第2話 8の字大縄の行方は笑顔

「華夜は、全く大縄入れないから、大縄回したいのか。俺は、その理由あんまり好きじゃない。」昼休み、担任大輔にそう言われ、華夜は憎しみと悲しみに明け暮れていた。

全く、入れないのだ。止まって、クラスをイライラさせるに違いない。ただでさえ、孤独な自分がこう言う時に悪目立ちしてしまうのは、クラスには悪い。

華夜はため息を吐いた。

大縄。クラスに馴染めない。鈴山のセクハラ。3つの問題が混ざり合っていた。

「五峠、生きてる〜」目の前で手を振られ、華夜は我に返った。目の前には、華夜のクラスメイトで一緒の放送委員会に入って委員長をやっている、水泳部男子米川 潤よねかわ じゅん だ。

「ごめん。ごめん。体育祭の実況の事だよね」華夜は笑いながら、プリントを見つめた。

自分が実況する所は、エトセトラリレーと1年生全員リレーだ。

3年間放送委員をやっていたので、もう慣れていた。

「華夜ちゃんが実況でもいい?」同じ、実況を担当する女子2人に言われ、華夜は頷いた。

実況は大好きなのだ。

これで、体育祭の唯一の楽しみになるのだろうか。


◇◇◇◇


「華夜ちゃん、大縄回すの被った人3人で話し合いしよ」と学級委員であり、華夜の友達の亀谷 めいなかめたにが華夜に声をかけた。

華夜は頷き、廊下に出た。

「で、まなみちゃんと環奈かんなちゃんは、去年回して優勝させたんだよね。」めいなの言葉に2人は頷いた。

「じゃあ、ここは華夜ちゃん頑張って跳んでみよ!!」めいなは華夜の肩に手を置いた。華夜は首を振った。「無理だよ。どれだけやっても入れないの」「大丈夫。私がなんとかするから。ね?」めいなの圧力に華夜は頷く以外、何も出来なかった。

「すごい…学級委員の圧力」まなみと環奈も圧倒されていた。


◇◇◇◇


「どうしよう…」華夜はベッドにうつ伏せになった。

「どう頑張っても、入れないよ…」華夜の落ち込みは虚しく、明日はすぐにやってきた。


◇◇◇◇


「めいなちゃん、私には無理だよ」華夜はめいなに声をかけた。めいなは華夜の手を握り「大丈夫!!」と言った。

そして、出番は華夜にまわってきた。


ーー怖い…縄痛そう…


「華夜ちゃん!!今!!」めいなは背中を押したが、華夜は進めなかった。

クラスの子達も『今!!今!!』と掛け声を上げていた。

めいなは少し考え、「華夜ちゃん、一緒に入る?」と言った。

華夜は少し頷いた。めいなは華夜の手をしっかり握ると、縄に入った。

結果は引っかかったが、縄は痛くなかった。

華夜は少し自信がついてきた。「ねぇ、めいなちゃん、いけそう」華夜の言葉にめいなは目を輝かせ、「もう1回、私と入って、次は1人で入ってみよ」と言ってくれた。

そして、もう1回入った。引っかかった。

次は1人だ。華夜は縄を目の前にし、意を決して入った。

結果は引っかかった。

「華夜ちゃん!!いけてるよ!!」めいなは華夜に勇気づけた。

そして、次にもう1回華夜は意を決して、縄に入った。

縄が足元に来た時、華夜は縄を飛び越えたのだ。

『最高〜!!』『やった〜!!』とクラスメイト34名は歓声を上げた。

華夜は嬉しく泣きそうになった。

華夜のなにかが思いっきり崩れ落ちた。

自分が跳べたのを自分の事のように喜んでくれる、クラスメイト。

華夜は喜びの笑みを浮かべた。


◇◇◇◇


終礼の時間、華夜は"私ノート"と言う、担任の先生と交換日記みたいなものを書いていた。

いつもは、担任大輔と応援している野球チームが同じだったので、その野球チームの試合結果しか書かなかったが、今日は違う。

担任大輔にお詫びと喜びを伝えたかった。

''今日の昼休み、大縄の練習中に縄に入れない私を、めいなちゃんが一緒に縄に入ってくれたり、コツなどを教えてくれて本当に嬉しかったです。縄に1人で入る勇気も出て、1人で縄に入って、初めて飛べたとき、クラスのみんなが拍手をし、一緒に喜んでくれました。

D組になって、前のクラスの恋しさなどで自分勝手に、孤独感を感じていましたが、初めて体育祭。このクラスで優勝したいと思いました。

最初、正直小沢先生に大縄の回す事言われた時に、納得しきれない部分があったと思ったのを今は、すごい後悔しています。

今日、勇気を出すのを学びました。




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