第34話

 

 魔力が伸ばせるようになった俺は、攻撃の幅が拡がった。

 なんかの漫画に出てくるゴム人間より凄い。

 だって、俺の魔力パンチは攻撃されても痛くないし、しかも透明。


 俺の魔力が見えない者にとっては攻撃受けても、何が起こったかわからないのだ。


 しかも、生活する上でとても便利。

 テレビのリモコンとか遠くに置いてあっても、簡単に取る事ができるし、魔力で出来た手も自由に動くから、その場でリモコンのスイッチを押す事さえ出来るのだ。


 まあ、この世界にはテレビが無いのでリモコンを押す機会は無いのだけど。


 俺は、魔力パンチの可能性を模索する為に、色々やってみる事にしてみた。マリエを、持ち上げたりね。


「キャー! 何コレ! もしかして、タカシ兄がやってるの!」


 空に浮いているマリエが驚いている。

 俺の魔力は、現在30メートルぐらい伸びるから、マリエを使って、遠くを偵察とか出来るかもしれない。


 というか、コレッて、俺自身も飛べないか?


 俺は、マリエを置いて、足を伸ばすイメージで魔力を伸ばす。


「やべぇ! 俺、空飛んでるよ?!」


 足を伸ばしてるだけだから、空を飛んでると言えるかはわからないが、俺の魔力が見えな者にとっては、完全に空に浮いてるように見える筈だ。


 パンチを飛ばせば黒龍に届くかもと思ってたが、これなら黒龍の目線の高さまで、俺自身が行く事ができる。


 この実体化する伸びる魔力を持ってすれば、なんとかなる! これで、黒龍を殺れる!

 俺は、絶望の暗闇の中から、希望の光を手繰り寄せる事に成功したのだ。


「黒龍を殺りに行くぞ!」


「ちょっと、ちょっと、何言ってんの! ストップ! ストップ! その程度じゃ黒龍倒せないからね!

 分かってんの! 黒龍は龍種の中でも上位龍に属してるのよ!

 それくらいの実力じゃ、返り討ちよ!」


 チンカーヘルガ、慌てて止めに入る。


「殺れる! 俺は絶対に黒龍を殺れる!」


 俺は、呪文のように自分に言い聞かせる。

 まずは、自分自身が黒龍を倒せると信じて居なければ、絶対に黒龍を倒す事など不可能なのだ。

 少しでも、負けるなんて思ってたら、黒龍に挑む事さえ出来なくなる。


「だから、何度も言うように黒龍は、次元が違うんだから!」


「次元が違っても俺は殺る! 必ず黒龍を倒す!」


 俺には時間が無い。こうしてる間にも、エリーはマイクにヤラれまくってるかもしれないのだ。

 そんな事を考えてしまうと、俺の心は張り裂けそうになり、どうにかなってしまいそうになるのだ。


 早くエリーを助けださないと……


 マイクは、あんなに仲良し彼氏彼女だったタイガー君の彼女を寝とった過去がある寝取り男だ。

 きっと、マイクは、物凄いマイクと、女の子をメロメロにしてしまう超絶テクを持っているに違いないのである。


 そんな事を考えてしまった俺は、チンカーヘルが制止するのも聞かずに、黒龍の住処に、自然と走り出してしまうのだ。


「ちょっと待ってよ! タカシ兄!」


 マリエも慌てて着いて来る。

 このまま置いて行ってもいいのだが、ここは魔物が溢れるアビス山脈。他って置いたら、魔物に食べられてしまう。

 俺は面倒臭いので、魔力の手を伸ばし、マリエを浮かして持って行く事にする。


「わあ! 凄い!速い! なんか私、鳥になったみたい!」


 マリエは、空を飛べて御満悦。

 まあ、黒龍の強さを知らないマリエは、普通に旅を楽しんでるし。


「もうーー! 本当に、どうなっても知らないんだからね!」


 チンカーヘルも、プンプンになりながらも、なんやかんや俺に着いて来る。

 結構、チンカーヘルって、義理堅い性格をしてるのかもしれない。


 そして、俺は再び、黒龍と相対した。

 結構長距離を走ったのだが、魔力を帯びてる俺に、疲れなどないのである。


「クワッハッハッハッハッハッ! 懲りずにまた来たな!」


 どうやら、黒龍は、俺と2度目の遭遇だという事を知ってるようである。


「お前、何で俺を知ってるんだよ!」


「それは、ワシの能力なので当然だ!お主は、まだまだ強くなりそうだったのでな。

 お主は、過去にワシに挑んで来た者達と違って全く諦めてなかったし、目が死んでなかった!

 なので、ちょっとお前と遊んでみることにしたのじゃ!

 ワシは見ての通り、強過ぎて暇を持て余してるからな!」


 なんか黒龍は勝手な事を言ってるが、俺にとっては、もう一度チャンスを貰えてラッキーだったというしかない。


「俺は強くなった! 必ず、お前を殺してやる!」


 俺は、自らの過ちを黒龍に分からせる為に、宣言してやる。俺にもう一度チャンスを与えた事を、後悔させてやる為に。


「クックックックックッ。やはり、そうでなければな。

 軍隊も勇者パーティーも弱過ぎて、最後にはみんな絶望した目をして死んでいった。

 だが、お前の目は違った。死ぬ直前の最後まで諦めていなかった。とても悔しそうな顔をしていた。

 今迄、ワシと相対して来た者達の中で、お前のような目をした者など皆無!

 奴らに、もう一度チャンスをやったとしても、決してワシの前には現れなかったであろう。

 だが、お主は、ワシの見立て通り、再び、ワシの元に訪れた。

 思ってたより、相当早かったが、全く心が折れておらぬ! その心意気良し!

 ワシも、お主の心が折れるまで、全力で叩きのめしてやろうではないか!」


 前回と同様、言い終わる前に、暗雲がたちこめ、雷が俺に目掛けて飛んで来る。


 マリエは危ないから、黒龍の住処の入口に置いて来ているから大丈夫。

 会話の途中に、いきなり戦闘を仕掛けて来る事は、前回経験してるから分かっていたのだ。


「だから、俺には雷は効かないんだよ!」


 俺の魔力が、雷を弾きながら、俺は黒龍に向かって走り出す。


「ふむ。そうだったな。ならば!」


 黒龍は、前回同様急降下して来て、俺の真横をすり抜けて行く。

 そして、最後に尻尾で俺を叩こうとしたが、今の俺には自由に手足のように伸ばせる実体化する魔力があるのだ。


 俺は、黒龍が俺の真横を横切った時に、既に、黒龍の角を掴んでいた。

 俺は、尻尾で叩かれそうになった瞬間、魔力の手を縮めて、黒龍の首に張り付いた。


「なんと! 今、どうやった?!」


 流石に、これは黒龍もビックリしてる。

 黒龍も、チンカーヘル同様に、魔力を視認できるかもしれないので、敢えて、黒龍に見えないように、俺の横を通り過ぎたのを見計らってから、黒龍の角を掴んだのだ。


 黒龍にしたら、俺の横を通り過ぎた筈なのに、気付いたら、首に張り付いてるから、さぞビックリしただろう。


「誰が、種明かしするかよ!」


 俺は、魔力を込めて、黒龍の首をパンチする。

 だが、黒龍の鱗は硬すぎて、俺の全力魔力パンチでもビクともしない。

 よく考えたら、前回も俺は魔力を纏っていたに関わらず、尻尾で叩かれただけで死んだのだ。


 それは俺の魔力より、黒龍の体の方が硬い事を意味していたのである。


「カッカッカッカッカッ! 驚かしてくれる!だが、そんな攻撃ワシには効かぬ!

 もう一度、修行して出直して参れ!」


 ペシッ!


 俺は、何かに叩かれて地面に落ちる。

 多分、黒龍も俺の真似をして、死角から尻尾で俺を叩いたのであろう。

 見事に、やり返されてしまった……


 やはり、黒龍は強過ぎる。魔力が物体化して伸びるようになったくらいでは、勝てなかった。


 ああ……クソ……血が流れ過ぎた……朦朧とする。

 相変わらず、逃げ足が早い、チンカーヘルは逃げてるし……


 クソッ……意識が遠のいて行く……


「クックックックックッ。また、会おうぞ!」


 黒龍の嬉しそうな笑い声を聞きながら、再び、俺の意識は途切れたのだった。

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