結花 side ②
結花 side ②
「ただいまぁ……今日も疲れたぁ……」
夏休みの二日目。
時刻は十六時。
部活を終えて家に帰って来た私は、クタクタで玄関に座り込んじゃった。
全国大会に出場するためには、まずは地区大会と県大会を勝ち進まないとならない。
その為の最後の追い込み練習で、もう身体の疲労が限界だった。
この疲れをしっかりとって、大会に望むことになる。
お兄ちゃんの通う海皇高校にスポーツ推薦で入学するためには、少なくとも全国大会で入賞する位の成績は必要。
負ける訳には行かない戦いがこれから始まる。
「おかえり、結花。今日も大変だったわね」
台所で夕飯の支度を進めていたお母さんが、私を迎えに来てくれた。
「大変だったよぉ……でも、スポーツ推薦で入学するためには大会を勝ち進まないとだからね」
「そうね。ふふふ。結花は祐也と違って『おバカさん』だからね」
「お、お母さん……娘におバカさんは酷いよ……」
疲れてヘトヘトの私はお母さんの言葉に突っ込む気力も無かった。
早くお兄ちゃんに会って『お兄ちゃん力』を得たいところだったけど、お兄ちゃんはアルバイト中……
いや、正確にはアルバイトはもう終わってて、この時間は『瑠衣ちゃんとお勉強中』だと思うかな。
昨日の電話では瑠衣ちゃんと『本音をぶつけ合う事』が出来た。
あの一件があったからこそ、私たちは本当の意味での『
そして私は最後の力を振り絞って洗面所へと行って、制服を脱いで部屋着に着替える。
「今日が休みだったら良かったのに。『お兄ちゃんの最初のお客さん』になりたかったなぁ」
そんなことを呟きながら洗面所を後にすると、珍しいことが起きた。
リーン。リーン。リーン。
滅多に鳴る事が無い家電が着信を告げていた。
家族全員。携帯電話で通話をするのがほとんど。
家電にかかってくる事なんてほとんどない。
「結花ー。ちょっと電話に出てもらっていい?」
ちょうど電話の前にいた私に台所に居たお母さんからお願いをされた。
「一体誰からなんだろ??勧誘かな」
後はたまに支持政党は何処ですか?なんて聞かれたりするらしい。
珍しい出来事に少しだけ楽しみな気持ちになりながら、私は電話に出た。
「はい。もしもし。どちら様でしょうか?」
携帯電話と違って相手が誰だかわからない。
私は相手の名前を先ず聞いた。
情報を渡したくは無いので、こちら側を名乗るのは辞めておいた。
すると、電話先の声は『若い女性』だと言うことがわかった。
『私は七瀬美琴と申します。南さんの家電で間違いありませんか?』
七瀬美琴?一体誰だろうか。
声の感じからして私より少し歳上な感じがする。
お兄ちゃんくらいだろうか。
そんなことを考えながら言葉を返す。
「はい。そうです。南家です。七瀬さんは一体どのようなご要件でしょうか?」
すると七瀬さんは『私の名前』を出してきた。
『はい。南結花さんに用があって電話を致しました。失礼ですが、ご本人様でいらっしゃいますか?』
「…………はい。私が南結花です」
七瀬美琴なんて名前の知り合いなんか居ない。
何故私の名前を知ってる?
お前は一体誰なんだ?
私は怪訝な気持ちを隠しきれないまま問いかける。
「七瀬さんは何故私の名前を知ってるんですか?私に七瀬美琴なんて知り合いは居ません」
『貴女の名前は瑠衣から聞きました。ふふふ。彼女とは今日仲良くなったんですよ』
る、瑠衣ちゃん!!??
私はどんどん訳がわからなくなっていく。
私の知らないところで一体何が起きてたの!!??
しかもこの七瀬という女は瑠衣ちゃんを『瑠衣』と呼び捨てていた。
つまり『それくらいの間柄』になっているってこと。
今日の今日でそんなことがあるの!?
「そ、そうですか。瑠衣ちゃんが私の名前を出してたんですね。因みに七瀬さん。貴女は一体誰なんですか?」
『ふふふ。私は海皇高校の二年生です。貴女のお兄さん。南祐也さんのクラスメイトで、同じ学級委員に従事している人間です』
……お兄ちゃんのクラスメイト。
そして、お兄ちゃんと同じ学級委員。
……………………そんな女が何故私に電話をした?
「……そうですか。それで七瀬さんは何故私に電話したんですか?瑠衣ちゃんに私の名前を聞いてまでする理由は何ですか??」
『ふふふ。瑠衣から言われたんですよ。南くんと仲良くなりたければ、まずは結花さんに話をするべきだと』
「………………電話を切っていいですか?」
敵だ。この女は私の敵だ。
するとこの女は敬語を辞めて『本来の口調』で話を始めた。
『ふふふ。電話を切っても構わないわよ。私は貴女と話をしたかっただけ。元より許しを得るつもりなんて微塵も無いわ』
「へぇ……」
すると、この女は私が驚愕することを言ってきた。
『ねぇ結花さん。貴女は南祐也くんの義理の妹なのよね?』
「な、なんでそんなことまで知ってるのよ!!??」
私が思わずそう言うと、電話先でケラケラと笑う声が聞こえた。
『あはははは!!!!確信が持てずにいたけど本当だったのね。今の貴女の言葉で私は確信を得たわ』
「……このクソ女め!!!!」
ガチャン!!!!!!
私は感情に任せて電話の受話器を叩き付けた。
何なの!!何なの!!!!何なの!!!!!!
七瀬美琴。
お兄ちゃんのクラスメイトで同じ学級委員。
そして……私の敵!!!!
瑠衣ちゃんから私の名前を聞いたということは、お兄ちゃんのアルバイト先にも行ってるってこと。
それはつまり、私が部活動で身動きが取れない時に、いくらでもお兄ちゃんに会いに行ける立場でもあるってこと。
そして、夏休みが終われば学校では一緒のクラスで、しかも学級委員で共に過ごす時間まである。
敵は瑠衣ちゃんだけだと思ってた。
油断した!!こんな所にも敵が居たなんて!!
でも当然だ。お兄ちゃんは世界で一番素敵な男性。
一緒に居たら好きにならないはずがない。
どんな姿をしてるかはわからない。
声も電話越しだから、生声はわからない。
敵の情報が何も無い。
集めなければ。早急に。七瀬美琴のことを知らなければ戦えない!!
そして、お兄ちゃんにとって『七瀬美琴とは何なのか?』それを知らないといけない。
私はスマホのメッセージアプリでお兄ちゃんにメッセージを飛ばした。
『ねぇ、お兄ちゃん。七瀬美琴ってお兄ちゃんにとっての何なの?』
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