第39話

 

「タカシ兄、変な虫が落ちてるよ!」


 マリエが、ばっちい物でも触るように、チンカーヘルの羽根を摘んで俺の元に持ってくる。


「嘘だろ……もうちょっとで黒龍を倒せたのに……というか、黒龍の能力って、俺が死ぬと発動する、死に戻り能力じゃなかったのかよ?」


 俺は、突然、死に戻りじゃなくて、特異点というのか、毎回、戻って来てしまう、チンカーヘルと初めて会う場面に戻されてしまい、衝撃を受ける。


「タカシ兄、この虫食べていい?」


 マリエがいつものセリフを言ってるが、今の俺はそれどころじゃない。

 既に、俺は、黒龍を倒せるだけの実力を持ってるのだ。

 特異点に戻された事で、俺もエリーも若返っている。


 戻されて、悔しい気持ちもあったが、若返って嬉しい気持ちもあり、兎に角、マリエとチンカーヘルは、ほっといて、俺は急いで黒龍を倒しに向かったのだった。


 そして、黒龍に対峙するや否や、


「ゲッ! また、来た! もう、お主とは戦わぬ!閃輝暗転センキアンテン!!」


 再び、目の前に幾重ものイナズマが走り、世界が暗転してしまう。


「タカシ兄、変な虫が落ちてるよ!」


 暗転が終わると、まさかと言うか、いつもの特異点に戻ってしまっていた。


「クソー! 何でだよ!」


 俺は、黒龍を軽く倒せるほど強くなったのだ。

 それなのに、今度は、黒龍の方が俺との戦いを避けるなんて。

 これでは、いつまで経っても、アビス山脈から抜けられない。


 俺は、再び、黒龍の元に向ったのだが、


「閃輝暗転!!」


 黒龍は、俺を見るや否や、俺を特異点に戻す技、閃輝暗転を放って来るのだ。


 俺は、何度も、何度もチャレンジしたのだが、黒龍は俺を見るや否や、最早、話も聞かずに閃輝暗転を放って来る。


 詰んだ……否、詰んでない!諦めるな俺! 何度でもチャレンジしてやる。


 俺は、黒龍を倒す為に、30年も修行を続けたのだ。それにくらべれば、10回や20回の失敗など、どうって事ない。


 それからは、特異点に飛ばされる。黒龍の元に向かうを何千回も続けた。

 俺は、絶対に諦めない。俺が諦めるか、黒龍が諦めるかの根比べなのだ。


 別にここまで来ると、黒龍を倒す事になどこだわっては居ない。

 ただ、アビス山脈の出口を守る黒龍が、何も言わずに通してくれればいいのだ。

 そうすれば、俺はエリーを助けに行ける。


 ただ、それだけなのに、黒龍は俺を見た瞬間に、閃輝暗転を使うので、俺は黒龍と交渉する事さえ出来ないのである。


 俺は何回、黒龍の元に向かっただろう。1万回までは数えていた。

 多分、数100万回は、黒龍の元に向かった。


 ダメだ。俺も諦めないが、黒龍も決して諦めない。このままでは埒があかない。


 俺は、焦燥しきり、黒龍に閃輝暗転された後、その場に止まった。


「タカシ兄、変な虫が落ちてるよ!」


 マリエが、ばっちい物でも触るように、チンカーヘルの羽根を摘んで俺の元に持ってくる。


 いつものくだりが始まる。

 最近は、マリエを無視して、そのまま黒龍の元に向かっていたのだが、今日は俺がチンカーヘルに回復魔法というか、回復付与した俺の魔力の中に、チンカーヘルを包んでやる。


「あれ……私、何で寝てたの?」


 チンカーヘルが目を覚ます。


「チンカーヘル、俺の話を聞いてくれ!」


 俺は、前のめりでチンカーヘルに話し掛ける。


「ゲッ! なんて魔力っ! て、魔王!!

 アッ……私もう死んだわ……何で魔力に釣られて、こんな所に来ちゃったんだろう……」


 チンカーヘルは、俺を目の前にして気絶した。


「オイ! 起きろ! 嘘、気絶するんじゃねーよ!

 チンカーヘル。お前に折り入って相談があるんだ!」


 俺は、チンカーヘルを捕まえて揺らす。

 だけど、どう考えても気絶してるフリをしてるチンカーヘルは目を開けない。

 ならば、俺は8本の実体化する魔力を駆使して、くすぐり攻撃を仕掛けてやった


 チンカーヘルは、物凄い顔をして耐えている。

 だけれども、俺のくすぐり攻撃は、その辺のくすぐり攻撃じゃないのだ。

 人がくすぐったく感じる手の柔らかさに、魔力の手を調整して、指を高速に動かしてくすぐっているのだ。


「ぷっ……プワッハッハッハッハッ! もう、お願いだから止めて! 何でも言う通りにするから!」


 チンカーヘルは、俺のくすぐり攻撃に、呆気なく陥落した。


 俺は、その後、今迄の経緯を3時間程掛けて、全てチンカーヘルに説明する。


「なるほどね。私が、アンタの師匠って事は分かったわ! ならば、私を敬いなさい! 取り敢えず、敬語よ!

  そして、世界に打ってでるわよ!

 クックっクックックッ。ついに私の時代が到来したわ!

 私は、黒龍をも越えるアンタの力を使って、世界をこの手に入れるのよ!」


 俺の話を聞いてたのか、チンカーヘルが勝手に盛り上がっている。


「お前、俺の話を聞いてた? 黒龍は絶対に倒せないんだぞ?

 俺と会った途端に、すぐに閃輝暗転を放って、特異点に戻されちゃうし、お前なら黒龍に話を付けれるのかよ?

 殺さないから、ここを通して下さいって?」


「ん? そんなの無理だけど?」


 チンカーヘルは、真顔で答える。


「じゃあ、どうすればいいんだよ!アビス山脈を越えるには、黒龍の住処を通り抜けないといけないんだぞ!」


「アンタ、それ正気で言ってる?アンタの実力だったら、別に黒龍倒さなくても、普通に山脈越えれるでしょ?」


「へ?」


「へ? じゃないわよ! 最初は無理だったかもしれないけど、アンタ、魔力で温度調整出来るんでしょ?

 普通だったら、標高が高くて剣山みたいなアビス山脈を越えるのは不可能だけど、今のアンタなら普通に越えられるわよ」


「アビス山脈の山頂って、人間が凍りつくほど寒くて、空気も薄いんじゃないのか?」


「アンタの魔力の中に居たら大丈夫でしょ。死にそうになっても回復魔法を付与した魔力の中に居たら、死のうと思っても死ねないわよ」


「じゃあ、何で、修行の後、その事を教えてくれなかったんだよ!」


「それは、多分、アンタが黒龍を倒す気満々だったし、私も、アンタが黒龍倒す所を見たかったんじゃない?

 私の弟子が、黒龍倒したと広まったら、私の株が上がるってもんでしょ!」


「そんな理由で……」


「そう! そんな理由よ!」


 チンカーヘルは、エッヘン!と、無い胸を張る。


「俺は、そんな理由で、100万回以上も黒龍に対峙しに行ってたのかよ!」


「それは、アンタが早く私に聞かなかっただけでしょ!

 普通なら、10回繰り返した時点で、天才で師匠である私に、教えを乞うべきだったのよ!

 私は全く悪くなくて、師匠を蔑ろにしてたアンタが全て悪いのよ!

 これからは、しっかり師匠であるこの私を敬いなさいな!

 そう、これからは師匠ファーストで生きるのよ! 分かった!」


 確かに、チンカーヘルを蔑ろにしてたのは確かだ。

 俺って、何も言わずに毎回、特異点に戻ったら、黒龍の元に一目散に向かってたから、もしかしたら、チンカーヘルは、マリエに食べられてたかもしれないし……


 毎回、マリエは俺が特異点で目覚める度に、この虫食べていい?て、俺に聞いてきてたし……


 俺は、少しだけゾッとして、簡単にアビス山脈に出られる事を教えてくれなかったチンカーヘルに結構ムカついたが、全てを不問にする事にしたのだった。


 まあ、それ以上に、やっとエリーを救い出せると安堵した事も理由の一つなのだけど。

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