美琴 side ③ 後編

 

 美琴 side ③ 後編



「それじゃあこのコーヒーは下げさせてもらいますね」


 席へと戻った私に、瑠衣さんがまだ手を付けてないコーヒーを手に取ってそう言ったわ。


「それは捨てちゃうのかしら?ちょっと勿体ないわね」


 まだ一口も飲んでないコーヒー。

 砂糖もミルクも入れてないわ。

 私がそう言うと、瑠衣さんは首を横に振って少しだけ安心出来る言葉を言ったわ。


「いえ、このコーヒーを使ってゼリーを作ると思います。お家でもたまに出てくるんです」

「あら、そうなの。もし良かったらそれを頂けたりするかしら?」

「はい!!大丈夫ですよ!!とても美味しいのでオススメです!!」

「ふふふ。じゃあ楽しみに待ってるわね」


 そして、私は瑠衣さんに少しだけ気になっていたことを話したわ。


「ねぇ、店員さん。ちょっと聞いても良いかしら?」

「……?はい。何でしょうか??」


 首を傾げる彼女に私は聞いたわ。


「……貴女。南くんを『異性として』好きよね?」


 私がそう問いかけると、瑠衣さんの目がスっと細くなったわ。

 ふふふ。これは『当たり』ね。


「はい。誤魔化すつもりは微塵もありませんからね。私は裕也先輩が好きですよ」

「ふふふ。野暮なことを聞いてごめんなさい。頭を撫でて貰ってる時の表情ですぐにわかったわ」


 私がそう言うと、瑠衣さんは顔を真っ赤に染めたわ。


「す、好きな人にあんなことをされたら誰だってああなります」

「そうね。私も少し『羨ましい』と思ったわ」


 私が率直な感想を言うと、彼女は予想していたように私にも聞いてきたわ。


「お客様……いえ、七瀬さんは裕也先輩のことをどう思ってるんですか?」


 ふふふ。私のことは南くんから聞いていたのね。

 もしかしたらさっきのひそひそ話はそれだったのかも知れないわね。


 そう結論付けた私は瑠衣さんに言ったわ。


「南くんを『異性として好き』と言うのはまだ無いわ。でも『とても素敵な男性』という評価はしてるわね」

「……そうですか。裕也先輩がとても素敵な男性だと言うのは否定しません。同年代の胸ばっか見てるような下品な男ばかり見てるからかも知れませんが」


 冷めた目でそう言う彼女。

 私も似た経験が多くあるから共感出来るわね。

 制服の上からでもわかるくらいの豊かな膨らみ。

 私も小さくないし、大きい方だとは思ってるけど、私より二サイズは大きそうね。


 これだと異性からだけじゃなくて、同性からも煩わしい視線を向けられていそうね。


 そう言うところも私と似てるわね。

 彼女とは『仲良くなれる確信がある』

 私はそう感じたわ。


「ふふふ。私も同じよ。同年代の見た目だけ見てくるようなゴミ共とは彼は違うわ」


 私は彼女そう言葉を返してから、右手を出したわ。


「お友達になりましょう?瑠衣さん」


 その言葉に瑠衣さんは大きく目を見開いたわ。

 そして、逡巡したあとに言葉を返してきたわ。


「……わかりました。七瀬『先輩』。それと名前は呼び捨てでいいですよ」


 私の右手を握り締めながらそう言う瑠衣。

 七瀬『さん』では無く『先輩』と呼んでくれたのが進展かしらね。


「ふふふ。わかったわ瑠衣」

「ありがとうございます」


 そして、友達になった瑠衣が私に言ってきたわ。


「裕也先輩と仲良くなろう思うのなら、先輩の妹……結花には話しを通しておくことをオススメしますよ」

「南くんには妹が居るのは知ってるわ。そして彼が妹さんを溺愛してることも」

「結花も先輩を『異性として好きな女の子』その一人ですからね」


 興味深い話を聞いたわ。

 南くんの妹さんは、彼のことを『異性として好き』

 つまり……


「これ以上は私からは話すことはありません。先輩が考えて答えを出してくださいね」

「ふふふ。ありがとう瑠衣。良いことが聞けて嬉しいわ」

「……私は誰が相手でも負けるつもりはありません。結花にも。そして『学園の聖女様』なんて呼ばれている貴女にも」


 ……へぇ、その『不愉快な二つ名』まで聞いていたのね。

 瑠衣は一つ礼をして、コーヒーを持って調理場へと向かって行ったわ。


「南くんの妹さん……ラブコメラノベで良くあるように『血が繋がってない義理の兄妹』ってことよね」


 創作の世界では『良くある話』だと思うわ。

 でも現実にそんなことがあるなんてね。


「ふふふ。まずは南くんの中で『大切な人』って枠に入れて貰えるようにしようかしらね」


 新しく店内にやってきたお客さんに対して、しっかりとした接客をしている南くんを眺めながら、私は心にそう決めたわ。



 そして、新しく入れてもらったコーヒーと冷めてしまったコーヒーを使ったゼリーに舌鼓を打った私は、お会計に向かったわ。


 そこではコーヒー代とゼリー代を支払おうかと思っていたのに、請求されたのはコーヒー一杯分だけだったわ。


「コーヒー代とゼリー代を支払うつもりだったのだけど?」

「あはは。流石に一杯分くらいはサービスさせて欲しいかな。俺もそうだけど、謙遜のし過ぎもダメらしいからね」


 少しだけ苦笑いをしながらそう言う南くん。

 そうね。確かにそれも一理あるわ。


「あらそう?だったらお言葉に甘えようかしらね」


 そして私はレジを打つ南くんに『微笑み』を向けながら話をしたわ。


「それじゃあ南くん。とても美味しいコーヒーとゼリーをありがとう」

「こっちこそ色々迷惑をかけてごめんね」


 申し訳なさそうな表情でそう言う南くん。

 私は南くんが言うことを予想してたから、彼に対して『お願い』をすることにしていたわ。


「ふふふ。それじゃあ一つだけお願いをしようかしらね?」

「……お願い?」


 私のその言葉に首を傾げる南くん。

 ふふふ。私は彼と親睦を深めるために『デートの誘い』をしてもらう事にしたわ。


「ええ。花火大会とは別に何処かに遊びに行きましょう?日程と場所は南くんが決めてちょうだい」

「……それは。わかった。考えておくよ」

「ふふふ。楽しみにしてるわね」


 南くんから了承の返事が得られた私は、満足をして彼に言葉を返したわ。


 こうして私は南くんのアルバイト先を後にして、家に帰ることにしたわ。


 南くんの事を知れた有意義な時間だったと思うわね。

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