結花 side ①

 

 結花 side



 お母さんとお兄ちゃんとの昼ごはんの時間を終えた私は、洗い物はお兄ちゃんに任せて、自室に戻っていた。

 お昼ごはんの洗い物はお兄ちゃん。

 夕ごはんの洗い物は私

 そういう役割分担になっている。


 夕ごはんはお父さんも一緒のことが多いから、私の洗い物の方が数が多いけど、お兄ちゃんはお風呂とトイレの掃除も買って出てるから、家事の分担はお兄ちゃんの方が比率が大きい。

 本当は『食器洗い』は全て私の分担だったんだけど、私は今年受験があるから、家事の負担は減らしたいってお兄ちゃんが言ってくれたから、夕ごはんだけ私がやることになった。

 ちなみに朝はお母さんがやってる。


 南家では、家事はみんなでやることになってる。


 お母さんは基本的にはご飯を作るのと洋服やお布団とかの洗濯をすること。

 お父さんは働いてるから少なめで、庭の手入れと車の掃除をやってる。


 夫婦仲は円満で、お盆が終わったらお父さんとお母さんは連休を取って『旅行』に行くって言っていた。

 たまには夫婦水入らずで過ごして欲しいって思っていたから、私とお兄ちゃんは自宅でお留守番。


 まぁ、私もお兄ちゃんも普段から家事はやってるし、私もお母さんほどでは無いけど料理は得意だから、二人で過ごすことに何の問題も無い。


 私としては『だいだいだーい好き』なお兄ちゃんと二人っきりになれるから、二人が旅行に行ってくれて嬉しいくらいだからね。


 そして、自室のベッドの上に置いておいたスマホがメッセージを受信してると教えていたので、私はロックを解いて内容を確認した。


「あ、瑠衣るいちゃんからだ」


 メッセージの送り主は親友の三郷瑠衣みさとるいちゃんからだった。

 彼女とは小学校からの付き合いで、何度も同じクラスになってたこともあって、仲良くなった女の子。


 今年も同じクラスになって、来年は私と同じく海皇高校を受験するって言っている。

 スポーツ推薦を狙ってる私とは違って、頭のいい瑠衣ちゃんは勉強で入学するって話をしていた。


 部活には入ってないけど、生徒会長をやりながら、テストの順位は常に一位。

 見た目も可愛いし、頭もいい。

 おっぱいも羨ましいくらい大きい……

 私も小さくないけど、もう少し欲しいかな。


 瑠衣ちゃんはめちゃくちゃ優秀な女の子。

 きっと来年の春からは同じ高校に通うことになると思うかな。


 そんな親友の瑠衣ちゃんが、

『結花ー。お昼ごはんが終わったら電話ちょうだい』

 ってメッセージを飛ばしていた。


 一体何の用なのかな?

 私は彼女に

『今電話しても平気?』

 ってメッセージを送った。


 すると直ぐに

『うん!!いーよー』

 って返事が来た。


 そして私はLINEの通話機能を使って、瑠衣ちゃんに電話をかけた。

 数回のコール音の後に彼女は応答してくれた。


『もしもーし!!電話してくれてありがとね、結花!!』

「あはは。こっちも遊びの誘いを理っちゃってごめんね瑠衣ちゃん」


 そう。終業式が終わったあと、瑠衣ちゃんを含むクラスメイトに遊びに誘われてたんだけど、直ぐにお兄ちゃんに会いたかった私はそれを断ってしまっていた。

 それを彼女に謝ったら、瑠衣ちゃんは笑いながら許してくれた。


『あはは!!全然構わないよ!!結花が『超絶ブラコン』なのは今に始まったことじゃないからね!!!!』

「何よ、超絶ブラコンって……」

『だって、そーでしょ?愛しのお兄ちゃんに早く会いたい!!って理由で遊びを断ったんだし』

「ま、まぁ……そうだけど。でも私のお兄ちゃんへの『愛』をブラコンなんて言葉で表されるのは不服だよ」

『あはは。でもまぁ結花のことはみんな知ってるからね。伝説の自己紹介があったくらいだし』


『伝説の自己紹介』


 新学期の始まりの日。

 私が自己紹介で『お兄ちゃんへの愛』を語ったら、瑠衣ちゃん以外のクラスメイトが、何故かドン引きしていた。


 後々聞いてみると、私の自己紹介がそんな呼び名で呼ばれているのを知った。

 私としては『普通の』自己紹介だったのに。


「はぁ……それで?瑠衣ちゃんが電話が欲しいって言ってきたのは私にそういう話をする為じゃないでしょ?」


 私が彼女に本題に入るように言うと、瑠衣ちゃんは笑いながら言葉を返した。


『あはは!!ごめんね結花。本題なんだけどさ。良かったら私のお家のお店のお手伝いをして欲しいって思ってるんだよね』

「瑠衣ちゃんのお家のお店のお手伝い?」


 瑠衣ちゃんのお家は『喫茶店』を経営してる。

『看板娘』として瑠衣ちゃんがホールに立つことも少なくない。

 仕事ではなくお手伝いなので、お給料が発生することは無いから別に法律には引っかからない。


『そうそう。夏休みの間だけでもいいから手伝って貰えないかな?って。最近アルバイトをしてくれてた人が二人も辞めちゃったんだよね』

「そうなんだ……でも瑠衣ちゃんならお手伝いの範囲だから問題ないと思うけど、私が働くのは問題じゃない?」

『お手伝いの範囲でって感じなら大丈夫だよ。あとは両親の許可が欲しいかな?』

「うーん……良いのかなぁ……」


 私が渋っていると、瑠衣ちゃんは『とても魅力的な提案』をしてきた。


『結花のお兄さんも一緒に働くとかどうかな?』

「……え?いいの!?」


 私が問い返すと、瑠衣ちゃんは笑いながら言葉を返した。


『あはは。大丈夫だよ。だって辞めちゃったアルバイト

 は二人だからね。それとお兄さんは高校生だからお給料が出る感じかな?』

「そ、そっか……」


 お兄ちゃんは『接客業のアルバイトがしたい』って話をしてた。

 瑠衣ちゃんのお店でアルバイトをするならその条件に当てはまる。

 それに私も一緒に働けるし、お兄ちゃんと過ごす時間も減らない。


 この上なく魅力的な提案だった。


「わかった。お兄ちゃんもちょうど夏休みは接客業のアルバイトがしたいって話をしてたんだよね」


 私がそう答えると、瑠衣ちゃんは嬉しそうに言葉を返した。


『本当!!やったぁ!!これで私の夏休みがお手伝い三昧にならずに済むよぉ!!!!』

「あはは……そっちが本音なんだね……」

『そりゃあそうでしょ!!中学校最後の夏休みだよ!!遊びたいじゃん!!』

「だよね。私も今年の夏休みはたくさん『お兄ちゃんとデート』する予定だしね」

『お、お兄ちゃんとデート……なんて言うか結花が言うと普通に聞こえるけど、普通に考えたら普通じゃないよね……』

「まぁ……普通の妹が兄に持つような感情じゃないってことは理解してるよ」

『でも……血が繋がって無いんでしょ?』


 そう。私とお兄ちゃんは『血が繋がってない』

 義理の兄妹だ。


 この話を知ってるのは瑠衣ちゃんだけ。

 他の友達やクラスメイトには話していない。


「うん。お父さんとお母さんがお兄ちゃんに話してるのを聞いちゃったんだ。お兄ちゃんは知ってたみたいだけどね」


 お兄ちゃんが高校入学を決めた日。

 居間でその話をしているのを、たまたま聞いてしまった。

 私としては『お兄ちゃんと血が繋がって無い』と言うショックよりも『お兄ちゃんと結婚出来る』と言う喜びの方が大きかった。


『兄妹』では結婚出来ないけど、

『義理の兄妹』なら結婚出来る。


 私はお兄ちゃんの子供が欲しい。

 私の『好き』はそういう好き。

 お兄ちゃんが私に向ける『好き』は多分違うものだろうけど。


『私も何回か会ったことあるけど、素敵な人だよね』


 家に何回か遊びに来ている瑠衣ちゃん。

 彼女と同じように頭のいいお兄ちゃんに、何回か勉強を見てもらったりもしてた。


 私の友達。という立場だからだろうか。

 お兄ちゃんは瑠衣ちゃんに対して普通に接している。


「……ちょっと瑠衣ちゃん。お兄ちゃんにちょっかい出したら許さないよ」

『あはは……そんな事しないよぉ。私だって、命が惜しいし』

「命までは取らないわよ。死んだ方がマシって気持ちにさせてあげる」

『……し、親友に向ける言葉じゃないわよ』

「あはは。冗談だよ」

『声がマジよ。冗談に聞こえないわよ……』


 うん。本気だよ。

 たとえ親友でも、お兄ちゃんに手を出そうと思うなら『覚悟』をしてもらう必要があるかな?


 そして、私は瑠衣ちゃんに先程の提案についての返事をした。


「夏休みの期間に、瑠衣ちゃんの家のお手伝いをするのは多分大丈夫だと思うよ。一応夕飯の時間に聞いてみるから、今日の夜に私からまた電話するね」

『うん。わかった。良い返事が貰えるように期待してるわ』


 こうして私は瑠衣ちゃんとの会話を終えた。


「ふぅ……まぁ、私としては瑠衣ちゃんの家でお手伝いをするのは全然OKかな。お兄ちゃんの希望にも当てはまってるし。あとはお父さんとお母さんから、私が働くってことに対しての許可が貰えるか?だよね」


 そう呟いた私は、スマホを充電器の上に置いて、机の上に夏休みの宿題を広げた。


「よし。今年はやることとやりたいことが沢山あるからね。宿題はさっさと終わらせていこう!!」


 少しだけ気合を入れて、私はまずは国語の漢字書き取りの宿題から始めていった。

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