第50話
ここにいくつかの謎に対する解がある。
なぜ、真島アキラや渡辺健太の二人は『氷姫』と呼ばれるほどの美人と、それに引けを取らないような美人や可愛い女の子たちと相対しても、割と普通のままのリアクションだったのか。
彼女たちがそれほど可愛くなかったから?
いや、そう言うわけではない。
実際に今までたくさんの異性からモテてきたイケメンたちが、公衆の面前でわざわざフラれるリスクを取ってでも付き合いたいと思うほど魅力的だったのだから。
モデルをしているハヤトはまだ理解できる。
仕事上、色々な美人・美少女たちと共に仕事をする機会も少なくないため、耐性があるのだろう、と。
では、高校入学後バイトばかりしていたアキラと、e-sports研究会所属の健太はどうだったのか?
アキラは彼女たちに対し、少し後ろめたい気持ちがあったにせよ、陽キャに近い。他校の有名人が来るのであれば、少しはテンションが上がっても良いだろう。
健太も若干一名から結構な好意を向けられているものの、世間的には陰キャに分類されてもおかしくない。そこまで女性慣れしているのも少しおかしい気もする。
次にアキラの女性に対する態度だ。
真島アキラは、女性に対して強く出ることが出来ない。
多少のことであれば、「仕方ない」と認めてしまう傾向がある。
そして、アキラの金銭感覚や目上の人間に対する態度である。
高校入学後すぐにアルバイトを始めたとはいえ、YMBの山場をして『しっかりしている』と言わしめたほど。
時折言葉遣いが怪しいところはあるものの、高校2年生にしては、態度が出来上がっていると言えよう。
その答えは、この3人にあった。
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中学3年生のときにデビューをし、それからずっと活動しているグラビアアイドル。元々童顔で巨乳であることからグラビア会では絶対的な地位を築いていたが、ここ最近は大人としての魅力も出てきたことで人気が高いおっとり系美人。
明智ゆうこ。
teens向けファッション誌の専属モデルを務め、同世代の女性たちから「細くて顔が小さくて憧れる」「スタイルも良くて可愛い」などの賞賛を集めており、時折テレビに出た際は持ち前の明るさで人気を集めている
伊達アスカ。
黒髪のおかっぱスタイルが特徴。ハヤトの姉で、同じ事務所に所属している。というかハヤトはこの姉に誘われてモデルを始めた。
「日本人女性の美しさを捨ててまでもモデルになりたくない」と西洋的なメイクや髪色を変えることを拒んだことにより、東洋の美という圧倒的な個性を確立したモデル。
宮木
まずは、この3人とアキラ・ハヤト・健太との関わりを説明せねばならない。
小学校から友人だったアキラ・ハヤト・健太と他数名の友は、お互いの家を行き来して遊んでいた。
ただし、この頃のアキラたちと小夜子のつながりは薄かった。
たまにハヤトの家に遊びに行くと会うことがある美人なねーちゃん。
それがアキラたちの認識で、小夜子も特に積極的にアキラたちに構うことは無かった。
アキラたちが中学に入った頃、高校生だった小夜子がモデルを始める。
小夜子は同じ事務所に所属する同世代のモデルやタレントの卵と友好関係を築いた。
そして、多聞市に近いメンバーが宮木家に集まるようになった。
宮木家が駅からさほど離れておらず、宮木家の両親も寛容な点が良かったのだろう。
この頃は、アキラたちは彼女たちを見かけたら挨拶をする。くらいの関係だった。
アキラたち、中学2年の時、事件が起きる。
花火大会、仔猫回収事件だ。
たった3ヶ月とはいえ、宮木家に三匹の仔猫が訪れたのである。
生後まだ間もないぽやぽやした毛並みの一匹の黒猫と二匹の白猫は、彼女たちの心を鷲掴みにした。
だが、そこにいたのは仔猫たちだけでは無かった。
アキラや健太、それに他の友人たち、仔猫保護者グループは、毎日のように入れ替わり立ち替わり宮木家を訪れた。
3ヶ月とはいえ本来は飼育が許可されないマンションで、無理を言って仔猫を預かってもらっている。
だから、なるべく宮木家の負担を減らすべく、食事の世話やトイレトレーニングを分担して協力しようとしたのだ。
アキラたちのこれらの行為は、宮木家の家族から好意的に受け入れられた。
だが、このことを快く思っていない人間がいた。
前述の3名だ。
『可愛い仔猫と遊びたい』が、『小僧どもが邪魔』だったのだ。
最初は『お姉さんたちに任せなさい』なんて余裕こいて仔猫たちを取り上げたのだが、トイレトレーニングなど未経験。
結局アキラたちに泣きついて、最終的には協力して仔猫を育てることになった。
その際に、アキラ・ハヤト・健太・他数名の友人たちは、彼女たちと親交を築いた。
一緒に苦労したからか、仔猫が神社に引き取られた後もこの関係はあまり変わらなかった。
中学3年の時、アキラとハヤトは進路に悩んでいた。
アキラは、高校進学したらすぐにアルバイトを始めて父からの借金を返したい。
ちゃんと稼ぐには学校・自宅・バイト先が近く、タイムロスが無い方が良い。
そのためには、アルバイトOKの地元のなるべく近い高校に進学したい。
ハヤトは、高校進学したら姉から誘われているモデル業界で働いてみたい。
親から大学まできちんと卒業するように言われているので、地元のなるべく近い高校に進学したい。
また、芸能関係で仕事をしていても問題ない高校である必要がある。
彼らが選んだのは、地元にあり、アルバイトや芸能活動などに自由が効く『坂ノ上高校』への進学だった。
ここで一つの問題が生じた。
ハヤトが、ちょっとだけおバカだったのだ。
当初、アキラがハヤトに勉強を教えていたのだが、あまり効果が出ていなかった。
その時は自分で勉強することは出来ても、他の人に上手に理解させることができなかったのだ。
そんな時、教師役として白羽の矢がたった男の子がいた。
渡辺健太である。
中学時代から成績優秀だった彼はもっと偏差値の高い進学校に行くことも可能だったが、家から近いという理由で坂ノ上高校への進学を希望していた。
それを知ったアキラは、健太に自分とハヤトに勉強を教えてくれるように頼んだ。
健太は小さい頃からの友人たちも同じ高校に進学を希望していることを知り、喜んで協力してくれた。
最初は3人の家を転々として勉強をしていたが、一番成績に難があったハヤトの家で勉強会を開くことが多くなった。
彼らは結構真面目に勉強をしていた。が、ここに現れたのが大学1年生になったばかりのハヤトの姉である小夜子と友人のゆうこ、アスカの3人だ。
現在各ジャンルで第一線級に活躍している彼女たちの魅力が一気に開花したのがこの時期だ。
この3人は居なくなってしまった仔猫の代わりのおもちゃとしての役割を、アキラ・ハヤト・健太に見出した。
このことが、アキラと健太の審美眼をぶっ壊すことになってしまった。
ただでさえハヤトの母親や妹たちは美形揃い。
その上、放課後に宮木家で勉強会をしているとグラビアアイドルの卵やらモデルの卵やらが何人も遊びにくる。しかも、なんだかんだと3人にちょっかいを出してくる。
この家の顔面偏差値は異常だった。
小・中学とこの家に出入りしていたものの、思春期を迎えたアキラと健太は内心は穏やかではなかった。
その影響か、この3人のうちの2人の成績が下がってしまうという事件が発生した。
この環境が日常であるハヤトの成績は上がった。だが、教えていた二人の成績が下がったのだ。
定期試験の結果を見て喜ぶハヤトの横で、以前より順位が下がった結果表を見たアキラと健太は焦った。
『これはヤバい。どげんかせんといかん。かといって、ハヤトはちゃんと勉強しないとまた成績が落ちる。どうしよう』と。
苦肉の策で生み出されたのが、古典的だが『みんなジャガイモだと思おう』という一種の自己暗示だ。
特にアキラは暗示系に弱い体質なのか、これがバッチリ決まった。
そして生まれたのが死んだ目で勉強会に参加する2人の男子中学生だ。
このことで、彼らはスイッチを切り替えてしまったらしい。
完全に切り替えられたかは別としても、だが。
死んだ目で勉強会をするようになってしばらくした時、アキラと健太は彼女たちに簡単にはドキドキさせられないような身体になっていたのだ。
以前のような初心なリアクションは鳴りをひそめることとなる。
このことを快く思わなかったのが女性陣だ。
誰とは言わないが、当時付き合っていた彼氏と大喧嘩して別れたばかりの女性がいた。彼女は宮木家に来ては、小夜子に泣きついたり愚痴をこぼしたりしていた。男なんて信じられない!もっとマシな男はいないのか!と。
ある時、彼女は宮木家であるものを見つける。
模試の志望校判定が芳しくなく焦るハヤトに丁寧に勉強を教える健太と、死んだ目勉強法が功を奏したのか、同じく志望校判定がA評価で歓喜しているアキラだ。
彼女は思った。
流石に判定がヤバ気なハヤトに勉強を教えている健太で遊ぶのは不味い。だが、余裕のA評価のアキラならちょっと遊んでも良いんじゃあないか。と。
そして、この考えは、小夜子たちに共有されることになった。
今の時期から仕込めば、モブ顔のアキラでもそれなりに良くなるんじゃあないか。
思考やファッションセンスなんかを仕込んでみないか?
あえて言うならば『逆光源氏プロジェクト』だろうか。
リアル育成ゲームの開始だ。
宮木家を訪れたアキラは、小夜子たちにちょいちょい拉致られることとなった。
アキラは、レディーファーストをモットーとし、常に女性に対して紳士的であるように教育・調教された。
女の子を泣かせてはいけません。
女の子には親切にしましょう。
女の子にはなるべく奢ってあげましょう。(ただし金銭的に余裕があるときね)
また、社会に出たときに苦労しないように。と言うことだったのかわからないが、先輩後輩の上下関係や年上の人に対する口の利き方などを徹底的に仕込まれた。
人を見ろ。相手によってちゃんと対応を変えろ。直感力を鍛えろ。結構な無茶振りもされた。
誰かと話すときは相手の目をきちんと見ろ。
女性と話すときは特に注意しろ。男のチラ見は女性のガン見。胸や尻をチラチラ見るな。ぶっ殺すぞ。(お仕事の時に色々あったらしい某グラビアアイドル談)
浮気は犯罪。ハーレムなんぞ言語道断。たった一人の相手すら満足させられないのに何を戯けた事を抜かすか。以下略。(健太のカバンに入っていたライトノベルを勝手に読んだ某モデル談。アキラの本じゃないのに…)
そして、金銭感覚についても勉強をさせられた。
当時彼女たちはまだ学生だったとはいえ、それぞれの分野で頭角を現しつつあった。そしてそれに伴い収入も増えつつあった時期である。
自分が苦労してお金を稼いだ経験から、お金の大事さと稼ぐことの大変さなどをアキラに教え込んだのである。
人間というものは、良きにつけ悪しきにつけ慣れるものである。
ブラック企業に就職してしまった新社会人がその環境に慣れてしまい疑問を抱けなくなるように。
彼女たちの教えは一般論としては間違えではなかったものの、暗示系に弱い体質のアキラに結構深く刺さってしまった。
こうして中学生3年生という多感な時期に3人の
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