第十四話 隆二さんから『働いてもいないのに高評価を貰う』という事が起きた。
第十四話
「おはよう、裕也くん。待たせてしまったかな?」
その声と共にガチャリと扉が開いて隆二さんが部屋の中へとやって来た。
「おはようございます隆二さん。いえ、自分が早く来過ぎてしまっただけですから、気にしないでください」
閉じていた目を開いて、俺は隆二さんにそう言葉を返した。
「ははは。そうか。まぁアルバイトの初日から遅刻をするような人間も見てきたからね。僕としてはとても好感が持てるよ」
「……それは流石にどうかと思いますが」
そんないい加減な人間と比べられても。とは思うけど、まぁ世の中にはそういう人間も居るからな。
そして、朝の挨拶を済ませなところで隆二さんは俺の目の前にある制服を指さして言った。
「一応昨日のうちに用意しておいた君の制服だよ。サイズは面接の時に確認したように、3Lで揃えてあるからね」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあ更衣室に案内するから、制服を持って着いてきてくれ」
椅子から立ち上がり、制服を手に取って隆二さんの後ろを着いて行くと隣の部屋が更衣室だった。
上の方の看板で男性用と女性用とが示されている。
絶対に間違わないようにしないとな。
「さて、それじゃあ一緒に着替えながら軽く話でもしようか」
「はい。了解です」
「ははは。そんなに緊張しなくてもいいよ。簡単な世間話だよ」
そして、俺と隆二さんは更衣室の中へと入り制服へと着替えていく。
どうやら俺のロッカーも用意されていたようで、
『南』と書かれたネームプレートが刺さったロッカーがあった。
「それが裕也くんのロッカーだよ。自由に使ってもらって構わない」
「ありがとうございます。綺麗に使います」
「そうだね。その中に飲みかけのペットボトルとか、ゴミとかがたくさんあったりする子も居たからね」
「……えっと。そんな人が居るんですか?」
「ははは。高校生のアルバイトなんてそんなもんだよ」
隆二さんは着替えを進めながら、軽く笑って俺に言葉を続けた。
「高校生のアルバイトなんて、時間通りに来てくれて、無断で休んだりしなければ御の字だよ」
「……流石にそれはハードルが低すぎませんか?」
「裕也くんはそれが普通だと思ってるだろうけど、沢山のアルバイトを見てきた人間からしたら、君はもう既に『とても優秀』だと言えるよ」
「まだ一分すらも働いてないんですけど……」
「ははは。そうだね。裕也くんからしたらそう言う反応は当然だよね」
こうして、隆二さんと他愛の無い話をしていきながら着替えを終えた俺。
初めての制服に身を包むと、自然と気が引き締まった。
よし。今の好感度を下げないように頑張るぞ。
小さく気合を入れた俺に、隆二さんが声をかける。
「じゃあ裕也くん。まずは開店前の準備から始めようか」
「はい。よろしくお願いします!!」
こうして俺の『初めてのアルバイト』が幕を開けた。
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