第十二話 夕ご飯で家族団欒の時間を過ごしたあと、明日に備えて早めに寝ることにした。

 

 第十二話




 結花に呼ばれて夕食へと向かった俺は、居間の扉を開けて中へと入る。

 すると、仕事を終えた父さんが既に椅子に座ってテレビで野球中継を見ている状態だった。


 母さんと結花は台所で夕飯の支度を進めていた。

 カレーのいい匂いがしている。

 今夜は二日目のカレーを使ったカレーうどんかな?


 なんてことを思いながら父さんの対面の椅子に腰を下ろす。

 そして、俺は父さんに労いの言葉をかける。


「仕事お疲れ様、父さん」


 せっかくの休みだったのに、急に人が休んでしまったために、呼び出されてしまったらしい。


 管理職の辛いところだよな。


 それでも父さんは嫌な顔1つしないで職場に向かって仕事をしてきた。

 尊敬出来る人柄だと思う。


「ただいま、裕也」


 こちらに視線を向けずに言葉だけ返ってきた。


 どうやらテレビでは、父さんが贔屓にしているチームが、逆転のチャンスを迎えているところだった。

 手に汗握る展開に、テーブルの上に置いてあったビール用のグラスの中身が空になっていることに父さんは気が付いていないようだった。


「あはは。父さん。コップが空じゃないか」


 俺はテーブルの上の瓶ビールを手に取って父さんのコップに注いでいく。

 泡とビールの割合を良くするのは、小さい頃からやらされてたからお手の物だ。


 すると、テレビでは打者が走者一掃のタイムリーを打っているのが目に入った。


「おぉ!!やったぞ!!流石神様!!」


 父さんが嬉しそうに手を叩いていると、母さんが夕飯を持ってテーブルへとやって来た。


「ふふふ。逆転出来て良かったですね」

「首位攻防の三連戦。大事な初戦だからね」


 そんな会話をしながら母さんが持ってきたのは、やはり二日目のカレーを使ったカレーうどんだった。


 我が家では、二日目のカレーは手を加えて食べるようになっている。

 カレードリアやオムカレーなんかにもなったりする。


 前回。ドリアだったからうどんかなと思っていたんだよな。


 だが、育ち盛りの俺や仕事終わりの父さんには、うどんだけだと物足りない。

 だから付け合せに『ある物』が用意されている。


「はい。おまちどうさま!!私お手製のわかめご飯おにぎりだよ!!」


 そう言って台所からやって来た結花が持っていたのは

『わかめご飯おにぎり』

 だった。


 カレーうどんだけだと物足りない俺と父さんの為に、おにぎりがいくつか用意されるのがいつもの事。

 ちなみに余った場合はラップで包んで父さんの明日の朝ごはんになる。


 こうして夕飯の支度が終わったので、結花と母さんも椅子に座った。


「それじゃあ食べようか」


 父さんのその声をの後に、俺たちは『いただきます』

 と声を揃えてから夕飯を口にした。


「あぁ……うめぇな」


 二日目のカレーを使った具だくさんのカレーうどん。

 そこら辺の和風料理屋で出てくる料理よりも美味しいと思えた。


 そして、ずるずるとうどんを食べながら、わかめご飯おにぎりに手を伸ばした時だった。


 一旦箸を器の上に置いた父さんが、俺の方を向いて話しかけてきた。


「そう言えばまだ話を聞いてなかったが、裕也のアルバイトの面接は上手くいったのか?まぁ失敗するとは思ってないが」


 その言葉を聞いた俺は、おにぎりに伸ばしていた手を引っ込めて、父さんの言葉に返事をした。


「あぁ、大丈夫だったよ。特に問題も無かったし。明日から働くことになりそうだ」

「そうか。遅刻なんかしないように。先方に迷惑をかけないように頑張りなさい」

「そうだね。今日は早く寝て明日に備えるよ」


 そして、俺は少しだけ気になっていたことを父さんに聞いてみた。


「そう言えば、父さんは俺の事を隆二さんにどう話をしてるんだよ?何もしてないのにめちゃくちゃ好感度が高いんだけど……」

「ははは。酒の席でお互いの子供自慢になったからな。その時に裕也の良い所を話しただけだよ」


 ケラケラと笑いながらそう言う父さんに、俺は軽くため息をつきながら言葉を返す。


「……過大評価も良いところだろ。まぁ、あっちが持ってる期待を裏切らないように頑張るよ」

「そうだな。まぁ裕也なら大丈夫だろ?私はなんの心配もしてないよ」


「私は心配だけどね」

「……えと、結花……何が心配なんだ?」


 俺がそう聞くと、結花はぷいっとそっぽを向きながら言ってきた。


「一緒に勉強をすることは許したけど、瑠衣ちゃんに手を出したら許さないからね」

「……いや、そんなことはしないから。てかそれは向こうだって嫌がるだろ」

「……どんかん」


 結花が最後に言った言葉は聞き取れなかったけど、結花の友達に手を出すなんてありえない。

 向こうだって『勉強を教えてくれる優しいお兄さん』

 って評価だと思うし。

 その信頼を崩すようなことはしたくない。


 俺はテーブルの真ん中にあるおにぎりを手に取って、父さんと結花に言う。


「……まぁ、向こうの家からはとても信頼されてるのは理解してるよ。その信頼を裏切らないようにするだけだよ」


「そうだね。それじゃあ裕也、頑張るんだよ」

「うん。私も部活を引退したら瑠衣ちゃんのお手伝いをするからね。そしたら色々教えてね、お兄ちゃん」


 こうして、夕飯の時間を終えた俺は、洗い物を終えた後に自室へと戻った。

 そして、明日に備えて早めにベッドに入り、寝ることにした。

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