第十七話 アルバイトの初日を終えた俺は、瑠衣ちゃんたちと一緒に昼ご飯を食べる事になった。
第十七話
「……あぁ。疲れた。これで今日のアルバイトは終わりかな」
時刻は正午になるところ。
俺の勤務時間の終了だった。
いきなりフルタイムの八時間なんて無理だったな。
隆二さんが最初は四時間で。と言っていた意味が理解出来た。
もう身体はクタクタだし、精神的にもかなり疲れた。
まぁ、今日は『色々なこと』が起きすぎてたよな。
いきなり七瀬さんがお客さんとしてやって来たり、
ガラの悪い変な客が来たり。
あの後は普通のお客さんだけが来てたから、これが通常営業なんだよな。
そんなことを考えていると、隆二さんが俺に笑いながら話しかけてきた。
「あはは。お疲れ様祐也くん。今日はこれで終わりだからね」
「はい。ありがとうございます。隆二さん」
「君の真面目な働きぶりのおかげで助かったよ。また明日もよろしくね」
「そう言って貰えると嬉しいです。明日も頑張ります!!」
俺がそう言葉を返すと、隣に居た瑠衣ちゃんが嬉しい提案をしてくれた。
「祐也先輩。お昼ご飯の予定って考えてますか?」
「いや、特には無いかな。近くの牛丼屋とかで食べようかと思ってたけど」
「その……でしたらうちで食べていきませんか?」
「……え?いいの??」
俺がそう言うと、その会話を聞いていた隆二さんが懸念を払拭してくれた。
「あぁ。全然問題無いよ。この後賄いを作ろうと思ってたところだからね。良かったら一緒にどうかな?」
「そうですね。隆二さんの手料理が食べれるのは俺としてもありがたいですね。この後は瑠衣ちゃんに勉強を教えるところでしたし」
「その……私としては勉強を見てくれるのは嬉しいんですけど、祐也先輩はお疲れじゃ無いですか?」
少しだけ心配そうな瑠衣ちゃん。
確かに疲れはあるけど、約束は約束だからな。
俺は彼女の心配を払拭するように、微笑みながら言葉を返した。
「あはは。大丈夫だよ瑠衣ちゃん。俺としても楽しみにしてたところだからね。それに、未来の後輩のために尽力するのは先輩の務めだよ」
「わ、わかりました。ありがとうございます祐也先輩!!」
「祐也くんが勉強を見てくれるなら、瑠衣の試験も安心だな。それじゃあ賄いを作るから適当なテーブルで待っててくれ」
「はい。ありがとうございます、隆二さん」
「はーい。お父さん。私はスパゲティが食べたいなぁ!!」
「あはは。それじゃあ瑠衣の要望に合わせてベーコンときのこスパゲティを作ろうかな」
「わーい!!」
小さな子供のように無邪気な笑顔になる瑠衣ちゃん。
可愛いなと思いながら俺たちは近くのテーブルで向かい合って席に着いた。
「今日はありがとうございました。祐也先輩」
席に座った俺に瑠衣ちゃんはコップに水を注ぎながら感謝を告げてくれた。
「別に大したことはしてないよ。俺よりも声を上げてくれた七瀬さんに感謝しないとだよね」
コップの水を一口飲んでから俺は彼女にそう返した。
あの場で七瀬さんが声を上げてなければ『従業員に対してだけ不遜な態度をとる』ってだけだったからな。
出禁には出来なかったわけだし。
「それでも、私はとても助かりました。七瀬先輩にもあの後話をして、感謝を伝えておきました」
「……そうか。てか、いつの間に七瀬さんと仲良くなったの?」
七瀬『先輩』と呼ぶ瑠衣ちゃん。
彼女は『親しい間柄』と認めた人にしか『先輩』という言葉を使わない。
さん付けで呼ぶことがほとんどだからだ。
だから俺は彼女から最初は『お兄さん』とか『南さん』って呼ばれてたんだから。
あのひと時で何があったんだ?
「あはは。七瀬先輩とは『シンパシーを感じる部分』があったんです。多分向こうも同じだったと思うんです」
「そ、そうなんだ……まぁ、瑠衣ちゃんの未来の先輩でもあると思うからね」
一体何処にシンパシーを感じたんだろうか?
お互いに『めちゃくちゃ見た目の良い女の子』だからな。
男の視線とかで苦労してる。とかだろうか。
まぁ考えても仕方ないことだし、仲良くなることは悪いことじゃない。
俺はそう結論付けることにした。
「お待たせ。瑠衣の要望に応えてベーコンときのこのスパゲティだよ」
「わーい!!やったね!!」
「わぁ……これは美味しそうですね!!」
瑠衣ちゃんと話をしていると、賄いを作り終えた隆二さんがスパゲティを持ってこちらへとやって来た。
使われているのはお客さんには出せない『ベーコンやきのこの切れっ端』をたっぷりと使った具だくさんのスパゲティだった。
「なんだか賄いの方が具だくさんで美味しそうに見えてきますね」
何回かこの『ベーコンときのこのスパゲティ』は注文したことがある。
だが、こんなに具だくさんだったことは無かったからな。
「あはは。祐也先輩。賄いの方が正規の料理より『美味しい』ってのは飲食店あるあるですからね!!」
「なるほど。こんな所でもアルバイトの恩恵にあずかれるなんてな。その隆二さん、これはおいくらですか?」
流石にこの料理を無料でいただくのは申し訳なさ過ぎる。いくらかお支払いをしなければと思って聞いたけど、隆二さんからは
「こんなのでお金を取るわけには行かないから無料だよ」
と言葉を返された。
「そうですか……じゃあお言葉に甘えます」
「僕としても君と一緒に食事をしたいと思ってたからね。念願が叶って嬉しいくらいだよ」
「ねぇねぇ!!早く食べようよ。冷めちゃうよ!!」
スパゲティを目の前にして、年齢相応みたいな瑠衣ちゃんの言葉に急かされて、俺と隆二は軽く笑みを浮かべていた。
「あはは。ごめんね瑠衣ちゃん。じゃあ食べようか」
こうして俺たちは「いただきます」と声を揃えてから、昼ご飯を食べ始めた。
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