瑠衣side ①
瑠衣side ①
「あはは。やったね。これで夏休みの間はお兄さんと一緒に居られる理由が出来たかな」
お兄さんとの勉強会を終えた私は、自室でのんびりと読書をしていた。
そして、頃合いを見て居間へと向かうと、既に夕飯の支度が出来ていて、お父さんとお母さんが私を待っているところだった。
「あはは。ごめんね、待たせちゃったかな?」
「大丈夫よ、瑠衣。今出来たところだから」
「それじゃあ冷めないうちに食べようか」
こうして私たちは夕ご飯を一緒に食べていった。
食事中のお父さんやお母さんはとても上機嫌で、明日から働きに来るお兄さんのことを心待ちにしてるみたいだった。
夕食を終えたあと、自室へと戻った私は、先程までのやり取りを思い出しながら笑顔になったね。
結花がお兄さんのことを『男性として』好きなのは知ってる。血の繋がりの無い義理の兄妹だってのもわかってる。
だから、電話では『お兄さんに手を出すつもりは無い』って言っておいた。
結花には悪いけど、私だってお兄さんに少なくない好意的な感情は抱いている。
だって、とても素敵な男性だよ。
同い年の胸ばっかり見てくるゴミみたいな男とは全く違うから。
ははは……でも、現状ではお兄さんの良さに気が付いてるのは結花くらいのものだからね。
ライバルはめちゃくちゃ強いけど、負けるつもりは微塵もないよ。
そして結花への建前として『私からは』お兄さんに手を出すつもりは無い。
でも『お兄さんから』手を出してくる分には構わないよね?
それでも、お兄さんが私に手を出す確率は……0に近いと思ってる。
だって、お兄さんにとっての私は『結花の友達』しかないから。
まずは『異性』として意識して貰えるようにならないと。
「そうだよね……まずは『結花の友達』から『年下の可愛い女の子』って思ってもらえるところから始めようかな」
お兄さんにとっての結花は
『世界で一番可愛くて大切な妹』
つまり『異性』として見られてない。
私も結花もお兄さんを異性として好きなのに、向こうはこっちを異性として見てない。
スタートラインとしては一緒だよね。
お互いにまずはお兄さんに、異性として見てもらわないと始まらないかな。
そして、そんなことを考えていたら私のスマホが着信を告げた。
『南 結花』
視線をスマホに移すと画面に親友の名前が出ていた。
ははは。今日のことを聞くつもりなのかな?
私は数コールの内に結花からの着信を受け取った。
「もしもーし!!どうしたの結花?こんな時間に」
『夜分遅くにごめんね、瑠衣ちゃん。今電話しても平気?』
少しだけ申し訳なさそうな結花の声に、私は笑いながら言葉を返したね。
「あはは。別に構わないよ!!夕飯も終わってるし、これからお風呂にしようかなって思ってたくらいだから」
『そうなんだ。私もさっき夕飯を食べ終わったところなんだね』
……。何だか結花の声に少しだけ『陰り』がある。
きっと何か話したいことがあって、そのきっかけを探してるような雰囲気を感じる。
そう思った私は、結花に本題を聞いてみることにした。
「ねぇ、結花。こんな時間に私に電話してきたってことはさ、何か話したいことがあったんじゃない??」
『あはは……やっぱり瑠衣ちゃんは頭がいいね。その通りだよ』
私の想像した通り。結花には私に話したいことがあるみたい。
まぁきっと『お兄さんとの勉強会』についてだと思うけど。
だから私は先手を打って結花に話を振ることにした。
「きっと結花が話をしようと思ってるのは『お兄さんとの勉強会』についてだよね?」
『…………ねぇ。瑠衣ちゃんは『お兄ちゃんが好き』なの?』
…………。
へぇ……結花が、直球で聞いてくるとは思わなかったかな?
この様子だと『私がお兄さんと勉強会をする』って事を『結花はお兄さんに了承の意志を示してる』
ってことだよね。
そして、結花は『私がお兄さんを狙ってない』って言葉を聞ければ、ある程度は安心してお兄さんをこちらに送り込める。
そう考えてるのかな?
ここで私が『私はお兄さんを狙ってなんかないよ!!憧れてはいるけどね!!』とでも言っておけば、結花は信じてくれるだろう。
……でも、それじゃあ『フェア』じゃないよね。
少なくとも私はどこかのタイミングで『結花に宣戦布告』をしないといけないとは思っていた。
だってそうでしょ?
私と結花は親友なんだから。
親友を騙してお兄さんを手に入れるなんて間違ってると思う。
私は結花と正面から戦ってお兄さんを手に入れるんだから。
だから私は、今までとは『声色』を変えて結花に言葉を返した。
「そうだよ。私もお兄さん……南裕也さんに好意を持ってるよ」
『………………そう。いつから?』
いつから?そうだね。初めて会った時には
『磨けば光る容姿をしてるけど普通の人』
って感じだった。
少しずつ親睦を深めるにつれて、
『紳士的で優しくて頼りがいのある大人の男性』
ということがわかった。
いつから?というのは無いかな。
いつの間にか。と言うのが正しいよね。
「いつからか?はわからないよ。いつの間にか好きになってたかな」
『…………ふーん。じゃあ瑠衣ちゃんは私と『戦うつもり』なんだね?』
結花は言っていた。
お兄さんを手に入れたいのなら『覚悟』を示せ。と。
だから私は『覚悟』を見せるよ。
「当然だよ。私は正面から結花と戦って、『祐也先輩』と恋人同士になるわ」
『…………わかった。瑠衣ちゃんのその言葉が聞けてよかったよ』
「……え?どういうこと??」
私がそう問いかけると、結花は笑いながら言葉を返してきた。
『あはは!!だって瑠衣ちゃんがお兄ちゃんに『少なくない好意』を持ってるのはわかってた。だから今ここで『私はお兄さんを狙ってなんかないよ』なんて言ってくるようなら、敵じゃないと思ってた』
「……なるほどね」
つまりここで『気持ちを打ち明ける勇気すらない女』なんて敵じゃない。
結花はそう思っていた。
そして、私は結花に言われた言葉に耳を疑った。
『ありがとう瑠衣ちゃん。これで私は『安心してお兄ちゃんを勉強会に送り出すことが出来る』よ』
「……え?な、なんでそう思ったの?」
普通だったら『想い人に好意を持った女が居る部屋に送り出す』なんてしたくないはず。
なのに『安心して送り出すことが出来る』って……
すると、結花は宣戦布告をした私に対してそれを受け取る意思を返してきた。
『私はお兄ちゃんを愛してる。そして、お兄ちゃんのことも信じてる。瑠衣ちゃんが何をしても、お兄ちゃんは決して揺るがない。お兄ちゃんの中での『一番』は私以外にはありえない』
「わ、わからないじゃない!!お兄さんが私の誘惑に負けることだって……」
『あはは!!そう思うならやってみればいい。瑠衣ちゃんが頑張ってお兄ちゃんを誘惑して、誘惑して、誘惑して、誘惑して、誘惑して、全身全霊を賭してお兄ちゃんに対してアプローチをかけても、お兄ちゃんが微塵も揺らがなかったら……』
結花はそこまで言った後に、少しだけ言葉を溜めて私に続けてきた。
『瑠衣は諦めるでしょ?』
「……………………へぇ。それが結花の『狙い』なんだね?」
『そうだよ。だから私はお兄ちゃんを送り出すよ。瑠衣ちゃんは好きにしなよ。何があってもお兄ちゃんの一番は私だからね?』
せいぜい瑠衣ちゃんがなれるのは『二番目の女』だろうからね。
「……いいよ。結花が持つその余裕を崩してみせる。そして最後に笑うのは私だって思い知らせてあげるから」
『ようやく本音で話せて嬉しいよ、瑠衣ちゃん。じゃあね。私はお風呂に入るよ』
「……わかったよ。私もお風呂に入ろうかな。あと、私も結花に宣戦布告が出来て良かったよ。これでようやく貴女と肩を並べることが出来るからね」
『あはは。これからも『
「えぇ、これからもずっと私と結花は『
そして、私はスマホを操作して結花との通話を終えた。
「…………予想外の展開だったけど、予定通りの行為は出来そうだね」
結花からの言葉には、彼女が持つ『自信』が見て取れた。
「二番目の女……それに身を落とすのは結花の方だよ」
私はそう呟いて、自室を後にしてお風呂場へと向かった。
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