第38話

 

 チンカーヘルの修行を受けてから、30年の時が経過した。


 俺は、どうしても黒龍を倒せるイメージが湧かなくて、こんなにも修行してしまったのだが、今の俺の力なら絶対に黒龍を倒す事が出来るだろう。


 エリーを早く助けたい気持ちもあったのだが、黒龍と戦っても勝てないのなら意味のない事なのだ。


 現在の俺は、違う種類の魔力を、50重にミルフィーユみたいに纏う事も出来てしまう。

 これが出来たから、どうなるという訳でもないが、兎に角、出来るようになった。


 違う魔力の50重ミルフィーユ重ねが出来るようになった後から、チンカーヘルに同じ性質の魔力を何十にも重ねて、更に圧縮した方がより強いパワーを出せると聞いて、最初からそれ教えてくれよ!とか、思ったが、違う性質の魔力のミルフィーユ重ねにより、俺は並列思考を身に付けられたので良しとしよう。


 兎に角、俺は、本当に強くなった。

 30年も経過して、エリーがどうなってるか分からないが、俺のエリーへの愛は変わらない。

 この30年の修行で、俺の真っ白だった白バナナも、しっかり捲れてチョコバナナになってるし。

 これで、エリーも満足させれるだろう。


 マリエなどは、俺の修行中、余っ程暇だったのか1人でヤヌー牧場に帰ってしまったし……

 まあ、最初は俺と一緒にチンカーヘルの修行を受けていたので、魔物ひしめくアビス山脈の魔物も、一人で楽々倒せるようになってたからね。


 兎に角、俺は黒龍を倒すの為の全て準備が整っている。


「流石は、私が認めた男ね! 70年掛かると思われた修行を、たった30年で成し遂げてしまうとは!

 しかも、私が適当に思いついた修行も、本当にやっちゃうんだもん!

 違う性質の魔力のミルフィーユ重ねとかね!」


 どうやら、違う魔力のミルフィーユ重ねは、単なるチンカーヘルの思いつきでやらされた修行だったようだ。

 確かに、実践で使う機会などなさそうだし……俺も薄々気付いてたし。


 兎に角、俺は、満を持して黒龍を倒しに行く。

 意気揚々、アビス山脈の黒龍が住む山に。


 そして、黒龍の前に、俺は30年振りに立ったのだ。


「クワッハッハッハッハッ! 待ちくたびれたぞ! ワシはお主が、再びワシの前に訪れるのを首を長くして待っておった!

 さあ! 楽しい楽しい戦いの時間じゃ! ワシを、存分に楽しませてみせよ!」


 毎度、同じように最後の言葉を言う前に、暗雲立ち込め、雷攻撃を仕掛けてくる。

 黒龍は、俺に雷攻撃は効かない事を分かってると思うが、多分、これは演出。


 壮大で尊大で威厳がある黒龍を見せつける為に、いつもやってることなのだろう。


 だが俺は、そんな黒龍の雷を避けずに、そのまま黒龍に向かって歩いて行く。

 今の俺には余裕もあり、黒龍を倒す技術も身に付けてるのだ。


 黒龍も、1回目、2回目のように無闇に俺の傍まで飛び込んでは来ない。

 俺同様に、1回目、2回目の記憶がある黒龍は、相当、俺の伸びる魔力の手を警戒してるように思われる。


 まあ、警戒されても、今の俺はどうとでもなるのだけど。


 俺は、足を魔力で伸ばして、一気に黒龍の顔の目の前まできて、思いっきり、魔力で圧縮して質を高めた拳。ついでに硬化も付与したダイヤモンドなみに硬い拳で、黒龍に右フックをお見舞いしてやる。


 バキッ!


「グゥオオオオォォ……」


 俺のパンチが効いたのか、黒龍は唸り声を上げている。

 ついに、3回目の挑戦にして、黒龍にダメージを与える事に成功した。


 今までは、簡単に俺の魔力の壁は紙切れのように破壊されてたのに。逆に俺の拳には、あれ程硬かった黒龍の鱗がグニャリと凹む感覚が残っている。


『いける』


 俺は、そのままラッシュをかける。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーー!!」


「クッ! 舐めるな小僧!!」


 黒龍は、大きく口を開きブレスを放つモーションに入る。


「チッ! やっぱりブレスを吐けるのかよ!」


 俺はすぐさま、退避。


「グオオオオオオオッーー!!」


 黒龍から放たれた黒い炎のブレスは、俺がさっきまで居た場所全てをドロドロに溶かしていた。


「想像以上だな……これ、モロに受けたら、俺の魔力のバリアでも溶けるかも……だが、当たらなかったら意味ねーし!」


 俺は、再び、ブレスを放った黒龍の顔の前に立ち塞がる。


「チッ!」


 余っ程、タコ殴りにされたくないのか、黒龍は俺の前から逃げだした。

 多分、距離を取って、ファイアーブレスでの攻撃に切り替えようとしているのだろう。


 だがしかし、俺には何メートルも伸びる魔力の手が8本も有るのだ。

 敢えて、今まで黒龍に見せずに封印してたが、今こそ、その真価を見せる時!


 俺は二本の魔力の手で黒龍を捕まえて、俺の目の前まで手繰り寄せ、そして、今度は残った6本の魔力の腕で、黒龍をタコ殴り。

 もう、黒龍にファイアーブレスを吐かせる隙も与えない。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーー!!

 どうだ! この野郎! 俺の修行の成果を受けてみやがれ!!」


「やめへ……」


 ここまで来ると、黒龍も戦意喪失。

 まあ、魔力を圧縮して、質を高めた2本実体化する魔力の手でホールドしてるからね。

 黒龍も、俺から逃げる事ができないのだ。


 しかし、俺は、黒龍に、『我を倒し、我が屍の上を通って行くが良い!』と、言われた過去がある。


 なので、俺はしっかり黒龍を倒し、黒龍の屍の上を堂々と通って、エリーを助けに、アビス山脈を抜けようと決めているのだ。


「キッチリ、ぶっ殺してやんよ!」


「やめへ……これ以上は……本当に死んじゃうから……もう、嫌だよ……」


 黒龍が、涙目で俺に嫌と唱える。

 止めてと行って、お前は今迄、止めてくれたのかよ。俺を2回も殺しておきながら……

 俺は、黒龍を倒して、ついでにヤヌー牧場のヤヌー達を、フローレンス帝国から解放する腹積もりなのである。


 もう、エリーのような悲劇を生まない為に。ヤヌーという種族を解放するのだ。


「お前は、しっかり殺しておく!」


 俺は魔力の拳にありったけの硬化の付与と、岩をも溶かすマグマのような火魔法の付与を重ね掛けする。そして、


「終わりだ」


 俺は、黒龍のコメカミに、パンチを放ったのである。


 しかし、そのパンチは、黒龍に永久に届く事なく、代わりに、


閃輝暗転センキアンテン


 黒龍が何か呟くと、突然、目の前に、ノイズのような幾重ものイナズマが走り出し、そして、世界が暗転したのだ。

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異世界行っても、金髪黒ギャルには、飲んでも乗るな! 飼猫 タマ @purinsyokora

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