第32話
俺は、戦いたくない気持ちを抑え込んで、一歩前に出る。
本当に恐ろしい。
足がプルプル震えてるし、これが武者震いだったら格好良かったのだが、どう考えても、完全にビビってるだけのようだ。
恐る恐る、上空を飛んでるであろう黒龍を見ると、その鋭すぎる金色の目と目が合ってしまった。というか、興味深く、俺達の様子を見ていたようである。
「人間。我と戦う気か?」
黒龍は人語が話せたのか、威厳のある低い声で、突然、俺に話し掛けてきた。
「ああ。俺は、エリーを助けに行かないといけないからな!」
何か、言い返さないと、そのまま黒龍の圧に飲み込まれてしまいそうなので、俺は勇気を振り絞り、声を大にして黒龍に言い返した。
「フフフフフ。エリーとな?恋人でも助けに行くのか?その心意気良し!
ならば、我を倒し、我が屍の上を通って行くが良い!」
黒龍が喋り終わるのを待たずにして、暗雲が立ち込め、ゴロゴロと音を立てながら、黒い暗雲の中で雷が放電しだす。
その暗雲の中を飛び回る姿は、まるで掛け軸に描かれた、雷雲を駆け巡る龍の如し。
もう、戦うしかなくなっている。
黒龍は既に、臨戦体制に入っているのだ。
俺は見切り発車だが、取り敢えず、黒龍に向かって走り出すしかない。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴーーン!
黒雲から、俺を狙い済ました雷が落ちてくる。
一発でも当たれば黒焦げになってしまいそうな威力だが、俺は、雷を、通さないイメージで魔力を張ってるのだ。
ドコドコ、ドッカン!
「ウワッ!!」
俺は、黒龍の雷に直撃してしまう。
しかし、雷を通さないイメージの魔力の効果か、全くダメージは無い。
これは行けるかも。
俺は、何だか行けそうな気がして、そのまま黒龍に向かって突っ込む。
しかし、空を飛んでる黒龍に攻撃する術などない。
せめて地上に降りて来てくれれば、何とかなると思うのだけど。
「クワッハッハッハッ! 雷が効かぬか! ならば、」
空を飛んでいた黒龍が、急降下してきて、俺のすぐ脇を通り過ぎる。
これは、攻撃するチャンスだと思ったのだが、突然の事に体は反応しない。
逆に、最後に尻尾の先で鞭のようにしならせて、軽くペシッ!と、俺を叩いてきた。
「グワッ!」
俺は、魔力によって防御してるにも関わらず、何十メートルも吹っ飛ばされて、岩山に激突する。
ズドドドドドドーン!
「げふっ!!」
体中に激痛が走り、口から大量の血が飛び出る。
肋骨や体中の骨が確実に何本も折れてるし、内蔵も破裂しているのが自分でも分かる。
というか、体が動かない。痛い筈なのに、痛覚が追い付いていないのだ。
「タカシ兄ーー!!」
俺が元居た近くで、マリエが叫んでいる。
マリエを助けなきゃ……このままでは、マリエまで黒龍に殺されてしまう。
既に、俺の魔力は事切れて、俺の魔力でマリエを守れていないのだ。
まあ、魔力が切れてなくても、結果は同じのような気がするけど。
俺の今の力では、黒龍の物理攻撃を防ぐ術などないのだから。
ペシッ!
ぶしゅー!
マリエも、黒龍の尻尾ではたかれて破裂した。
『ウワァーー!!』とか、叫びたいが、肺に血が入り込んでしまってるのか、叫ぶ事も、息をする事もできない。俺は、なんと無力なのだろう。エリーは疎か、妹のマリエでさえ守れないなんて。
チンカーヘルの方を見ると、何とか黒龍を撒いて逃げ延びれたようである。
「クッワッハッハッハッハッ! 人間脆弱なり! その程度の実力で、我に挑もうと思ったとは、片腹痛し!
チャンスをやる!修行して、出直して参れ!そして、我を越えてみせるがよい!」
俺は、黒龍の高笑いを聴きながら、そのまま意識がなくなってしまったのだった。
ーーー
「ハッ!」
俺は、その場から飛び起きる。
「タカシ兄、変な虫が落ちてるよ!」
マリエが、チンカーヘルを摘み、俺の元に持ってくる。
夢?まさか正夢?
「食べていい?」
「いやいや駄目だから、回復魔法を掛けて上げなさい!」
俺に言われて、マリエがチンカーヘルに回復魔法を掛ける。
「あれ……私、何で寝てたの?」
「タカシ兄! 変な虫が起きたよ!」
「変な虫じゃないわい! 私は水仙の谷に住む大妖精チンカーヘルよ!」
「何それ?美味しいの?」
「妖精食べちゃダメ!」
マリエとチンカーヘルが、わちゃわちゃやっている。
というか、これは夢?
俺は、黒龍に殺された筈なのだが?
もしや、流行りのタイプリープ?
頬をつねってみるも痛いし、マリエも死んで爆発してないし。
タイプリープだとしても、このまま黒龍に挑んでも絶対に負ける事は分かっている。
完全に詰んでる……
やはり、チンカーヘルも言ってたように修行してレベルを上げてから、黒龍に挑むのが正解なのか?
そしたら、エリーをいつまでも助けられなくなってしまう。
そうこうしてる間にも、マイクにヤラれまくって、マイクのマイクの虜になってしっているかもしれないのだ。
やはり、俺にも修行する暇などない。
だけれども、黒龍が居る山に行く道中だけでも、少しでも多く魔物を倒してレベルを少しでも上げる事は出来る。
今迄は、早くアビス山脈から出る事だけを優先して、魔物との戦闘を避けていたのだ。
「行くぞ!」
「えっ? この羽虫はどうするの?」
「羽虫ちゃうわい! 私は大妖精チンカーヘルだっちゅーの!」
マリエとチンカーヘルが、何か言ってるが、相手をする暇などないのだ。
俺は、魔力を極力抑えて、魔物を倒しながらレベルを上げ、黒龍に挑む決意をしたのだ。
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