美琴 side③ 前編
美琴 side③ 前編
カタカタと揺れる電車の中。
私は窓から流れる景色を眺めながら今朝のことに思いを馳せていたわ。
夏休みの二日目。とびきりのおめかしをして私が向かったのは、南くんがアルバイトを始めたと言っていた喫茶店『ル・マンド』だったわ。
お気に入りの白のワンピースに、少しだけお化粧をして、彼の『初めてのお客さん』になる為に、早起きをして身支度を整えたわ。
『じゃあお母さん。ちょっと出掛けて来るわね』
『あら、随分とおめかししてるわね。デートかしら?』
お母さんが揶揄うような表情でそう言ってきたけど、デートでは無いわ。
『ふふふ。デートでは無いわよ。ちょっとクラスメイトが働いてる職場に遊びに行こうと思ってるの』
『あらあらそうなのね』
お母さんはそう言うと、楽しそうに笑みを浮かべながら『気を付けて行ってらっしゃい』と言ってくれたわ。
そして私は、電車に乗って喫茶店へと向かったわ。
道中では慣れたとは言っても異性からは不躾な視線が。同性からは羨望の視線に晒されてきたわ。
全く。不愉快極まりないわね。
電車では不埒なことをする輩が少なくないと聞くわ。
そういったことに会わないように私はとても気を使っているの。
これは『見た目が良く生まれた人間の運命』とも思ってるわね。
こうして私は電車に乗って、彼のアルバイト先の駅で降りたあとは歩いてお店へと向かったわ。
調べたら駅から徒歩五分程の場所にあると知ったわ。
「このペースなら、開店ちょうど位に着くことが出来そうね」
そして、駅を降りて歩くこと五分程。
目的地の喫茶店『ル・マンド』に辿り着くことが出来たわ。
お洒落な外観に、手入れの行き届いた花壇。
中の雰囲気も悪くないとレビューでは合ったわね。
ただ最近のレビューだと
・ガラの悪い客が居座っていて気分が悪い。
・変な客が店員さんに絡んでいる姿が目に付く。
・店の雰囲気を特定の人間が壊している。
といった物があったわね。
「何処のお店にも、変な客は来るものよね」
そう思いながら、お店の扉の前で待っていると、ガチャリとその扉が開いて中から、制服姿の南くんが姿を現したわ。
「いらっしゃいませ!!……え?」
「ふふふ。おはよう南くん。来ちゃったわ」
驚いて目を見開く彼に、私は微笑みながらそう答えたわ。
「え?え?え?な、なんで七瀬さんがここに??」
それはそうよね。彼からしたら
『アルバイト先に顔を出す』
とは言っていても、まさか今日だとは思ってなかったでしょうし。
でも私は南くんの『初めてのお客さん』を誰かに渡したくは無かったのよ。
「南くんがアルバイトを始めると言うのは聞いていたわよ?だったら貴方の『初めてのお客さん』になりたいと思っても不思議では無いわよね」
「そ、そうなんだ……理由はわかったよ」
私のその言葉に、一定の理解を示した南くん。
ふふふ。まぁ今はそう言うしかないわよね。
「と、とりあえず。いらっしゃいませ。席へと案内しますね」
「ふふふ。ありがとう、店員さん」
こうして私は、彼に案内されて店内へと足を踏み入れたわ。
『一名様、御来店です!!』
南くんがそう店内に声を上げると、奥の方さら店長さんと思われる大柄な男の人と、可愛い女の子の店員さんが『いらっしゃいませ!!』と声を上げたわ。
そして、店内を見渡した私は、予想以上の雰囲気の良さに満足して隣の南くんに質問をしたわ。
「ふふふ。とても綺麗で素敵な店内ね。どのくらい長居してもよいのかしら?」
「ワンオーダーで一時間くらいですね。試験勉強とかのためのスペースも用意してあります」
あら、試験勉強も出来るのね。
こういう雰囲気の良い場所なら勉強も捗りそうね。
駅から近いこの場所なら、学校帰りに使っても良いわね。
「あら、それは良いことをきいたわね。これなら南くんが居ない日でも勉強をしに使ってもいいわね」
「ははは。あまり長居をして、帰りが遅くならないようにしないとダメだからね?」
「ふふふ。それは当然気を付けるわよ」
私はそう言ったあと、妙案を思いついたので彼に提案をしたわ。
「そうよ。南くんと一緒に勉強をして、貴方が送ってくれてもいいのよ?」
「ははは。それは魅力的な提案だね。俺としても七瀬さんの勉強方法は気になってたし」
そう言うと、彼の目がスっと細くなって私の目を見て言葉を続けたわ。
「次の期末テスト。俺は七瀬さんに勝つからね」
「……へぇ?言うじゃない」
彼からの宣戦布告。
私は少しだけ嬉しくなったわ。
だってそうでしょ?
ライバルだと思ってたのは、私だけじゃなかったんだから。
「ふふふ。なら楽しみにしてるわね。それと南くんがそのつもりなら『手の内を晒すのは得策では無い』わね」
「あはは。そうだね。俺も七瀬さんに手の内を晒したくは無い気持ちはあるね」
「なら一緒に勉強をするのは辞めておこうかしらね。ふふふ。私としては少し残念だけどね?」
「まぁ勉強は一緒には出来ないけど、帰りが遅くなるなら家まで送るのは構わないからね?」
「それなら、南くんがアルバイトの日にこのお店で勉強を進めて差をつけて上げるわよ」
「あはは。やぶ蛇を突っついちゃったな。お手柔らかにお願いしますね」
こうして私と南くんは『期末テストで勝負をする約束』を交わしたわ。
ふふふ。絶対に負けないわよ。覚悟しなさい。
こうして南くんは私との会話を終えたあと、カウンターの方へと戻って行ったわ。
そこで、とても可愛い女の子の店員さんといくつか話をしてるのが見えたわ。
可愛い女の子の店員さんが不満そうな視線で何度かこっちを見てるのはわかってた。
ふふふ。私はそう言う視線には特に敏感なのよ。
南くんと女の子の会話が終わったあと、女の子の店員さんがこちらへとやって来たわ。
そして、店員さんは『とびきりの接客スマイル』で私に注文を確認したわ。
「いらっしゃいませ。メニューがお決まりになりましたらお声がけください」
「ふふふ。ありがとう店員さん。とりあえずブレンドコーヒーを頂けるかしら?お砂糖とミルクは二つづつでお願いするわ」
あらかじめ注文するものを決めていた私は、迷うことなく店員さんに注文を告げたわ。
ブラックコーヒーは苦くて飲めたものじゃないわ。
ブラックの方が風味が楽しめる。なんてのはまやかしよ。
お砂糖とミルクを入れて美味しく飲むのよ。
すると店員さんは、注文票に書き込んで確認をしたわ。
「かしこまりました。ブレンドコーヒーを一つ。お砂糖とミルクを二つつけてお持ちしますね」
「よろしくお願いするわ」
注文を終えた私はカバンからスマホを取りだして、中に入れてある『Webの小説投稿サイト』を開いたわ。
「ふふふ。この小説の先が気になってたのよね」
腹ぺこなお嬢様にご飯を振る舞う飯使いさんのラブコメを読みながら、私はコーヒーを待っていったわ。
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