第4話 宝珠の儀
宝珠の儀。
その年その月、齢18歳になる若者が国中から集められ、行われる宝珠への「謁見」の儀式。
「謁見」とは、国宝「
とは言え、ほとんどは反応なしで終わる。良くても少し赤く光ったり、宝珠から熱がぼんやり発生したりするくらいで、炎のオーラが揺らめくといったことは滅多に起こらない。その炎のオーラも、今の王認騎士団長が20年前に出したのが最後である。
そのため、「宝珠の儀」は今ではほとんど成人式と同じような扱いとなり、実際結構な人数が国内を移動するため、街道沿いのお店や城下の街は景気も良くなる。「宝珠の儀」に参加する若者も、ほとんどが「ダメ元」で参加してるので、宝珠が反応しなくても気にも留めない。「こんな機会でもなければ、一生お城の中になんか入れないし。」ということで、旅行がてら家族ぐるみで来ている者がほとんどである。
運よく何らかの反応があった者は、本人の希望を確認したうえで王立アカデミーへ入学し、改めて自分の相性の良い精霊を確認しつつ、その力を高めていく。アカデミー卒業後は、そのほとんどが「精霊士」となり、国家のために従事することになる。
中には反応がないことにあきらめきれず、「もう一度お願いします!」と懇願する者(特に貴族の子息とか)もいるようだが、1回目で反応がなければ「見込みがない」というのが、今の常識だ。
だから・・・
俺なんか、気楽なもんだ。
まずそんな「立場」に興味がない。自由を奪われそうで、勘弁してほしい。
それに・・・父さん母さんは二人とも「精霊士」として王宮に仕えていたが、あの日は珍しく二人で一緒に任務に出ていったけど・・・二人とも帰ってこなかった。
あの日俺が預けられていたカティナの家に帰ってきたのは、二人が使っていた「
母ジュンが使っていた青白く輝く結晶は、水の精霊を。
父オルハが使っていた赤銅に輝く結晶は、大地の精霊を秘めている。
俺はそれぞれに父母の名前をとって「ジュノー」と「オルハリス」と名付けた。
精霊が呼びかけに答えてくれるまでには、1年かかった。
今ではその精霊の力を借りて、鍛冶士を生業としている。
水の精霊は温度調節、大地の精霊は金属の変形を補助してくれるので、助かっている。
このまま、二人の精霊と共にあれば、それでいい。
それが俺の偽らざる本音だ。
仇討ちも考えなくなかったけど、今の俺には難しいのは十分わかっている。
それよりも身近なこの街でできるだけ平和に暮らしたい。
戦いや争いで何かを失うのは、もう嫌だ。
ただ、身寄りのなくなった俺を育ててくれた、カティナの家族。
責任を感じているのか、よく使者を出して気を使ってくれるナイン現王。
この人たちに対しては、不義理なことはできない。
今日登城し、「宝珠の儀」を受ける理由は、そんなもんだ。
────────────────────
「じゃあ 私はここで待っているから、いってらっしゃい」
「ありがと。帰りは美味しいものでも食べにいこう」
「やったー!もちろんサガのオゴリでしょ?」
「・・・なんで祝われる方がオゴらにゃならん?」
「今朝のコトばらすわよ?」
「それ『脅迫』っていうの知ってるか?」
「みなさ──────ん、今日ね───」
「わ───!!わかったから実行すんな!」
「私のかちぃ♪」
「・・・・・ハイハイ。行ってくるわ」
「行ってらっしゃいー。」
扉の向こうへ消えたサガの背中に向かって心配そうにカティナが呟く。
(気をつけてね・・・・サガ)
────────────────────
「宝珠の儀」は大広間に最初集められ、その後個室に少人数ずつ分けられ、一人ずつ「謁見」を行う。それぞれの反応を見せないようにしたのは、お互いへの配慮なのだろう。
俺はどうもクジ運が悪いのか、この日の最後に謁見することになった。
・・・マズイ、カティナがイライラしてなきゃいいけど・・・。
そういや、あいつは去年受けてたっけ。
明るく「だーめでーしたー♪」って帰ってきたっけ。
まあ大体はそーなんだし、俺もさっさとやってオサラバしたい。
「次の者、こちらに」
「はっ」
「宝珠の間」に足を踏み入れる。周りは王認騎士や精霊士がいるようだが、思ったより数は少ない。
全てを見せるわけにはいかない、といったところだろうか。
王の前に「
王の前で跪き、王よりの言葉を待つ。
「サガよ、よく来た。・・・息災であったか?」
「は。王におかれましては・・・」
「そんな堅苦しい挨拶はせんでよい。お主は我が孫同然と思うておるのだぞ」
「身に余るお言葉、感謝の言葉もございません」
「よいと言うておるのに・・・まあよい。サガよ、この儀の後は時間が取れるか?」
「恐れながら、待ち人がいます故・・・」
「なんじゃつれないのう・・・そうじゃ、その待ち人もつれてまいれ」
「いやしかし」
「お・う・め・い・じゃ♪」
「・・・いつもずるいですよ?それ・・・」
「サガがつれなくするからのう、お返しじゃ」
・・・・これがあるからこの王様は・・・・
まあ、周りに控えている人も慣れているので、笑っているのが救いか。
基本、良い人たちばかりなんだよなあ・・・
「コホン、ではサガよ、改めて宝珠に『謁見』せよ。汝が行く末を、「
「は」
改めて目を宝珠に向ける。
それまで緩んでいた空気が、瞬く間に変わり、皮膚に刺さるような緊張感が漂う。
いや、ただ宝珠に手を数秒かざして終わり、ただそれだけなのに、なんだこの空気は。
身体が、腕が、ゆっくりとしか動かない。
何か水か油の中で動いているようだ。
なんとか手を宝珠にかざす。
あと数秒の我慢だ。
それで、解放される。
(─────えるか・・・)
(・・・聞こえるか・・・)
は?
(・・・聞こえるか 選ばれしものよ・・・)
はい?
(・・・我と我が力を共に・・・)
うそだろ 遠慮したいんだけど
(・・・おい 聞こえてるか・・・)
・・・よし 幸い周りに聞こえてないな?
聞こえないフリをして逃げよう ワタシ、キコエテマセーン
・・・ぶちっ。
(おぉいコラーーーー!聞こえないフリすんなぁぁぁあぁぁ!!!)
瞬間。
宝珠が赤く紅く輝き辺りを照らす。
続けてオーラが火焔が渦巻くように立ち上がる。
豪ッ!!!!!!!
──────「「「「・・・・えぇぇ・・・・」」」」
・・・・見上げれば、天井から覗く青空。
「宝珠の間」には火傷もなく呆然と佇む一人の若者と、今は輝きを失った宝珠。
と・・・表情を失った周囲の面々。
ただその中で、王だけが愉快そうにその光景を見ていた。
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