美琴 side ④

 

 美琴 side ④




『……このクソ女め!!!!』


 ガチャン!!!!!!


 耳元に鳴り響く大きな声と、受話器を叩き付けたような音が、私の耳から少し離れたところから聞こえてきたわ。

 ふふふ。彼女が激昂して受話器を叩き付けるのは予想してたことよ。予め耳から離しておいて正解ね。


 結花さんとの電話はとても有意義な時間だったわ。


 瑠衣の話から『南祐也くんと結花さんは義理の兄妹』だと言うことは確信に近い想像はしていた。

 でも、想像は想像。

 一応確認をしておいて正解だったわ。


 そして彼女がどれだけ本気で南くんを好きかも知ることが出来たわ。


「ふふふ。あの様子だと彼に近づく異性は軒並み排除してきたんでしょうね」


 南くん自身の性格もあると思うけど、彼が他人と話すことが無くなったのは、結花さんが原因でもあると思うわね。


『他の人と時間を過ごすことよりも、最愛の妹との時間を大事にする』


 きっと南くんの頭の中はこんな感じでしょうね。


 結花さんは南くんを『異性として好き』なのに、南くんは彼女のことを『最愛の妹』としてしか見ていない。

 このお互いに『愛し合ってる』と言っても過言では無いけど『愛の種類が違う』と言うわけね。


 電話を終えた私は、そのまま瑠衣に電話をかけたわ。


 数回のコール音の後、彼女が電話に出たわ。


『はい。もしもし。どうしたんですか七瀬先輩?』

「ふふふ。いきなり電話をしてごめんなさいね。時間は大丈夫かしら?」

『ええ。大丈夫ですよ。祐也先輩との勉強会は先程お開きになったので』


 南くんとの勉強会?

 そんな羨ましいことをしてたのね。

 でも、今はその事を聞く予定では無いわ。


「南くんとの勉強会について聞きたいところだけど、今は置いておくわ」

『そうですか。それで?一体なんの要件ですか??』

「えぇ。早速だけど先程結花さんと電話をしたのよ」

『なるほど。行動が早いですね。結花は驚いたでしょうね』

「えぇ。驚いてたわよ。心の落ち着きを取り戻す前に、聞きたいことを聞き出すことが出来たわね」

『七瀬先輩も性格が悪いですね』


 瑠衣のその言葉に、私は内心で笑って居たわ。

 だってそうでしょ?

 本当の私は性格の良い女なんかじゃない。

『学園の聖女様』なんて言葉は本当にうんざりする。


「自分の性格の悪さは自覚してるわ。ふふふ。でもとても有意義な時間だったわ。ねぇ瑠衣。南くんと結花さんは義理の兄妹だったのね」

『えぇ。そうですよ。このことを知ってるのは、私と結花と祐也先輩だけでした。因みにですが、祐也先輩は結花や私がこのことを知ってることを、知りません』


 瑠衣はそこまで言った後に、小さくため息混じりで言葉を続けたわ。


『悔しいですよね』

「……悔しい?何がかしら??」


 私が問いかけると、瑠衣はぽつぽつと話し始めたわ。


『だって、私や結花は祐也先輩を『異性として好き』なのに、向こうはこっちを『異性』として見てないんですよ。結花は祐也先輩にとっては『世界で一番大切な妹』で私は『妹の友達』ってレベルですよ』

「……『ただのクラスメイト』な私から聞いたら羨ましいような発言ね」

『あはは……まぁそうかも知れませんね。ですから私も結花もまずは祐也先輩に『異性』として見てもらわないと、話になんないんですよ』

「……そう」


 南くんにとっての二人は『大切な人』の枠の中だけど、それは彼にとって『異性』と言う扱いでは無いのね。

 それが二人にとっては嬉しいことでもあるけど、最終的に目標にしてる立ち位置に辿り着くためには重荷なのね。


「そう考えれば、スタートラインは一緒ね」

『そうですね。私としては七瀬先輩が『本気』になる前に決着をつけたいところですね』

「あら?そんなことを考えてたのね」

『そうですよ。現状では私が一番脅威に感じてるのは七瀬先輩ですからね』


 まぁそうね。

 南くんとの接点が結花さんの次に多いのは私だもの。


 正直な話をすれぱ『南くんを逃したら、他にまともな男は居ない』って確信はある。

『好き』と言う感情は後からついてくるものだと思ってる。

 私が彼を『好き』になった時に『南くんが他の誰かの物』になってたら後の祭りだわ。


 だから私はこの『確信の得られない感情を抱えたまま南くんと仲良くなる』という選択肢を取るわ。


「ありがとう瑠衣。お陰で私の『覚悟』が決まったわ」


 私がそう言うと、電話越しに瑠衣のため息が聞こえたわ。


『はぁ……あーあ。余計なことを言うんじゃなかったなぁ……』

「そうね。瑠衣が望むならお礼として『勉強を教える』こともしてあげるわよ?私は南くんより頭が良いもの」

『結構です。私が祐也先輩に勉強を教えて貰ってるのは、先輩との時間が欲しいからです』

「ふふふ。わかってるわよ。じゃあね、瑠衣」

『はい。では失礼します。七瀬先輩』


 私と瑠衣はそう言って通話を終えたわ。


「さてと。それじゃあ今日の分の宿題を進めようかしらね」



 私はそう呟きながら勉強に取り掛かったわ。


 そして、今日の分の宿題を終えて、気になっていたラブコメ小説の続きを読もうと、スマホを手に取った時だったわ。

 スマホのメッセージアプリが、私にメッセージを受信した。と伝えて来たわ。


「あら、誰かしら?」


 私がそう呟きながらアプリを起動して、内容を確認すると、送り主は南くんだったわ。





『こんばんは。七瀬さん。夜分にごめんね。明日の午後にもし予定が無ければ会えないかな?ちょっと妹の結花も一緒に話をしたいと思っててね。返事を待ってるよ。』

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