第3話 アリよさらば
大まかにやることを理解した俺は、周辺の探索を始める。が、やはり領域内に人間なんかいなかった。
地面に座った感じでアイコンを見ていると、突然『憑依』のアイコンが光りだす。
付近を見渡すが何もいない…いや、空中と地面で赤いマーカーと文字が動いている。
【『蝶1時間/20P』・『ゴキブリ1時間/3P』どちらかに憑依しますか?】
へ?憑依相手って虫?
俺は2匹をしばらく眺めて蝶を選択した。
こういうのは一度やってみないと分からないしね。
憑依を決定にした瞬間、周りを光に覆われ目の前に巨大な草が現れた。
俺は体をホバリングさせ葉っぱに止まる。
初めての憑依にも拘らず、最初からこの体であるかのようにスムーズに動く。
視界は広範囲だが見渡せているが全体的にぼんやり。
ただ、触覚があるため周辺の匂いはよくわかる。
新しい世界観に感動している中、ふと正面から甘い匂いがしてくる。
早速パタパタと匂いのほうへ飛んでいくと、そこには一面の花畑(蝶々の大きさで)に辿り着いた。
俺は早速近くにある花の蜜を吸ってみる。
何これ?すごくおいしいんですけど?
俺は心の中で歓喜した。
ひとえに花の蜜といっても種類や色で色々な味が楽しめる。
甘ったるいのもあれば薄いやつもあり、フルーティーな味もある。
蝶って日ごろからこんなにおいしい蜜吸っているのか…
お腹一杯になって花の上でくつろいでいる…突然体が何かに引っ張られた!
何? と思った瞬間、首筋に激痛が走り
「ブチッ!」
という鈍い音とともに目の前が真っ暗になった…。
気が付くと元の実体のない状態に戻っていた。
さっきまで居た場所を見てみると、蝶を貪るカマキリの姿が見える…。
そうか、うっかり襲われたのか…蝶さん…俺が憑依したばかりに…
俺は目の前で食べられている蝶にそっと合掌した。
気持ちを切り替えて『カマキリ1時間/500』に憑依を試みる…が、
【注意:一度憑依を行ってから24時間は他の生物に憑依できません】
【注意:憑依終了後、10日以内に再憑依を行う場合、『通常ポイントの10倍が必要』となりますのでご注意ください】
と言う厳しいメッセージが表示された。
さて困ったぞ。
最初の24時間憑依できないはまだわかるとして、10日以内の憑依10倍は、試して確認する自分のやり方にはきつすぎる。
更に【精神力増加】はいまだゼロのまま。
現状、憑依以外の能力は使えないので、10倍使ってでも他の対象に憑依するべきだと考える。
幸い時間はあるので、マニュアル1に書いてあること以外で何かできないかを確認してみた。
ステータス!
心で唱えると空間に自身のステータスが表示される。
やっぱりあったか。しかし佐藤のやつ…本当に大事なことを一切説明せずに送り出すとは、一体何を考えて仕事をしているのだろうか?
俺は苦笑いしか出なかった。
つまり、これはネットのない世界で説明書もなしにやり直しのきかないゲームをやらされているのと同じ状況…かなりのハードモード仕様になっている。
とりあえずステータスを確認。
【氏名:よしだまさよし】
【1/1 21:35:45】
【ランク:地縛霊】
【精神力:36480】
【精神力消費:100/1日・0/1時間・0/1分・0/1秒】
【精神力増加:0/1日・0/1時間・0/1分・0/1秒】
【領域:100m】
ステータスを確認すると
【1/1 21:35:45】
これは現時間のようで、左から月日・時・分・秒の見方になる。
1/1で昆虫が活動しているという事は寒い気候ではないのだろう。
【精神力:36480】
【精神力消費:100/1日・0/1時間・0/1分・0/1秒】
【精神力増加:0/1日・0/1時間・0/1分・0/1秒】
こちらはポイント=精神力で分かりやすく記載している
表示は現ポイント数・消費ポイントと増加ポイントの詳細のようだ。
次にランク、自分は現在【地縛霊】らしい。
確かに憑依しかできないし、100m内でしか動けないのでその通りではあるのだが…そもそも『神』って地縛霊が進化を重ねてなるものなのだろうか?
疑問には思いつつも、そういうルールだから仕方がないと割り切ることにした。
とりあえず『領域拡大10m/100P(1日)』を壁沿いで使ってみる。
見えない外壁部分が白く光り5mほど後ろに下がった。
ステータスで確認すると
【精神力:36380】
【精神力消費:200/1日・0/1時間・0/1分・0/1秒】
【領域:110m】
このまま1日待ってみると、使った瞬間に100P、そして0:00:00に100P消化。
つまり、使った瞬間にポイントが減り、使ったタイミングに関わらず0:00:00に再度消費するようだ。
ちなみに、1日待っている間、領域に現れたのは虫とトカゲ・蛇だった。
1日経過後は再度他の生物に憑依する。
今回は『アリ1日/50P』を選択、周りが光り目の前に地面が現れた。
体は軽く動きやすい、が、視界はやはりぼんやりで代わりに触覚が利く。
地面をうろうろしていると同じ仲間?アリが現れたので、触覚を合わせて会話を試みる。
「§※?Δ〇◇※!」
うん、何言っているのかさっぱりわからない!
ここですかさず『昆虫全言語セット/3500P』を使用、早速会話(信号)に触覚を合わせた。
会話内容は大体こんな感じ。
「…食事…女王様…運ブ…」
「…獲物…倒ス…集合」
「…疲レタ…休ム…」
「…シゴトシタラマケ…シゴトシタラマケ…」
「オレタチハナゼアユミツヅケル?…ワカラナイ」
尚、上の2つの会話は3割程度のアリしかやってなかった。
アリの世界も人間世界とあまり変わらないんだな…
とりあえず、近くにあったダンゴムシの死骸を自宅?へ運び貯蔵庫へ。
ついでに女王様の部屋を覗きに行くと、やたらでかいアリが卵をポコポコ産みながら愚痴をこぼしていた。
「毎日…毎日…卵ヲ産ムノ繰リ返シ…トテモツライ…」
なんか…アリの世界も大変なんだなぁと感慨にふけてしまう。
その後、仲間と共同してバッタを倒したり、さぼっているアリを叱咤したりとやっているうちに1時間近く経過した。
「ピンポーン!」の音と共に空中にアイコンが現れ、
「お時間5分前です。『延長1日/50P』を行いますか?」
カラオケの店員みたいなアナウンスが流れた。
ここで憑依は終了、別にアリのブラックな社会生活を堪能したかったわけじゃなかったので元に戻る。
憑依が終わったアリは、周りをキョロキョロしながら、スゥーと木陰に行き昼寝をはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます