第21話
「むーすーんで、ひーらーいーて、てーをうって、むーすんで♪まーたひらいてー、てーをうって、そーのーてーを、ウーニャンニャン♪」
いつもの神社の境内の裏手、小さな社の階段に座ったアキラが、自身の膝の上で仰向けに寝ている黒猫を後ろから抱き抱えるようにしている。
その姿勢で、黒猫の前足を持って手遊びをしているようだ。
黒猫は相変わらず憮然とした表情だが、されるがままにしている。
「あんた、ヴァイによくそんなこと出来るわね」
「あたし、ヴァイが誰かの膝の上でヘソ天してるの初めて見たかも」
「歌詞がテキトーなことにイラッとくる」
「この間、
「処す?」
「処す!」
「怖えよ」
須藤と岸田が羨ましそうにしている。
その向こうでハヤトとナベちゃんは白猫のシュラ・マナコンビの背中を撫でていた。
待ち合わせている清心の女子はまだ到着していないようだ。
神社のすぐ近くにある坂丿上高校と違い距離があるので仕方ないだろう。
岸田のスマホに待たせることについて、先方から丁重なお詫びが届いていた。
せっかくなので猫のおやつ権を獲得して、わざわざ来てくれた清心の子たちに猫にチュールをあげる体験をしてもらおうということになった。
もう神主様には先着1グループの確認・許可は取ってある。
白猫のシュラに足元をすりすりされながら、ハヤトがこちらにやってきた。
「ヴァイはアキラと一番仲がいいもんなー」
「まー、付き合いも結構なげえしな」
「え、いつからなの?」
「4年くらい前だったか?」
「そうそう中学2年の夏祭りの時にあったのが初めてだからねー」
「その頃はちっちゃくて可愛かったな」
何か悪口を言われたと思ったのか、黒猫が珍しく「シャーッ」と鳴いた。
ただ、アキラの膝上に乗り、ヘソ天で前足を掴まれたままなので、本気で怒っているわけでは無いようだ。
「ごめんごめん。今は立派な美猫だもんなー」
「高校入る前から?」
「地元のアドバンテージか!」
「ヴァイ〜そんな野郎じゃなくて、あたしと遊ぼうよ〜」
ナベちゃんも白猫のマナと一緒にこっちにきた。
「本当にこのコたちは優しいよね」
「シュラ〜、マナ〜、あたしたちを癒して〜」
「マナが一番可愛い〜。健太くん、一緒に撫でよ〜」
それぞれお気に入りが違うらしい。
猫たちと遊んでいると、後ろの方から声をかけられた。
「あの…、ホンダさん、ですか?」
「誰が、
アキラが黒猫の手を打ち合わせながら振り向くと、そこには4人の女子高生が立っていた。みな学校指定のカバンなのかエンブレム入りのバッグを携えている中、一人の女の子がショッピングバッグを手にしている。
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呆気に取られている清心の女子を見て、アキラがやっちまったという顔をした。
すぐそばにいる岸田の顔を見る。
「岸田さん…。俺の名前、訂正、してくれたよな」
「ア、アハハハハ…。どうだろ。した、ような、してない、ような…」
「ほのか、流石に無いわ〜」
場が固まってしまった中、一番最初に立て直しを図ったのはハヤトだった。
「初めまして、で良いのかな?坂高の宮木ハヤトです。今日はウチの真島に礼を言ってくれるということで、来てくれてありがとう」
「あ、はい。初めまして!」
「えっと、疑問に思っているだろうから先に説明しておくね。こいつの名前は真島アキラ。ホンダっていうのは、なんだろ…、最近ついたニックネーム見たいなもんで…」
「真島アキラっす。ホンダ呼びは、ちょっと勘弁してください」
「まあ、こんな感じなんで真島って呼んであげてください」
「そうだったんですね…。失礼しました」
黒猫を膝から下ろしたアキラがペコリと軽く会釈すると、相手はかえって恐縮してしまったようだ。
地面に下ろされた黒猫はギャルコンビと遊んでいた白猫たちのところに行って、三匹で何かニャゴニャゴ言っている。
岸田が立ち上がった。
「あー、じゃあ、ここからはあたしが仕切らせてもらうわね。えっと、まずあたしが岸田ほのか。坂高2年。今回、そちらの後輩ちゃんから話を聞いてセッティングさせてもらいました!」
「同じく坂高2年の須藤カンナでーす。クラスメートでーす。今日は清心の女子と仲良くなりたくて来ました〜。よろしくね〜」
「僕は、渡辺健太です。一応事件の時、一緒にいました。ほとんど何もしてないんだけどね」
「さっき挨拶させてもらったけど、宮木ハヤトです。動画にも映っちゃったけど、事件の時一緒だった。バイトでモデルもやってるので、知ってもらえていれば嬉しい。かな」
「真島アキラっす。たまたま、あの時はおっさんに上手い事ぶつかっただけ…みたいなもんなんですが、わざわざ来てもらっちゃってスンマセン。あの、全然お礼とか気にしなくて良いんで。良かったら猫と遊んで行ってください」
坂高のメンバーがチャチャっと挨拶を済ませた。
アキラもある程度考えていたのだろう。
みんなに続いて無難に挨拶を済ませた。
今度は清心の女子の番のようだ。
改めて彼女たちを見ると皆すごく可愛いし、スタイルが良い気がする。
一番背の高い女子が一歩前に出てきた。
ボーイッシュなショートボブヘアのキリッとした印象の子だ。
「葉月アイ、清心学園女バスの2年です。今回は後輩から話を聞いて岸田さんと連絡を取らせてもらいました。今日は彼女たちの付き添いで来ました。お時間いただいてありがとうございます!」
次に出てきたのは、外ハネしているヘアスタイルの一番背が低い子。活発で可愛い感じがする。
「清心2年の川口風香です!あの時サキちゃんとマイちゃんと三人でベイロードにいました!本当にありがとうございました!」
セミロングを軽くウェーブさせたヘアスタイルの子が出てきた。少し大人びた感じの美人だ。
「清心の吉野麻衣です。先ほどはお名前を間違えてしまってごめんなさい。あの時はありがとうございました。私が転んだせいでサキまで死ぬかもしれないところでした。本当に感謝しています」
最後に黒髪ロングストレートのひときわ美人な女の子が出てきた。サラサラとした髪が風に流されていく。
アキラをじっと見つめている。
目力が、強い。
「水川沙姫です。先日は麻衣やわたしが危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました。また、本日はお会いいただいてありがとうございます」
清心の4人は、揃って深々と一礼した。
アキラは、
ハヤトがぼーっとしているアキラの脇を突いた。
はっと気づいたアキラが慌てている。
それを見た岸田が4人に声をかけた。
「あー、硬い!硬いよ!じゃあ、お礼は言ってもらったのでオッケー!みんな頭あげてー!」
その言葉にそろそろと4人が頭を上げる。
岸田と須藤が笑った。
「もう、ウチの男どもは十分お礼を言ってもらったからお腹いっぱいだって!それより話をしようよ〜!清心の事聞いてみたいし!」
「あたし、みんなと仲良くなりたい。だからタメ口で喋ろうよー。可愛い子がいっぱいいて眼福〜」
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