第29話
「…じゃあなんであんな事言ったんだよ」
ハヤトが憮然としている。
「動画効果で俺も少しはモテるかもしんねーじゃん。つうかさあ…、俺がみた時はHAYATO様よりこっちの人の方が『血も滴るイイ男』で格好良いってコメントしてあったぞ」
ニヤニヤと笑いながら部屋に入ってきたアキラがハヤトに右の拳を突き出した。
「…バッカだなー。そいつ!」
その拳にハヤトが自分の拳を軽く打ちつけた。
ナベちゃんの隣の空席にどっかりと腰掛けた。
「病院で定期検査してもらってさー、土曜だからかやたら混んでて遅くなっちゃって、気がつけばもうこんな時間だよ。昼メシをナベちゃんと一緒に食べようと思って何回もメッセージ送ったのに何にも返ってこないし。しょーがねーからさー、ここでナポリタンでも食べさせてもらおうと思ったら、マスターがみんなで集まってるって言うじゃん!そしたら、なんか恥ずかしい話してるやつがいたんだけど!」
集まったメンバーの顔をざっと見渡した。
「みんな冷たいよなー。俺のことは除け者っすかー」
「真島くん、そうじゃなくてね」
ナベちゃんが困っている。
「あー真島、これはさー」
「いいえ、真島さん!そうではなくて」
「あ、あはは」
「タイミング…」
「ちょっと、そのう」
「お、一昨日のね…うん…」
女性陣もアキラの急な出現に、何と言ったらいいのかわからないようだ。
「ナベちゃんもさ、そんな気にしなくていーよ。特に岸田と須藤についてはさー」
困り顔のナベちゃんに向かってアキラが言った。
「なんせ俺のFAN○Aのアカウントから、好きなセクシー女優まで聞き出されそうになったんだぜ!断固として言ってねーけど!ちょー恥ずいわ!」
ひどくね?とアキラが笑った。
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「…アキラ、お前、記憶戻ったのか?」
「あー、さっきじいちゃんセンセーに『お前、なんかボーッとしてておかしいぞ。ちょっと気合い入れちゃる!闘魂注入だッ』って一発どつかれたわ」
「真島くんも一応患者なのに、おじいちゃんセンセー、相変わらずだね…」
「なー。でも、それでなんかスッキリして色々思い出したよ。検査も今日で終わりでいいってさ。にしても…、岸田〜、須藤〜」
苦笑しながら、坂高のギャルコンビに目を向けた。
「ホン…、真島様!申し訳なかったでござるよ!」
「あー、真島、ホントゴメン!反省してます…」
「岸田、ハンセーしてねえだろ…」
「し、してるよ〜。ちょ、ちょっとだけならおっぱい触ってもいいよ。ちょっとだけね」
「触らんわ!だからお前は俺を何だと思ってるんだよ!人聞き悪すぎるからホントやめて!」
「しゃーないなー」「なー?」
「もうお前らは良いや…。色々セッティングとか雰囲気悪くならないように気も使ってくれてたの知ってたし。初対面の清心の子たちに野郎だけで応対すんのキツかったからなあ。ウチからも女子が来てくれてスゲー助かった。ありがとな」
「…なんか恥ずい」
「…真島ー、やっぱほのかのおっぱい触っときなー」
「じゃあ、あたしがカンナのおっぱい触りゅ!」
ギャルたちはぎゃーっと騒ぎながら逃げていった。
「だからさ、二人ももう気にすんなよ。ちょっと俺が恥ずかっただけのことだって」
「…ああ」
「真島くんが良いなら、僕はもう良いよ」
腕を組んだハヤトと、うん、と頷くナベちゃんに、アキラが軽く頷いた。
アキラはおもむろに立ち上がると、清心の4人に向かって深々と頭を下げた。
「先日はせっかく来てくれたのに、俺が変なリアクションをした所為で皆さんに不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。今日もわざわざ時間をとってもらったようで、すいませんでした」
水川さん、吉野さん、川口さん、葉月さんがハッとして、慌てて返事をした。
「こちらこそ、わたしの独りよがりな行動からご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」
「あなたが弁明していたのに聞く耳も持とうとしていませんでした。すいませんでした」
「真島くん〜、ごめんね〜。あの、この間のケーキ、気に入ってくれたのならいつでも用意してもらうからねぇ」
「カンナちゃんとほのかちゃんと一緒になって余計なことをしました。ゴメンなさい」
アキラがやっと頭を上げた。
照れ臭そうにちょっと笑う。
「じゃあ、お互いにありがとうもゴメンなさいも終わったので、これで手打ちってことでイイっすか?」
女性陣が頷いてくれた。
「あー、あとハヤトとナベちゃんがなんか色々言っちゃったみたいでゴメン。普段はこんなんじゃないんだけど…」
「アキラ、そうは言うけどな」
「ハヤト、気持ちはありがたいけど、お前は女の子を問い詰めて泣かせたりしたら絶対ダメだって。お前みたいなイケメンなだけが取り柄のモデルは、女の子のファンしかいねえんだから」
「…チッ。……でも、そうか。色々言いすぎた部分はあるか」
「……僕も言いすぎたよ」
「流石に女の子が目を真っ赤に腫らすほど泣かせたらアウトだろ」
ハヤトたちが女性陣の顔を見て、ハッとして立ち上がり頭を下げた。
「「色々と言いすぎました。ゴメンなさい」」
「いえ、わたしはお二人の率直な意見が聞けて、自分のことをきちんと考えられました。何も見えなくなっていたことにも気づけました。ありがとうございます」
「…正直に言えば、今日ここに来るまで、なんで私たちが
「何だか、おかしなことになっちゃって、怖かった。でも来て良かった。またケーキ食べようね」
「ハヤトさんと健太さんも、私たちがサキを大切に思うように、友達を大事にしただけだから。真島くん、色々ごめんね」
アキラが『パンッ』と手のヒラを叩いて大きな音を立てた。
「じゃあこれでオシマイ!っと言いたいところだけど、水川さんと吉野さん、それとハヤトと俺の4人だけで話したいことがあるんだ。なんで、ナベちゃんは他の子たちにホールで食事食べさせて上げてもらえる?あ、お代はハヤトが全部持つからパフェでも何でも食べてって」
「おい、アキラ…」
「今朝、お前の事務所のマネジャーさんから自転車の納品の件で電話あってさ。先方の都合で月曜に家に届けてくれることになったけど構わないかって。うちの母上様もその方が都合よかったから却って助かったんだけどな。そん時マネジャーから聞いたよ。金一封。そんな金額だったんだ〜。へー」
「…ナベっち、手数かけて悪いけど頼む。オレが失礼なことを言ったお詫びだから何でも食べていってもらえるかな。…でも、須藤と岸田には少しは遠慮しろって言って」
「わかったよ。じゃあ、川口さんと葉月さん、ホールの方に行こうか?」
ナベちゃんが二人を連れて大部屋を出たので、アキラとハヤト、水川さんと吉野さんの四人になった。
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