第35話

 

「ハッ!」


 俺は、その場から飛び起きる。


「タカシ兄、変な虫が落ちてるよ!」


 マリエが、チンカーヘルを摘み、俺の元に持ってくる。


 また、死に戻ったのか?

 完全に、黒龍は、俺を使って遊んでやがる……


「食べていい?」


 いつものように、マリエが聞いてくる。


「駄目だからな! 兎に角、チンカーヘルに回復魔法を掛けてやれ!」


「チンカーヘル?何それ?美味しいの?」


「その妖精の名前だ!」


「ふ~ん。この虫チンカーヘルて言うんだ」


「で、後で食べるの?」


「だから、チンカーヘルは、俺の友人だからら後からも食べちゃ駄目!」


「えっ?! この虫、タカシ兄の友達だったの! そしたら、すぐに回復してあげなきゃ!」


 マリエは、慌ててチンカーヘルに回復魔法を掛けて回復させる。


「あれ……私、何で寝てたの?」


 チンカーヘルが、マリエの回復魔法で復活したようだ。


「チンカーヘル教えてくれ? 俺はどうやったら、黒龍に勝てる?」


 俺は、チンカーヘルが起き上がったので、すぐさま質問する。

 俺は、エリーを助け出す為に、どうしても黒龍を倒さなければならないので、居ても立っても居られないのだ。


「えっ? 何? 何で私の名前知ってんの? メッチャ怖いんだけど」


 チンカーヘルが、突然、名前を呼ばれて驚いている。というか、完全に引いているし。


「お前、人間の街に行きたいんだよな? なら、俺を鍛えて黒龍を倒せば人間の街に行けるぞ!」


「え? 別に私1人なら、人間の街ぐらいスグ行けるんだけど?」


「ほら、お前って、1人で人間の街に行くのは怖いって言ってただろ?

 前に行った時、人間の街で泥棒しまくりお尋ね者になったんだもんな?」


 チンカーヘルが、人間の街に行きたいのは確かなのだ。

 だけど、1人で行くとまた、人間に捕まりそうになるので、1人で人間の街には行きたくない事を、俺は知っている。


「アンタ……まさか、私を追って来た人間の街からの刺客?

 私、絶対に人間の街なんかに行かなんだからね!

 アンタに着いてったら、絶対に人間の街に着いた途端に、私を捕まえるつもりなんでしょ!」


 チンカーヘルが、俺をもの凄く警戒してる。

 なんか、入りを間違えたか?いつもだったら、自分から着いて来ると言ってくれるのに……


「だから、お前の事を知ってるのは、俺がお前に会ったのは、これが3回目だからだよ!」


「やっぱり、人間の街からプリティな私を捕まえる為にやって来た刺客だったのね!

 私、アンタなんかに絶対に捕まらないんだから!」


 チンカーヘルは、猛スピードで俺達の元から逃げて行く、しかし、


 俺は、簡単にチンカーヘルを捕まえる事に成功してしまった。


「アレ?魔力が伸びて実体化する……何でだ?」


「何?この気持ち悪いの?!」


 俺の魔力が見えるチンカーヘルは、俺の魔力の手から抜け出そうとするが、俺の魔力を破壊出来るのって、今のところ黒龍だけなんだよね……

 チンカーヘルが、どんなに力持ちでも俺の魔力の手から逃れる事など不可能なのである。


 まあ、そんな事より、俺の魔力の手が実体化した事に、俺自身は驚いていたりする。

 前回の死に戻りしたばかりの頃は、こんな事、俺は出来なかった。

 だけど、今回は、最初から魔力を実体化出来ている。


 これって、もしかしたら、死に戻りしてもレベルは落ちないって事を意味するのでは……


 黒龍って、どうやら俺が強くなる事を望んでそうだし。

 そう考えると、今の状態はおかしい事ではないという事か?


 というか、これって本当に死に戻り?


 普通は、死に戻りしたら、以前の状態に戻るものじゃないのか?

 分からん……兎に角、今はチンカーヘルに協力させる事を考えなければならないし。


「簡単に説明すると、俺は今のこの状況を3回体験してる。

 そして、過去2回は、チンカーヘルが協力してくれて、黒龍に挑み、見事負けて死んでしまってるんだ!」


 俺は、取り敢えず、端折って説明してみる。


「言ってる意味が分かんないわよ!」


「だから、俺は死に戻りしてるんだよ! 所謂、タイムリープしてるって事!

 だから、お前と、今回で3回会ってるからお前の事を知ってるんだよ!」


「タイムリープ? 何、それ?おもしろそうね!」


 なんか、チンカーヘルが興味を持ったようだ。


「多分、黒龍が持ってる能力かスキルじゃないのか?」


「ふ~ん……そうなんだ。黒龍って、そんな能力持ってたんだ……確かに、黒龍は天候を操る能力の他に、時空を操る能力があるって聞いた事あったけど、タイムリープがその能力って訳か……」


 チンカーヘルは、思う事があったのか考え込んでいる。


「で、お前は、俺を鍛えてくれるのか?」


「鍛えてもいいけど、私、まだアンタの事、何も知らないのよね。

 アンタだけ私の事知っていて、私がアンタの事、何も知らないのは狡いと思うのだけど?」


 そんな訳で、俺は今迄あった事を、丸1日かけて全て、チンカーヘルに説明してやったのだった。

 チンカーヘルには、絶対に協力してもらわないといけないし。


「グスッ。アンタ辛い思いしてたのね。アンタって、本当に良い奴。

 奴隷になった彼女を助ける為に、自分の命を掛けて、殆ど神に近いと言われてる黒龍に挑むなんて、しかも2回も失敗して死んじゃってるし……

 本当、アンタってアホよね。

 だけど、私は、そんなアンタの事が好きよ!

 私も、イケメンの男の子に命懸けで救いに来て欲しいもの!

 私は、黒龍に囚われたプリティーな妖精姫。

 タカシ!アンタ、私に惚れなさい!

 そして、可愛そう妖精姫の私を黒龍から救いだして!」


 チンカーヘルが、妄想しておかしな事を言い出した。

 別に、チンカーヘルは、黒龍に捕らわれてないだろ……


「で、俺を鍛えてくれるのかよ?」


 俺は、チンカーヘルの話は置いといて、話を進める。


「私の話は無視! だけど、いいわよ!

  私の見立てでは、頑張れば、黒龍と互角になるぐらいは引き上げて上げれるかも、ただし軽く見積もっても、70年ぐらいは掛かるけどね!」


「だから、それじゃあ遅いから! 俺の話聞いてたのかよ!

 俺は、急いでるから、黒龍を倒す選択をして、ここに居るんだよ!

 あのな! 妖精だから知らなかもしれないけど、人間の寿命って、とっても短いんだからな!」


「そうなの?!」


 俺は、無知過ぎるチンカーヘルに、人間と妖精の種族の違いと寿命について、1時間も掛けて、詳しく説明する羽目になったのだった。

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