第13話

「南町の滝澤高校2年、バスケ部の河村です!先月、うちの学校の女バスとの練習試合に来たあなたのことを見て、一目惚れしました!良かったら付き合ってください!」




 黒いスラックスに白シャツ、ショートカットの青年が、頭を下げて手を差し出した。なかなか爽やかな印象のイケメンに見える。


「おお〜」という小さな声が聞こえた。

 頭を下げた青年の後方に友人らしき青年たちが見える。

 彼らから聞こえてきたのだろう。





「…ごめんなさい」

 サキは顔色を変えずに断った。





 後ろの声は「ああ〜」という落胆の声に変わった。





 そのまま立ち去ろうとするサキを青年が呼び止めた。




「待ってください!本気なんです!先週事件があったけど、あなたのためなら僕は通り魔だって怖くありません!必ずあなたを守って見せます!」




 サキが振り返った。


「あなたがどんな人か知りませんが、絶対にお断りです。実際に怪我をした人もいるのに、サイテーですね。二度と声をかけないでください。私も二度と滝澤高校には行きませんから」


 凍てついた表情のサキは吐き捨てるように言い、その場を立ち去った。





 青年は一瞬サキを追う仕草を見せたが、他の友人に止められていた。


 少し離れたところを巡回中のガードマンが歩いている。

 先日事件が起こったばかりなので、警備体制を強めているようだ。






 学園近くの公園に四人の女子高生の姿があった。

「…サキ〜、ごめんって〜」

「なんなんですか!本当にサイテー。アイの頼みだから会いましたけど、二度と会いませんから。っていうか、誰も彼も!!!」

「ごめんねえ。滝高の女バスのキャプテンから頼まれちゃって〜」

 サキに向かって両手を合わせて拝み倒しているのが、サキと同じ清心学園バスケ部のメンバー、自称エースの葉月アイだ。


 風香と麻衣がブランコに乗っている。

「サキちゃん〜。さっきの断り方、めっちゃ怖かったよ」

「そうそう、まさに氷の女王って感じだったわ」

「マイちゃん〜違うよ〜。沙姫サキちゃんは、氷のお姫様だよ〜」

「そおねえ。また氷姫の記録が更新されたわね〜」


「風香〜、麻衣〜。氷はどこからきたの!」

「水だとインパクト薄かったんじゃない?知らんけどー」

「知らんけどー」

 風香と麻衣がブランコから飛び降りて逃げていった。


 サキが風香と麻衣を追いかけようとしたところ、後ろから近づいたアイに抱きつかれてしまった。

「だってぇ…、サキのこのないすばでーを手にするのが誰か気になるんだもん。…さっきの河村くん、滝高だと結構人気あるらしいよ」

「ムリ!ムリ!絶対、無理!!!」


 風香と麻衣が戻ってきた。

「でもさ〜サキちゃんが告白断るの何人目?」

「わからないわ。1年の時を含めたら相当行ってるんじゃない?」

「…だって、本当に苦手なのよ」

「初対面は無理って言っても、ウチ女子校だから基本みんな初対面から始まるんよ?」

「じゃあ、HAYATOくんとかもダメなの?知ってるでしょ?すっごいイケメンよ〜」

「モデルの?」

「あ、あの人って坂高なんだよね〜ベイロードで見たことあるよ〜」

「坂高かあ…」




 先日の事件の時に助けてくれたも坂ノ上高校の制服だった。

 でも、助けてもらったのに、お礼も言えていない。




 ベンチに座っていた風香のスマホに新着のオススメショート動画が届いた。

「あ、またこの間の通り魔事件の映像使った動画出てるよ〜」

「え?見たいかも!あたし見たことないんだ!」

 風香に反応したアイの後ろで、麻衣とサキは顔を見合わせて、ため息を吐いた。







 =================







 アキラの額の怪我は順調に回復した。


 入院中にはハヤトとナベちゃん、何故か須藤も一緒にお見舞いに来てくれた。

 休んでいる間の授業内容についてはナベちゃんがコピーをくれることになっている。

 柔道部の田中を筆頭にした友人あほどもからは、『美人の看護師さんがいたら写真送れ』みたいなクソメッセージしか来ていなかったので、ブロックしてやった。


 一度だけ打撲が原因の発熱があったものの、じいちゃんセンセーの許可も降り、週末には退院できた。

 痛み止めと化膿止めの薬を出してもらった。また、傷が治り切るまでの2週間は激しい運動はダメなので体育は見学すること。バイトもなるべくなら休んで安静にしておくこと。などの注意を受けた。

 傷口については水に強い医療用のテープをもらった。

 このテープを貼っておけば、入浴もオッケーになったしあまり擦らなければシャンプーも大丈夫だ。


 自宅に辿り着いたアキラは、バイト先である書店の店長に電話を入れた。


 ♪〜♪〜♪〜…。

 呼び出し中の音楽が少し流れた後、電話が繋がった。


「あ、店長っすか?お疲れ様です、真島っす」

「おお!真島くん!ニュース見たよ〜怪我したんだって?大丈夫かい?」

「お陰様で、なんとかあんま酷いことにはなって無いっす」

「そりゃあ良かった。安心したよ〜」

「ご心配お掛けしたみたいで、すんません。今、お電話良いですか?」

「ちょっと待ってね〜。レジ、二人でやってるから…、(うん、まじまくん、ちょっとはなれてもいい?)あ、大丈夫!」


 通話の後ろに聞こえていたBGMが静かになった。店の外に出てくれたらしい。

「いやいやいや!お待たせ!で、どうしたんだい?」

「6月のシフトなんすけど、傷が治るまでバイト禁止令が出たのと、この間、自転車壊れちゃいまして、新しいアシを調達するまで行けそうになくて、ちょっと6月いっぱいバイトに入れるかわかんないんですよ」

「ああ、そうだったね。でも、ちょうど新しいバイトの子が今月から入ったから、真島くんのところに入ってもらうことにしたんだ。もちろん、新人くんもみんなでフォローしているから大丈夫だよ。だから心配しないで怪我を治して!シフトはそれから相談しようか」

「ありがとうございます。マジですいません」

「ここだけの話ね、君がうちでバイトしてるってマスコミが嗅ぎつけたらしくてね。変な記者とか来たから、少し時間空けてから出勤してもらったほうが良いなって思ってたんだ!」

「なんか、ご迷惑ばかり掛けちゃって…」

「いや!君は良いことをしたんだからね!記者連中には本の1冊も買ってくれって言ったから、売り上げ伸びちゃったよ!あ、常連さんが君のこと心配してたから大丈夫そうって伝えておくね〜」


 レジにお客さんが並んで来ちゃった!という店長に改めてお礼を言って電話を切った。

 今度店に顔を出すときは菓子折りの一つも差し入れに持って行った方が良いだろうか。


 壁にかけたカレンダーをめくった。


 入院中に6月になっていた。

 制服も衣替えの季節だ。

 月曜からはワイシャツにネクタイとスラックスだけになる。

 間違えないようにしておこう。



 そういえば、結局先日の白ワイシャツは赤く染まってしまってポイされたらしい。

 ブレザーはクリーニング屋さんが血の染み抜きと汚れ取りを丁寧にやってくれたらしく、綺麗な状態で戻ってきた。

 アレだけ地面を転がり回ったのに、不思議と破れやほつれなどは無かった。

 ブレザーは3〜4万するらしいので、余計な出費が出なかったことにちょっとだけ安堵した。






 さて、自転車、どうしよう。







*****************



大体この辺りで1〜2話に追いつきました。



まずは御礼を。

この作品を読んでいただき、ありがとうございます。


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ラストまで楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします。

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