第50話 狡兎死して...
政務室の席で一人考え込むイワイ。
扉を開けて入ってきた留侯は、彼にやさしく話しかける。
「まだ悩んでいるのかい?私の報告だけじゃウサギの王様のことは信用できないかい?」
「留侯…君を疑っているわけじゃないんだよ」
「ただ…どうしても王という者たちが信用できないんだ」
イワイはため息交じりに話す。
「僕らにはどうやら過去があり、そのことが思い出せないのは留侯も知っているだろう?」
留侯は改まって答える。
「そうですね」
「イワイ様の考え通り、私たちには前世があったと思います」
「つまり君は前世にあったことが引っかかって、ピット王との共闘を拒んでいるのかい?」
留侯は少し呆れた顔をする。
「わかっているのだよ、留侯」
「この戦いが終われば、きっとまた私は恐れられる」
「狡兎死して良狗烹られ、高鳥尽きて良弓蔵され、敵国敗れて謀臣亡ぶ」
「私は…また切り捨てられるのが怖いのだよ」
悩むイワイに留侯は少し悪戯っぽく話す。
「では…今から直接お話してみたらいかがですか?」
「今からだって?」
イワイは慌てて顔を上げる。
それと同時に扉の外から笑い声が聞こえた。
「ハッハッハッ!かつて『国士無双』と恐れられていたあなたの、そのような情けない顔を見る日が来るとは思ってもおりませんでしたぞ!」
声と共に4頭が中に入ってきた。
「あなたは…先生!」
「今までどこにお隠れになっていたのですか?」
イワイの言葉に蒯通は笑って答える。
「いやいや、私がどれほどナインテールと共闘しなさいと説いても、あなたが一向に聞き入れませんでしたので出奔しただけのことですよ」
「出奔?」
蒯通の言葉にイワイは後の言葉が続かない。
「左様です」
「いくら私や留侯が進言しましても、あなたが全然決めきれないので、私は他の主を求めたまでです」
「そして私は素晴らしい王と巡り合いました」
「そんな…先生が私を見限っていたとは…」
肩を落とすイワイに蒯通は問いかける。
「如何です?ピット王と話してみては?」
顔を上げたイワイはピットの顔を見る。
「イワイ殿、宜しければ私たちの今後の未来の話をしませんか?」
イワイは少し考えて
「…分かりました」
「先生が評価する王と、私は話してみたくなりました」
イワイは奥の応接室に4人を招く。
ここに2国間の会談が始まった。
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