで!」
「今は無理だって!カゴの中身がぶっ飛ぶわ!」
「あはは!じゃあ僕と勝負だね!」
ハヤトをナベちゃんが追いかけて行った。
アキラは紙袋が落ちないように気をつけて学校に向かった。
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「あ、今日はこの後、保健委員は医療品搬入の手伝い作業を頼むぞー。このホームルーム終わったら保健室に行って青山先生の指示に従うよーに。じゃあ、今日はここまでな。気をつけて帰れよー」
「え゛?」
担任の松原がホームルーム終了ギリギリで衝撃発言をして立ち去っていった。
アキラが固まった表情で須藤を見ると苦笑いしている。
「まあ、あの子たちの方が遠いから大丈夫っしょ。先に着いてもあたしたちが応対してあげるから、頑張ってきなー」
「…悪いな。サンキュー」
「…やべえ。小一時間かかるとは思ってなかったわ」
養護教諭の青山先生と保健委員総出で業者さんの資材搬入を手伝って、その後の数量チェックをしたのだが、一部の品物で伝票と数が違ったため確認するのに時間がかかってしまった。
メーカーの担当者に連絡したところ、新しい絆創膏のサンプルを送ってきたようなのだが、事前連絡なくサンプル伝票もついていなかったので、出荷ミスか確認するのに時間がかかってしまった。
一応須藤には連絡済みだが、清心の子達を無駄に待たせるつもりはなかった。
アキラは神社へ黒い電動アシスト自転車を走らせた。
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