第11話

 MRI検査とCTスキャンの結果内出血などの異常は見られず、脳波も特に問題無いようだ。


 正明と陽子は入院のための着替えなどを取りに自宅に戻った。

 小一時間もかからず戻るだろう。


 血まみれになってしまった頭を看護師さんに濡れたタオルで拭ってもらい、少しさっぱりとしたアキラは、個室でハヤトと向き合っていた。



「で、どうしてこうなったんだよ」


「とりあえず、アキラはピンチの女子高生を助けるために、咄嗟に通り魔にチャリで突撃した馬鹿ゆうかんな男子高校生ってことにしたから」

「なんでだよ…」

「あのなあ…、考えてもみろよ。あの坂で『激坂下りレース』なんてアホな遊びして怪我人出したって知れたら、学校だけじゃなくて、親からもブチ切れられるぞ。停学?退学?きっと商店街も出禁。普通なら人身事故だし、それこそ警察案件」

「…そりゃ、そうかもしれんが」

「オレらだけならまだしも、今回はナベっちも一緒だったろ。お前の将来は仕方ないとしても、流石にナベっちに悪いし」

「あーナベちゃんに迷惑かけられねーよな…って、俺に優しくしてくれ!」

「十分優しいっしょ…」

「まあ、サンキュー」

「ああ。まあ、出来るだけ上手くやっておくよ。だから、アキラはボロだけ出さないように変なこと言わないようにしておけって」

「助かったよ。とりあえず、今週は学校休むわ。じいちゃんセンセーに何日か泊まれって言われたし」

「そうしとけ」


 ハヤトが左腕に着けた白のG-SHOCKに目をやった。

「そろそろ帰るわ。おばさんたちによろしく。明日学校終わったら顔出すから」

 窓の外は日が落ちて来ていた。


 ハヤトの自宅も南町にある。

 この病院からなら徒歩でも10分もかからないはずだ。




 「とりあえず、結果良ければ全て良し!ってことにするかなあ…」

 アキラは病室の窓から暗くなった街に灯る光を見つめてぼんやりと呟いた。







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「どうしてこうなったんだよ!!!」

 病院の個室のテレビの前で、アキラは慟哭した。







 翌日も病院特有の味気ない食事を済ませたアキラは、各種検査を受けることになった。

 打撲で痛む体を引き摺って色々な検査を受けていく。

 言われるままに検尿を出し、言われるままにレントゲンを撮る。


 全身の打撲も比較的軽症で内出血などはなかったし、就寝中に急な発熱が起こることもなかった。

 朝、診察に来たじいちゃんセンセーには、「丈夫に産んでくれた親に感謝せえよ」と言われた。


 一通りの検査が終わり部屋に戻ってきた。

 ベッドに寝転んでぼんやりと天井を見つめた。

「昨日から知ってる天井だ」

 やっぱりなんか違う気がする。


 スマホを見ると、友人から何件もメッセージが届いていた。

 どうせ碌でもないことだろう。後で見ればいいか。

 惰性で続けているスマホゲーをやってみたが、いまいち面白くない。

 痛み止めは飲んだけど、やっぱり全身痛い気がする。


 何の気なしに部屋に置いてあったテレビを点けた。

 ワイドショーが流れている。


「(そういえば、なんとかって俳優が結婚したって母上様が騒いでたっけ。よく見てなかった。誰だったっけ…。どっかで特集とか組んでそうだな…)」

 そんなことを思いながらチャンネルを変えていると、なんだか見覚えのある商店街が画面に映し出された。



 マイクを持ったスーツ姿のレポーターとおばちゃんが映っている。

『………ということでですね、この多くの人で賑わう平和な商店街で、昨日、白昼堂々、凄惨な事件が起こってしまったんですね!!』

『レポーターの反町さん〜。事件を目撃された商店街の方にインタビューは出来ましたか〜?』

『はい!我々はですねえ!事件を目撃されたこちらの雑貨屋の店長さんからお話を伺うことができました!店長の今井さんです!昨日のお話をお聞かせください!』


レポーターがマイクをおばちゃんに突き出した。

『昨日の午後のことですよね〜。白いタンクトップにハーフパンツ姿の大柄な男性が商店街を何度も何度もうろうろしていて、ちょっとおかしい人がいるな〜って話をスタッフとしていたんですよ。まだちょっと肌寒い時もあるじゃないですかあ。特に昨日今日は結構寒かったし。流石にタンクトップは早いわよね〜なんて話をしてたんです。それでしばらくしたら、あそこのファミレスのあたりで悲鳴がしてね〜』

『通り魔が出た、ということですね!』

『そうなのよ〜。なんでも取り押さえようとした警察の方も刃物で切り付けられて怪我をされたって話でねえ。気になったから私見にいったのよ』

『どんな状況だったんですか?』

『その通り魔がねえ刃物振り上げて騒いでたら、自転車に乗った高校生が突っ込んで行ってノックアウトしちゃったの!』

『どこの高校の生徒かご存知ですか?』

『もちろんよ〜この先の坂ノ上高校の生徒ね〜』



 レポーターとおばちゃんが一緒に進んでいくと、歩道の端に警察のものらしき黄色いテープで囲われたボロボロの自転車が現れた。



『それがこの自転車!という事なんですね!』

『そうみたいねえ』

『ちなみにこの商店街は自転車の通行は大丈夫なんですか?』

『押して歩くのは大丈夫だけど、乗り入れは禁止ねえ』

『では、その高校生は通行禁止なのに自転車を乗り入れたということでしょうか?』

『あら、嫌な言い方するわねえ。坂ノ上高校の子は礼儀正しい子ばかりで、そんなことする子見たことないわあ』

『失礼しました。ですが、実際にここに自転車があるということはですねえ』

『ここは商店街の一番端っこなのよ!そこに、駐輪場もあるから、きっとたまたまそこに来てた子よ!…あんた、どこの局って言ってたかしら。ちょっと教えてほしいわね』

『ア、アハハハハ…。そ、それではスタジオにお戻しします!』




 画面がスタジオ風景に切り替わった。

 男性MCの前に数人のコメンテーターが座っている。




『あ、反町さ〜ん。…えっと、それではCMの後、当番組の取材陣が入手したマル秘映像がありますので、それを見た後にコメンテーターの皆さんのご意見を伺います〜。チャンネルはそのままで!』

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