第49話
アキラは、とあるマンションのエントランスに設置されたインターホンのボタンを押していた。
あまり待たされることなく返答があった。
『は〜い』
「あ、真島です。お邪魔しますー」
『あっちゃんね。ハヤトから聞いてるわ〜。今オートロック開けるわね〜』
「お願いします」
エントランスの奥の自動ドアが開いた。
少し面倒だが、セキュリティのため仕方がない。
エレベーターを上り一室のドアの前まで着いたのでドアホンを押すと、内側からすぐに開かれた。
20代後半くらいの非常に美人な女性だ。
右目の下の泣き黒子がとても色っぽい雰囲気を醸し出している。
「あっちゃん〜、いらっしゃ〜い。久しぶりねえ。もうそんな時期?」
「おばさん、ちわっす。そんな感じっす。あの、ハヤトとナベちゃんは?」
「結構前に帰ってきてるわよ〜。けんちゃんと一緒にねえ。あの子の部屋にいるはずよ〜」
「じゃあすんません。お邪魔しますー」
この女性は、ハヤトの母親のようだ。
…年齢の計算が全く合わない気がするが、アキラは慣れているようだ。
玄関でスニーカーを脱いでスリッパに履き替えていると、ハヤトの母親から声をかけられた。
「あっちゃん、今日はウチでご飯食べてく?それなら陽子ちゃんに電話してあげるわよ?」
「いや、今日はそこまで長居しないつもりなんで大丈夫っす。家帰れば、飯用意してくれてると思うんで。た、たぶんっすけど」
「そーお?今日はカレーにするから気が変わったら言ってね〜」
ハヤトの母親はそう言うと、ダイニングキッチンへ続く玄関横のドアに姿を消した。
廊下を歩いて行くとリビングへのドアと奥に幾つかのドアが見える。
リビングと廊下のドアは開け放たれていた。
おばさんが出てきた時のままのようだ。
そのドアを通り過ぎたところでリビングから声をかけられた。
「あ、あっちゃん、おひさー」
「あっくん、一緒にゲームやろー」
アキラが廊下を少し戻ってリビングをのぞいた。
「おー日奈子、櫻子。元気かー?」
中でセーラー服の美少女と小学生くらいの美少女が、リビングの大画面TVでスマブラをやっていた。
「ぼちぼちよー」
「ねー、スマブラやらん?」
「櫻子、悪いな。今日はお前の兄貴に用事なんだ。つうか日奈子は制服着替えてからゲームしろよー。シワになるぞ」
「あっちゃんはお父さんみたいなこと言うよねえ。こんな美少女のセーラー服姿を見れるなんて、お金払っても良いって人もいるんだぞー」
「アホか。お前は俺らの後輩だろうが。そんな制服毎日見てたわ」
「ちぇー。ノリ悪いなー。ねー?サクラそう思うよねー?」
「そうだよぅ。罰として、スマブラで10連敗するまで出られまテンの刑だねぇ」
「負け抜けかよ…。やらんて」
アキラがゲンナリしている。
「そーいえば、動画見たよー。カッコ良かった!ねーサクラ!」
「うん!ねえねえ!あっくん、今度いつ血まみれやるの?」
「俺に動画の話をすんなって…。あと、もう血まみれにはならねーよ!」
ゲンナリしていたアキラが肩を落とした。
セーラー服の美少女がカレンダーを見た。
「何?もう期末テスト?」
「そうだよ。ウチの高校は7月の頭の1週間がテストだ。日奈子、中学生もそろそろ期末じゃないんか?」
「アチシは兄貴と違って顔だけじゃなくて頭もいーから平気ー。せんせーからもこのままの成績なら清心いけるぞ!って言われてるしー」
「へー、すげーじゃん。でもお前中一になったばっかじゃん。中学の勉強舐めてると急に難しくなってついていけなくなる事あるから気をつけろよー」
「何それー」
「お前の兄貴がそうだった」
「…気を付ける」
「まあ、困る前に気軽に聞けよ。中学のところだったら、俺かナベちゃんならある程度教えてやれるから」
「んー、まだ大丈夫だけど、なんかあったら聞くー」
「そーしろ。じゃあハヤトんとこ行くからなー」
「あっくんまた今度遊ぼーねー」
リビングから廊下に戻り、ハヤトの部屋に向かおうとしたところで、すぐ横のドアが開いた。そして中から伸びてきた手に腕を掴まれた。
「ひぃっ」
アキラは一瞬抵抗しようとしたものの、ずるずると部屋の中へ引き摺り込まれた。
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その部屋には壁に沿って大型のハンガーラックがいくつも設置されていた。
シャツブラウスやジャケット、もう7月も近いと言うのにコートの類までたくさんの種類のアウター類が架けられている。
そして、他にもアパレルショップで見かけるようなスチールラックにも大量の服がたたまれて収納されている。
クローゼットに収まりきらなかった服が部屋を侵食しすぎて、もはやウォークインクローゼットの中に生活空間があるような状態だ。
あとはクイーンサイズの大きなベッドとローテーブルで占められている。
広さ十二畳ほどある筈のその部屋には、たくさんの空になった酒瓶と空き缶が転がっていた。
部屋には可愛らしいゴミ箱があるが、とっくにキャパオーバーしている。
その横にあるのは小型のシュレッダーか。
明細の類いが横に置いてあるのを見ると、このシュレッダーも裁断したゴミがいっぱいなようだ。
ローテーブルの上にはドリンク類が多いものの、不思議と食べ物はあまり置いていない。
せいぜいチーズやナッツ類、それとサラダがあるくらいだ。
その中央で3人の女性がアキラを囲んでいた。
ゆったりとした服装の上からでも、ボン・キュッ・ボンな抜群のスタイルがわかる二十歳くらいの美人。
少しタレ眉の下で赤い顔をしてヘニャヘニャと笑っている。
ちょっと狸顔の可愛らしい感じの女性。
こちらも同年代だろう。
この人もスタイルが良い美人さんだ。
そして、その奥に綺麗に切り揃えた長めのおかっぱ頭、白い肌に唇が赤く染まった女性が座っていた。
ストレートの黒髪、切れ長の眼、この世のものではないような神秘的で妖艶な美しさ。
人によっては一度見たら忘れられないかもしれない女性だ。
どうやらアキラはこの女性たちに捕まったようだ。
「ほらほら、この部屋の前を通りかかって素通りはさせないぞー」
「おー性少年、元気かー?久しぶりじゃん!通り魔退治のヒーローくんになったんだって?」
「…久しぶりね。あっちゃん。怪我は大丈夫だった?」
3人の美人に囲まれたアキラは、デレデレする様子もなく、むしろため息を一つ吐いた。
「…はあ。…ゆうかさん、アスカさん、こんにちは。小夜子ねーちゃん、心配してくれてありがとう。怪我はもう大丈夫だよ。…それは良いんだけど、あんたら、何時から飲んでたんだよ!」
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