第27話
「つまりさ、黒猫のヴァイがいけなかったってことだね」
ナベちゃんが笑った。
ハヤトも一瞬あっけに取られて、笑い始めた。
「ヴァイが相手じゃあ、仕方がないな」
笑うナベちゃんとハヤトの様子に女性陣は、ポカンとしていた。
やがて、須藤が釣られて笑い始めた。
「あー、ヴァイは魔性のお猫さまだもんねー」
それを聞いた岸田も笑い出した。
「ヴァイ様は王様だってば!」
清心の女子4人も、いつしか笑っていた。
水川さんも涙を浮かべながら、笑っていた。
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ひとしきり笑ったところで、岸田と須藤が話し始めた。
「でも、ヴァイと一緒にいる真島をみてドキッとしたって言うのなら、ちょっとだけわかるかも」
「なんそれ?」
「なんかさ、ヴァイと真島ってめっちゃ仲良いじゃん」
「あーそれなー」
「ヴァイなんて他の人にはやらないのに、真島相手だと結構膝に乗っててさ。真島も優しい表情してヴァイを撫でてたりするの見ると、あいつの指って結構長くて良い感じするっていうか…。結構キレイっていうか…。なんか、こう…ちょっとエロい」
水川さんが反応した。
「そうなんです!すごく、こう、なんて言ったら良いんでしょうか。ドキドキしたんです」
「だしょー?エロいよねー」
岸田と水川さんがキャーキャー騒いでいる。
川口さんがそれを無視して質問した。
「坂高のひとって、みんなあの神社の猫ちゃんと仲がいいんですか〜?」
須藤がちょっと考えて言った。
「ウチの高校の連中は基本みんなあの子たちが好きだよ。先着順だけど、わざわざチュールを献上しに行くくらいだから。でも、真島やハヤトくん、それに健太くんは特に猫たちの反応が違う、気がする」
「あー、まあ、なあ」
「別に言っても良くない?」
ハヤトとナベちゃんが何か相談している。
「まあ、知ってる人は知ってる話だから、別にいいか。あの三匹は、元々オレたちが金鎖山に遊びに行った時に保護した猫なんだ」
「もう4年前になるのかな?中学2年の時だったよね…」
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俺たちはみんな小中同じ学校で、よく遊んでいたメンバーなんだ。
高校に入ってからはナベっちがe-sportsにハマって、ちょっと疎遠になったりしたけど。
……ああ、ナベっちごめん。確かにオレはモデル始めたし、アキラもバイト始めて忙しかったからな。遊ぶタイミングが減ったよな。
夏にタカラ川で花火大会があるだろ。
お祭りと一緒の日で、すっごい人混みになるやつ。
金鎖山に、大人が知らない花火大会の絶景スポットがある。
道が細くて車が入れない街灯もないところを入って行った先、自転車も途中までしか入れない場所に、ちょっとした広場があるんだ。
小学生の時、仲の良いメンバーで山にカブトムシとかクワガタなんかを採りに行って偶然見つけたんだよ。で、俺たちの秘密の場所になった。
不思議とアブや蚊なんかは全然いない場所で、草もそんなに生えていない変な広場だったな。結構綺麗に整地されていたから、今考えると誰か管理している人がいたのかもしれない。
そこからだと、誰にも邪魔されず花火が真正面から見られる。
毎年花火大会の日は、オレとナベっちとアキラと他数人で夜中に自転車走らせて、そこで蚊取り線香焚いて、スプレーかけて、LEDランタンの灯りの中、ジュースとお菓子と屋台で買ったたこ焼きなんかを飲み食いしながら花火鑑賞してた。
中学2年の花火大会の日、同じようにみんなで集まってジュース飲みながら次々と打ち上がる花火を見ていた。
その時、オレとナベっちが暗い草むらの中に白い毛玉みたいなものがあることに気づいた。
近づいて見ると、生後あまり経ってない白い仔猫たちだった。
カラスにでもやられたのか、血が出ててさ。
オレたちはすぐに動物病院に連れて行こうって騒いだ。
すぐに片付けて、ダッシュで行かなきゃってね。
お菓子やらジュースやらを自転車のカゴに突っ込んで帰ろうとしたら、アキラのやつがいない。
広場に戻ると、アキラが真っ暗な草むらにうずくまって何かしていてさ。
どうしたって声かけたら。
もう一匹見つけた。って差し出してきたのが、小さくて真っ黒い仔猫だった。
あいつ、猫の鳴き声が聞こえたらしいんだ。オレたちは誰も聞こえなかったのに。
花火がバンバン上がってめちゃくちゃ五月蝿かったのに。
で、急いで帰って動物病院で治療をしてもらうことになったんだけど、問題が発生した。
治療費を誰が払うか。ということだ。
動物の場合保険が効かないから、確か10万以上かかったんじゃなかったかな。
それでも、本来はもっと高くなるところを、動物病院の先生が色々調整してかなり抑えた金額にしてくれていたらしい。
先生は、費用はなんとかしてくれるって言ってたんだけど、当然オレたちの親も知ることになった。
決して小さな金額じゃないし、その後のこともどうするか決めることはすぐには出来なかった。
そんな時、アキラが真島の親父さんとお袋さんに交渉して、猫たちの治療費は高校に進学したらアルバイトをして必ず返すので一時的に貸してほしいって、オレたちみんなの前で頼んだんだ。
オレのうちは当時一番下の妹が小学校に入ったばかりで、色々とお金がかかってそんなに余裕がなかったし、ナベっちのところはおじいさんが大の猫嫌いで全く話にならない。
……ああ、兄妹?いるよ。上に大学生の姉と、下に妹が二人。そう、4人兄妹。だから結構金がかかるみたいだ。まあそんなのはどうでも良いんだ。
他の連中も事情があってうまく行かない中で、アキラが『命を拾った責任を取る』って言ったんだよ。
他にも色々話をしたけど、結局親父さんは納得してくれて、治療費は全額出してくれた。
ただ、あいつの親父さん、猫アレルギーだから、アキラの家で飼うことは出来なかった。
動物病院で治療してもらっている間に、オレたちは里親探しをしたんだけど、全然引き取り手は見つからなかった。
そんな時、オレたちが神社で相談していたら、神主様に声をかけてもらってさ。
神主様から、金鎖山は神社の御神域だから、そこからきた猫なので神社で引き取るよって言ってもらえた。
ただ、ここでその噂を聞いた氏子の人たちからクレームが入った。
神聖なる御社に野良猫を気軽に拾ってこられても困る。
捨て猫を簡単に引き取るという悪い前例を作ると、わざわざこの神社に猫を捨てに来る人間が出るかもしれない。際限なく面倒を見るのか。
また、神社内で猫が繁殖して境内で便をするようになったらどうするのか。
去勢や避妊の手術代は神社が持つのか。それを目当てにここに持ち込まれるようになったら誰がどう責任を取るのか。
クレームかもしれないけど、筋は通っていると思ったから、みんなで一つずつ解決することにした。
トイレトレーニングは退院後、オレの家で預かって、ちゃんと猫用トイレでするように躾けた。
今は金鎖山で遊んでる時に済ませてきて、境内に入ると社務所の寝床の近くの猫用トイレをちゃんと使ってるらしい。
ナベっちや他の連中が猫餌やトイレのケースに猫砂なんかは揃えてくれた。
うちはマンションで本来はペット禁止だったんだけど、神社に引き取ってもらう予定なので3ヶ月間だけ飼わせてもらいたいって、親と大家さんをオレたち全員で説得して了承してもらったんだ。まあウチの家族はみんな猫好きだから大家さんが説得できれば何とかなった。
最後に、去勢と避妊手術はアキラのやつが借金を増やすことで解決した。
タイミングをみて動物病院で手術を受けることを約束して、あの三匹は神社に貰われて行った。しばらく後にアキラから手術が終わったって聞いたよ。
それ以降の費用は神主様が全部出すって言ってくれてさ。餌代やら定期検診代やらは一円も払ってない。
結局、アキラは中学生にして20万円の借金を負った。
親父さんは、オレたちに内緒で結構負担してくれていたみたいだけど。
あいつは、高校に入学するとすぐにバイトを始めた。
結構頑張っていたけど、親父さんからストップがかかった。
交渉をしていくつか条件をクリアすることでバイトを続けたみたいだ。
確か…、
親の扶養から外れないように、アルバイトの収入は月8万円以内にする。
定期試験期間はアルバイトは禁止。
成績が落ちるようであれば、アルバイトはやめる。
猫の治療費立替分はアルバイト代から月2万円までしか受け取らない。
残ったお金は自分のために使う。
こんな感じだったと思う。
やっと全額返し終わったぜ!ってオレたちに言いにきたのが、今年の3月のことだよ。
オレたちも高校入ってバイトを始めたから、猫の治療費を受け持つって言ったんだけど、アイツ、親父さんと約束したからって結局全然受け取らなかった。
アキラがチュール持ってあいつらに会いに行ってるのは、やっぱり自宅で飼いたかったのかもしれないな。
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