美琴 side ①
美琴 side
高校二年生の一学期の最終日を終えた私は、自転車に乗って駅へと向かっていた。
私の通っている海皇高校は、自宅の最寄り駅からは三つほど先の駅にある高校よ。
駅からは少し距離があるので、月極の駐輪場を借りて、そこに自転車を置いているわ。
「ふふふ。話の流れのおかげとはいえ、ようやく南くんの連絡先を手に入れられたわね」
私は自転車を漕ぎながら、彼のことに思いを馳せたわ。
南裕也くん。
高校一年の時からのクラスメイトで、テストの順位は常に私に次いで二位の座についている秀才。
彼との点数の差はほとんど無く、私は一瞬たりとも手を抜くことなんが出来ていなかった。
ちょっとでも油断したり、ケアレスミスをしたら負けてしまうわね。
部活には所属していないけど、運動は不得手では無いようで、体育の時間とかは普通にこなしている。
それと、きっと自宅では筋トレをしているのでしょうね。
たまにチラリと見える二の腕や腹筋は良く鍛えられているわ。
私、筋肉フェチなところがあるの。
あとは少し話し下手なところがあるのが見て取れるわね。
彼が他人と楽しそうに話をしてるところは見た事がないわ。
教室では一人で過ごしていることがほとんどで、休み時間とかは読書をしているわ。
一年生の時はそんなに接点のある人では無かった。
でも、二年生になってからは違ったわ。
担任が山野先生になったこともあり、『くじ引き』をすることが増えた。
新学期早々の席決めでは、彼と隣の席になったわ。
そして、今年は学級委員をやろうと決めていた私が委員に立候補をすると、やはりと言うか『下心にまみれた男ども』がこぞって手を上げていた。
自分が多数の異性から好かれていることは理解してる。
でも、有象無象から向けられる好意ほど目障りなものでは無いわ。
こうして部活をやっていない私が、『内申点狙い』として学級委員に立候補したのだけど、ここまでになるとは思って無かったわね。
すると、隣の席の南くんも学級委員に立候補をしているのが見えたわ。
私と同じで部活に入っていないから『内申点狙い』で立候補したのかしら?
クズのような男と学級委員をやるのは嫌だった私は、彼が学級委員になれるように祈りを込めたわ。
そして、山野先生にしては珍しく『じゃんけん大会』というやり方でもう一人の学級委員が決められたわ。
その後は私の祈りが通じたのでしょうね。
南くんがじゃんけん大会を勝ち抜いてもう一人の学級委員に選ばれたわ。
私は心の中で小さくガッツポーズをしたわね。
こうして私と南くんは学級委員の仕事を共にこなしていったわ。
その中でも『力仕事』と言えるものは彼がやってくれたわ。
先生から色々なプリント教室まで持ってきてくれたわ。
話し下手な彼に代わって、クラスメイトに配ったりするのは私がやってたわね。
あとは授業が終わったあとの教材の片付けなんかも率先して行ってたわ。
そして、いちばん私が驚いた彼の行動がこれよ。
『俺は部活動に入ってないからね。だから放課後の掃除は毎日俺がやるよ。みんなは部活に専念して欲しい』
南くんはそう言って毎日の掃除を買って出たわ。
その掃除もきちんと行われていて、毎日やるから手を抜く。なんてことは一日たりとも無かったわ。
そして、彼が掃除をしている時間に学級日誌を書いて、先生に持っていくのが私の仕事だったわ。
私が先生に学級日誌を渡して教室に戻ると、南くんの掃除が終わっているので
『ありがとう南くん』
と笑顔で言うと、
『……どういたしまして』
と視線を逸らして言葉を返すのがいつもの事だったわ。
本当に彼は話し下手なのね。
なんだか損をしてるように思えるわね。
そんな『必要最低限』みたいなやり取りだけをしていた結果。高校二年生の一学期が終わりを告げたわ。
私としてはもう少し南くんと話をしたかったんだけど、なかなか連絡先を聞くような雰囲気にはならなかったのよね。
そして、一学期最後のホームルームの時間。
南くんにしては珍しく、少しだけボーッとしてたのを見てたら、山野先生から呼ばれているのを気が付いていなかったわ。
私が声をかけると、彼は驚いたように声を上げてたわ。
その後は先生とやり取りをして、私の高校二年生としての一学期が終わったわ。
クラスメイトたちが教室を出て行くのを見ながら、私は南くんに感謝を伝えるたわ。
でもまぁやっぱりというか、予想通りというか、彼は謙遜して私の方が頑張ってた。みたいなことを言ってきたわ。
ふふ。本当に南くんは自己評価が低いわね。
頑張っていたのは貴方の方よ。
何回助けて貰ったかわからないわ。
感謝しているわ。
そして、私は南くんと初めて『まともに』話をすることが出来たわ。
あはは。結構面白いことを言う人だとわかったし、話の流れで念願だった彼の連絡先を手に入れることが出来たのよ。
こうして連絡先を交換したのだから、南くんと夏休みの時に他愛ない話をしたいとも思っていたので、私は業務だけじゃなくても連絡を待ってるわ。って伝えたわ。
まぁ……社交辞令と受け取られてそうな気配を感じたけど。
いざとなったら私から連絡をしてもいいわね。
そうよ。待ってるだけなんて私のらしくないもの。
そう思った私は夏休みの目標に『南くんと仲良くなる』を設定して過ごす事を決めたわね。
ふふふ。今年の夏休みは楽しくなりそうね。
私はそんなことを考えながら、家へと帰って行ったわ。
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