第29話 チンカーヘル

 

 俺とマリエは、なし崩し的に、光の妖精チンカーヘルを手伝う事となった。


 まあ、どっちみち水仙の谷は通り道だし、次いでと言ったら、次いでなんだけど。


「アンタ、ちょっと、その強力な魔力を抑えなさいよ!

 それじゃあ、魔物が逃げて行っちゃうじゃないの!」


 チンカーヘルが、文句を言ってくる。


「別に、逃げてくれるならいいんじゃないのか?」


「良くないわよ! それじゃあ、アンタ達が行った後、また、魔物が戻ってくるでしょうが!

 しっかり、全部殺してくれないと、アイツら繁殖力が異常だから、また、あっという間に増えて、水仙をムシャムシャ食べるに決まってんだから!」


「別に、水仙をムシャムシャ食べてもいいんじゃないのか?」


 チンカーヘルが、水仙の花が好きなら兎も角、このガサツそうな妖精が花を愛でるとか、到底思えないので聞いてみる。


「アホか! 水仙が咲いてるから他の魔物が寄って来ない訳で、水仙が無くなったら、他の場所みたいに魔物が溢れる魔境になっちゃうでしょうが!

 そんな事になったら、こんなか弱い妖精なんか、すぐに殺されて食べられちゃうんだからね!」


「お前、強かったんじゃなかったのかよ?」


「強いわよ! なんたてたって、私は水仙の毒の鱗粉を撒き散らせるんだから、毒に耐性のない魔物ならイチコロよ!」


 まさかの毒の鱗粉……


「聖なる光の妖精が、毒って……やっぱりお前、地獄の妖精だろ?」


「別に、私は毒の鱗粉だけじゃないから! 回復魔法も使えるし、目からビームも出せるんだからね!」


「目からビームって、メッチャ怖いんだけど……」


「何、言ってんの! 目からビームってメチャクチャ格好良いじゃない!

 それから、体も光らせられるから、暗闇だって、明るく照らせるのよ!

 なんせ私は、聖なる光の妖精チンカーヘル様ですからね!」


 チンカーヘルは、エッヘンと胸を張る


「なるほど、お前をランタン代わりに使えるって事な」


「ランタン言うな! 私には、チンカーヘルっていう立派な名前があるんだから!」


「へいへい」


 チンカーヘルをからかって歩いてたら、いつの間にか水仙の谷に近付いてたようなので、俺は魔力を抑える。


 そしてそうこうしてたら、水仙をムシャムシャ食べるという魔物が見えてきた。


「アイツらよ!」


 チンカーヘルが、俺の後ろに隠れて、水仙の花をムシャムシャ食べてる魔物を指差す。というか、この魔物は……女騎士を陵辱する事で有名な魔物のような気が……


「豚さんだ! 美味しそう」


 マリエは、どう考えても魔物であるオークを見てヨダレを垂らしてる。

 どうやら、ヤヌー牧場から出た事が無いマリエは、女騎士の敵オークを知らなかったようである。


「アイツら、オンナと見ると見境なく犯そうとしてくるから、厄介なのよね。

 私も捕まったら、恥辱されちゃうんだわ!」


 チンカーヘルは、青い顔してブルブル震えてるが、チンカーヘルは小さいから絶対に大丈夫だと思う。どう考えても、奴らがぶら下げてるナニは、巨大過ぎるからチンカーヘルに付いてるどの穴にさえ入らないと思うし。


「まあ、取り敢えず、アイツらを殺せばいいんだな?」


「そうよ! ギッタンギッタンにやっつけて!」


 どんだけこの妖精は、他力本願なのだろう。

 まあ、オーク肉は美味そうだから殺しちゃうんだけど。

 マリエも、なんかヨダレを垂らして食べる気満々だし。


 俺は、水仙を食べるのに夢中なオークに近づいて、手刀で首をチョッキンパしてやった。


「プギャー!!」


 というか、やはり俺にはオーク程度、全く敵じゃない。


 一匹殺されたのに気付いたオーク達が、俺の存在に気付き襲い掛かってくる。


 だけれども、俺は、体を覆うように1センチの厚さの魔力の膜を張ってるから大丈夫。


 オークは、力任せに体当たりしてきたのだが、みんな俺の強固な魔力の膜にぶち当たり、頭を回して気絶してしまってるし。

 本当に、俺の魔力、何でもあり。


 暖かくできたり、冷たくできたり、硬くしたり、柔らかくしたり、小さくしたり、大きくしたり。自分が思ったら都合良く魔力の性質が変わってくれるのだ。


 取り敢えず、オークが俺の敵じゃないと分かったので、次々にオークの首をチョッキンパしていく。

 そのまま、血抜きしないといけないからね。


 そんでもって、チンカーヘルも空気を読んで、首を斬られたオークを持ち上げて飛んで行き、次々に木に吊るしてくれている。


 というか、ヤッパリ、チンカーヘルは、自分で言ってたように力持ちなのか?

 まあ、力持ちというより、どうやら魔力の力のように思える。

 俺と同じように、光の魔力を身体に纏ってるし、それにより、重いオークを持ち上げる事が出来るのだろう。


 マリエに至っては、もう食事の準備しを始めてるし。

 落ちてた石で竈を作って、枯れ木を拾い火起こしまでしてるし。

 どんだけ気が早いのだ……


 俺は、20分掛けて全てのオークを掃討し終えると、待ちに待ったオーク肉の焼肉の時間。


 俺は、手際良く、オーク肉を解体して行く。


「アンタ、本当に凄いわね」


 俺の有り得ない解体スピードを見て、チンカーヘルは、口をポッカリ開けてアホみたいに驚いているし。


「ふふ~ん! タカシ兄は凄いんだから!」


 何故か、マリエが鼻高々。


 俺は、綺麗にオーク肉をスライスして、その場で木を切り倒して作った皿に山盛りに盛って行く。


「美味しそうね……ジュルリ」


 チンカーヘルは、オーク肉の山を見て舌なめずり。チンカーヘルも、どうやらマリエと同じく、食いしん坊キャラのようである。


「じゃあ、味付けするぞ!」


 俺は、唯一持ってる調味料の塩を、オーク肉に振り掛ける。


「エッ? 味付けはそれだけ?」


 チンカーヘルが驚いている。

 どうやら、チンカーヘルは美食家のようだ。


「仕方が無いだろ? 俺達、塩しか持ってないし」


「仕方が無いわね。これは、美味しい焼肉の為よ!」


 突然、チンカーヘルは、空中に手を突っ込み、中から色んな調味料を出してきた。


「お前、何したんだ?」


「ん?インベントリを使っただけよ?

 私って、ほら、高位の妖精だから、インベントリくらい余裕で使えるのよ。

 まあ、体が小さいから、物を運ぶ時苦労するでしょ! 妖精族って、気分でフラフラ移動しちゃうから、インベントリ仕えると便利なのよね!一々、物を取りに家に戻るのも面倒だし!」


 まさかのインベントリ。異世界勇者御用達のスキルなのに、俺じゃなくて、ただの妖精が使えるなんて……


 俺が悔しがってるのを他所に、チンカーヘルは、勝手に肉に下味を付けていく。


「うん。こんなものね! これで5倍は美味しくなったわよ!」


 確かに美味しくなりました。

 塩だけの焼肉を食べてた、昨日までの自分に戻れないくらい、衝撃を受けました。


 そして、調味料を分けて貰えないか、チンカーヘルに頼みました。


「ん? いいわよ! 私、ご飯がマズイって耐えられないの!

 それより、アンタ達って、人間の街に行くのよね?

 私、もう一度、人間の街に行ってみたかったのよね!

 前に行った時もは、プリティーな私を、人間達が捕まえようと躍起になって襲って来て恐ろしかったけど、アンタ達強そうだし、私を守ってくれるんでしょ?」


 どうやら、チンカーヘルは、俺達に着いて来るようである。


「ん?俺が、お前を捕まえる悪者とは思わないのか?」


 そう、俺は本来、このチンカーヘルを捕まえれば事足りるのだ。捕まえて、言うこと聞かせればいい訳だし。


「だから、アンタ達は聖属性の魔力を纏ってんの! そんなアンタ達が悪い事する筈ないじゃない!

 だから、私は、アンタに助力をお願いしようと近付いた訳で、実際、アンタもブツブツ言いながらも、魔物を倒してくれたでしょ!」


 チンカーヘルが、説明する。

 というか、俺達に着いて来るんだったら、俺がオークを倒した意味など無かったんじゃないのか?


「折角、オークも居なくなったのに、本当に着いて来てくれるのか?」


「何度も言わせないで! 私は人間の街に行きたいの!

 今迄は、前回のトラウマが会って、人間の街に近付くのも怖かったけど、もう、アンタという護衛が居るから安泰よ!」


 光の妖精チンカーヘルは、言い切った。

 まあ、俺もチンカーヘルを利用したいから、着いて着て欲しいのだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る