第20話
「あんた、本当に知らないの?やっぱアホね」
「ホンダってマジホンダじゃん。ウケる!」
「アキラのことだから、もしかしたらとは思ったけど…」
須藤・岸田・ハヤトが驚いている。
「悪かったな…。で、何?有名人なの?なんかの競技の学生チャンピオンとか?」
知らんものは知らん。仕方ないだろうに…。ちょっと憮然とした顔で三人を見た。
「まあ、名前じゃわかんないこともあるかもしれないし…」
「『清心学園の氷姫』だよ」
「何だそれ?フィギュアスケート選手?」
「信じらんない!」
「…ちょっとまて。考える」
「クイズになってんじゃん!」
須藤が怒るし、岸田は笑うので必死で考える。
「わかった!演劇部の人だろ。レリゴーの…、アナ雪、だっけ?あれの主人公が雪の女王だったから、女王役を演じた。とか!」
「あー、そっちに行ったかあ」
「努力は認めるけどねえ」
「全部ハズレ。演劇部じゃないし、アナ雪も関係ない。ていうか雪の女王はエルサ。ストーリー的に主人公はアナだし!」
「須藤さん、アナ雪好きだったんだねえ」
「あ、あたしも好きだよ。可愛いとこあるっしょ〜」
「ほのか!今そーゆータイミングじゃないから!」
「おはよー。みんなしてどうしたの?」
ナベちゃんが来た。
「あ、健太くん、おはよ!ねえ、『清心学園の氷姫』って知ってるよね?」
「うん。水川さんだっけ?」
「マジでナベちゃんも知ってるの?」
「ウチのサークルの女子にファンの子いるからね」
「あー女子も好きな子いそうだねー」
「そうそう…って、健太くんのサークル、女子いるの?」
「うん。三人だけだけどねー」
「ちょっと!話が脱線してるって…」
と、担任の松原が教室に入ってきた。
「おはよーさん。ほら席つけー。お、岸田ー。自分のクラスもどれー」
「やば!じゃあまた放課後ね!」
岸田が慌てて教室から出て行った。
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その日の放課後のこと。
ハヤトはジムトレーニングがあるのであまり長居できないということで、事前に簡単にまとめてから説明してくれた。
昼休みの間に、アキラが清心学園について、そもそもあまりよくわかっていないということも判明したため、そこからのスタートとなった。
ちなみにアキラの認識は、同じ多聞市内にある女子高。制服がかわいいので、同じ中学に通っていた女子たちが高校受験の際に第一志望にする子が多かった。以上。
清心学園は1970年に設立された学園で、毎年二桁の現役東大合格生を輩出していることで有名な進学校だ。
建学の精神は「礼と学び」。品性と学識を備えた人間形成・自立した女性の育成を目標としており、週に1回礼法の授業がある。
体幹を保つ姿勢や歩き方、食事の作法、そして訪問・来客接待の作法など、目に見えない美しい心を動作で表すことが目的。らしい。
1学年、約200名。全校合わせて約600名が在学している。スポーツにも力を入れていて、数多くの選手が県大会、全国大会等で優秀な成績を上げている。
もちろんアキラも知っていた通り、有名なデザイナーがデザインした制服は近隣の女子から非常に人気があり、これを目当てに入学する生徒も少なくない。
そんな学園において、昨年秋の学園祭におけるメインイベント、生徒全員投票のミスコンで全学年から圧倒的な得票数を獲得し、1年をしてクイーンの座に輝いたのが彼女だ。
新聞部が生徒たちに取材を行ったところ、彼女に投票した理由はその美貌とプロポーション。だけではなかった。
学園の生徒の誰にでも分け隔てなく接する態度。優しい性格。学年でトップ3に入る頭の良さ。バスケ部でエースに次ぐ実力を発揮した高い運動神経。
訳がわからないほどの賞賛が集まったらしい。
その評判は、すぐに多聞市だけでなく近隣にも広まった。
それ以降、近隣から彼女を見るために色々な男子や芸能事務所のスカウトが学園に来た。
実のところ、学園のセキュリティガードマンは3割増員している。
また、入れ替わり立ち替わりに彼女に告白する男子も現れた。
あまりに多いので学園の生徒の紹介がない者は、取次ぎすら拒否されるようになった程だ。
ちなみに、坂ノ上高校のサッカー部のキャプテンと男バスのエースなど複数のイケメンが告白しに行っている。
で、それらの告白の結果だが、全て爆死。
美しいが、特に感情が見えない顔で、「ごめんなさい」と言われてオシマイ。
断られた側も「あ、ホント無理なんだ」と言うのがわかるらしい。
中には強引に迫ったり体に触ろうとした男もいたようだが、セキュリティガードの出番を待つ間も無く、周囲の女子によって排除されたらしい。それらの男に具体的に何が行われたのかは伝わっていない。
冷たい表情でことごとく男性の告白や芸能事務所のスカウトを断ることから、ついた異名が『清心学園の氷姫』。
『男嫌いの氷姫』の前に立った馬鹿な男どもは、みんな凍えて砕け散る。
「………ということだね」
「へー」
「あんたねえ。なんか他に感想ないの?」
「あー、うん。なんか大変だったんだなーって感じ。男絡みで結構嫌な思いとかしたんだろー?偶然だけど、怪我なくてよかったじゃん」
「…やっぱアホね」
「真島くんぽいね」
「ホンダくんは面白いねー」
みんな好き勝手言っているが、アキラには心配事があった。
「つうかさ、俺が突っ込んだ時にチャリが結構派手にぶっ壊れた気がするんだけど、もしもその部品でそのお姫様?が怪我とかしてたらどうなる?」
「あ」
「学園の女子生徒、全員で処刑ね」
「カンナ、甘いよ。ウチの学校の女子にもファンいるよ」
「アキラ、なんか思い当たる節があるのか?」
「顔とか全然見てねえしあんま覚えてねえんだけど、座ってる女の子、二人くらいいたか?その子たちの手を引っ張って立たせて怪我してないか聞いた気がする」
「で、返事は?」
「大丈夫って言ってた気がするけど、事故とかってその時気付いてなくても後から痛みが出ることあるっていうじゃんか。俺もちょっとだけ熱出たし」
「確かに後遺症ってそうよね」
「そうだけど、お礼を言いたいって言ってるくらいだから…」
「そんな訳なく無い?」
「いや、ウチの女子ならそれくらいのことは余裕でやるだろ!」
「「あ゛あ゛!?」」
そして打撲傷の青タンが消えてかけていた誰かの背中に、新たに大きな手形がついた。
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