第53話

「大体こんな感じかな?順番に追っかけて行こうよ」

「ああ、そうだね」

「そうだ、こんな感じだよな」

 3人はそれぞれが感じた違和感を確認することにした。

 ナベちゃんがまとめてくれたノートを見ながらそれぞれ意見を言っていく。


 ●朝について


「まず、朝だよね。これは別に問題なかったと思う」

「まあ、そうだよな」

「アキラが裏切り者って言ってたのを覚えてるわ」

「やかましい。わざわざ新車を見せつけやがったくせに」

 ここは全員一致で問題なし。



 ●放課後 学校


「ここも別に、かなあ?」

「良いんじゃね?」

「特に異論はないよ」

 ここも全員一致で問題なし。



 ●神社


「僕はここが引っかかったんだ」

「え?ナベちゃん、なんかあった?」

「いや、オレも気になってたんだ。アキラ、お前をしたんだ?」

「あー、言わないとダメか?」

「結構重要な気がするから、ちゃんと教えてほしいな。世界平和、とかそういうボケはいらないからね」

 ハヤトとナベちゃんがアキラをじっと見た。


「…あー、ちょっとなあ。………わかったよ!そんな目で見るなよ。

 えっと、健康でありますように。

 あと、俺もハヤトみたいに新しいチャリが欲しい。

 それと、彼女欲しいとかそんな感じ」

 アキラがちょっと早口になりながら答えた。少し恥ずかしかったようだ。


 ハヤトが顎に手を当てて考えている。

「チャリは確かにオレが新車を自慢したからわからなくもないけどさ、最後はなんだよ」

「言わないとダメか?」

「ちゃんと言って欲しいかな」

「ハヤトちょっと耳貸せ」(ゴニョゴニョ)

「……。あー、そういう事か」

「言って良いと思うか?」

「良いんじゃないか?ナベっちも気付いてないとは言わせないよ」

「え?僕?」



 急に話が回ってきたナベちゃんが驚いている。


「須藤がさ、ナベちゃん好きじゃん。隣の席からナベちゃんのことじっと見ててさ。ちょっと羨ましいなーってなって。あー、彼女とか欲しいなーって。ハヤトもあんま教えてくれねーけど、彼女いるし。俺も借金返し終わったし、バイト減らして時間出来てきたんよ。相手いねーけど」


「あー、それもあったか。まあ、オレのことは良いとしてさ。ナベっち、須藤のこと気づいてんしょ?どうしたいん?嫌いなら、あんま思わせぶりな事するの、ヤメてやりなよ?」



 アキラとハヤトの言葉にナベちゃんが下を向いてしまった。

 少しだけ黙っていたが、2人が見守っていると顔を上げた。



「……僕は須藤さんの事、好きだよ。明るくて可愛いのに僕みたいのにも親切にしてくれるし。でも、自信がないんだ。宮木くんみたくイケメンでもないし、2人みたいに痩せてもいない。自分なんかの何が良いのか、わかんないんだ。もし付き合えたとしても、須藤さんがどんなことをしたら喜んでくれるかもわからないよ」



 うーん…。と腕を組んでしまったアキラの横で、ハヤトが笑った。



「とりあえずさ、ナベちゃんも須藤も、お互いが好きなら試しに付き合ってみれば良いんだよ。最初っから全部わかってたらつまんないと思うよ。付き合って、お互いに何が好きで何が嫌いとか知っていけば良いじゃん。合わなかったら別れれば良いんだからさ」


「ハヤト…。お前、なんか彼女持ちみたいな事言ってるぞ…」

「ちゃんと付き合ってる彼女がいるからなー」

「エア彼女を疑ってたのに…」

「コロスゾ」

「怖ぁ」


 ハヤトの言葉をアキラが混ぜ返している。

 それでもナベちゃんは何か悩んでいた。


「本当に僕で良いのかな…」


「何言ってんだよ。俺はともかくハヤトなんてナベちゃんがいなかったら、坂高行けずにモデルもしてなかったかもしれないんだ。ナベちゃんは良い奴だし、俺たちはカッコいいと思ってるよ」

「アキラの言い方はアレだけど、マジでナベっちはオレの恩人だから。体型が気になるならさ、ダイエットなら教えられるぞ。今度はオレが先生やるよ?」

「あのさ、もうすぐ夏休みじゃん。もう俺たちも高2だし、遊べるのってもう今年くらいっしょ?だから、出来たら夏前に須藤に声をかけてみてよ」

 2人の説得にナベちゃんが頷いた。


「……わかった。2人ともありがとう。上手くいくかわかんないけど、今度の期末試験終わったら須藤さんと話してみるよ。流石に今やると何も手につかなくなっちゃうし。…あ、あのさ。振られちゃっても笑わないでね?」


 ナベちゃんの言葉に今度は2人が頷いた。

「それはそん時になってみないとわからんな!」

「ダメだったら残念でした会やってあげるから!」


「2人とも酷いな…」


 ナベちゃんの顔に笑みが戻った。


 まあ大丈夫だろう。

 何せ小夜子ねーちゃんたちの薫陶はナベちゃんも受けている。

 彼女たちの評価は、ナベちゃん>アキラ、だ。


 ・・・

 ・・

 ・


「ん、ん!話がずれちゃったけど、真島くんは、『健康』と『新しい自転車』と『彼女』をお願いしたんだよね」


「まあ、そんな感じだけどさ。え?なに?『自転車』は確かにそうかもしれないけど、『健康』と『彼女』は違くない?いや、でも、水川さんの様子がおかしくなったのって、もしかしてそのせい、とか、あるのか?」


「いやいやいや!そりゃあないだろ。アキラ、思いっきり出血してたし。あと、あの神社で縁結びって聞いた事ないぞ」

「あの神社に置いてるお札とお守りの種類知ってる?お札は、『金運向上』と『開運』、それに『商売繁盛』だよ。あとお守りは『必勝のお守り』くらい。恋愛関係は皆無だ。大体『あの神社に参拝してモテるようになった』なんて聞いたことないよ」


 アキラの顔色が悪くなったのを見た2人がフォローすると、アキラも納得したようだ。


「毘沙門天様は財運の神様だから、なのかな?でも、少なくとも本当に希望通り『新しい自転車』をゲットしたのは事実だよね。これは覚えておこう」




 ナベちゃんがノートに、『新しい自転車ゲット』と書き込んだ。

 


 ●激坂


「ここ、明らかにおかしいんだよな」

「そーなんだよな…。なんでオレはあんな事を…」

「それは僕もなんだけどね…」

 3人が顔を見合わせた。



「俺はたまに激坂は通って帰ってたけど、違うんだよ。ハヤト、お前モデル初めてから怪我に繋がりそうなことは全然やらなくなったよな?」


「ああ。怪我なんかしたら仕事に穴開けることになる。オレを使ってくれるクライアントや仕事を回してくれる事務所に迷惑かけることになるから、なるべく激坂自体通らないようにしてたんだ」


「僕も中学の時に転んで上着ボロボロにしちゃったじゃない?それからあの道はちょっと苦手なんだよ。確かに早くゲーセン行こうって思ったけど、そこまで遅い時間じゃないのに」


「ハヤトはここんところモデル業をかなり頑張ってたろ。ジム通いとかレッスンとか食事制限とか。そんなお前が一番言わないはずの『激坂レースをしよう』って言い始めたのがおかしかったんだ」


「…そうなんだよ。ナベっちが転けて上着破いた時、オレ一緒だったんだ。運よく怪我はなくて上着ダメにしただけだったけど、その時からレースは辞めた筈なんだ」


「僕たちもそれを知ってる筈なのに、誰も不思議に思わなかった。しかもこの僕がスターターをやったんだよ?普段なら確実に止める側なのに!」

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