第28話 18日目

 

 次の日、朝起きると俺達から3メートルくらい離れた所に、サッカーボールぐらいの羽根が生えた女の子が泡を吹いて倒れていた。


「タカシ兄、変な虫が落ちてるよ!」


 マリエが、ばっちい物でも触るように、羽根を摘んで俺の元に持ってくる。

 というか、この泡吹いるの妖精だよな……この世界では、妖精ってばっちいの? それとも、ゴキブリの区分?


「多分、それは妖精だな」


 取り敢えず、俺は、無知なマリエに教えてやる。教えとかないと、ゴキブリと勘違いして殺しちゃうかもしれないからね。


「何、それ? 美味しいの?」


 マリエさん、妖精食べちゃうの?

 というか、マリエは妖精を、本当に知らなかったようだ。

 まあ、マリエは、ヤヌー牧場育ちなので、外の世界の事を何も知らないのであろう。

 だって、ヤヌーの学校で習う事って、道徳と歴史と保険体育がメインだからね。


 しかも、全部、ヤヌーを都合良い愛玩奴隷に洗脳する為の教育だし……


「多分、そいつは妖精だな。しかも、俺の魔力に当てられて、近付いてきたはいいが、気絶しちゃったみたいだな……」


 なんの為に、この妖精が俺達に近付いて来たかは知らないが、俺の魔力って、どうやら人によってプレッシャーの掛かる度合いが違うみたい。


 マリエなんか、もう、殆ど平気だけど、魔物とかは、俺の垂れ流し状態の魔力のせいで、20メートル以内には近付けない。

 多分、俺に対する悪意によって、俺の魔力が勝手に判断し、俺に近付ける距離を制限してるのだろう。


 となると、この妖精は、結構、俺に近付いて来れたので、俺に対する悪意が弱かった事になる。それか、俺の魔力に耐えれるだけの力を持ってる大物かの、どちらかだろう。


 最終的には、後、3メートルの所で力尽きたみたいだけど。


「マリエ、コイツに回復魔法掛けてやれ」


「奇跡の力ね!」


 マリエは、妖精にヒールを唱える。


「あれ……私、何で寝てたの?」


 また、俺の魔力に当てられて、気絶しちゃうかもと思ったが、妖精は目を覚ました。

 まあ、俺が助けようと思った時点で、勝手に俺の魔力が妖精を受け入れたのであろう。


「変な虫が起きたよ!」


 マリエは、嬉しそうに俺に報告する。


「変な虫ちゃうわい! 私は光の妖精チンカーヘル、この先にある水仙の谷を縄張りにする妖精よ!」


 なんか何処かで聞いた事あるような既視感ある名前の妖精が、鋭いツッコミと共に、自己紹介をしてきた。


「ティンカーベルじゃないのかよ?」


「ティンカーベル? 何それ、美味しいの?」


 なんか知らんが、チンカーヘルがヨダレを垂らしてる。というか、天丼?どうやらチンカーヘルは、お笑いについて分かってるようだ。


「俺が元いた世界では、妖精て言ったらティンカーベルなんだよ! チンカーヘルって、ティンカーベルのバッタモンかよ!」


「失礼な! チンカーは、お花の水仙の品種の一種! ヘルはそのままんま地獄のヘルよ!」


「地獄って、お前、聖なる光の妖精じゃなかったのかよ!」


「アンタ、知らないの?水仙には毒があるの。だから、こんなプリティーな私に気安く近付くと、火傷しちゃうわよってのが、名前の由来よ!」


「へいへい、なんか恐ろしい名前のことで」


「アンタ、なんか私のこと舐めてない?

 私、こう見えてとても強いんだから!」


 なんか、チンカーヘルが、マリエの手から逃れてシャドーボクシングを始めた。

 というか、どう見ても強そうには見えない。ギュッ!と掴んだら握り潰せそうだし。


「所で、お前は、何で俺達の所に近付いてきたんだ?」


 俺は、チンカーヘルに付きやっても良かったのだが、先を急いでるので、とっとと要件を聞く事にする。


「ふん! 私の強さに恐れをなしたのね!いいわ! これからアンタ達を、私の下僕にしてあげるわよ!」


「何で、俺が、お前の下僕にならんといかんのだ?」


 俺は、チンカーヘルを捕まえて、握り潰す。


「痛たたたっ! アンタ、なんてパワーしてるのよ!私は、こう見えても力持ちなのに! アンタの力、ちょっと異常よ!」


 チンカーヘルが悲鳴を上げる。

 というか、俺はそんなに力を入れてない。


「で、お前は、結局、何の為に俺達に会いに来たんだ?」


「分かったわよ! 言うから離して!」


 俺は、仕方がないので離してやる。


「本当に、人間って馬鹿力なんだから」


「で、話は?」


「アッ、話だったわね。私の縄張りの谷に最近、魔物がたくさんやって来て荒らし回ってるのよ!

 本来、水仙の谷は、水仙自体に毒を含んでるから、あまり魔物は近付いて来ないのだけど、どうやら、その魔物は毒耐性があったらしく、水仙をムシャムシャ食べちゃうのよね。

 このままだと、水仙の谷じゃなくて、ただの谷になっちゃうと思ってた所に、アンタ達が近付いくるのを感じたの!」


「話は分かったが、何で俺達に接触しようと思ったんだ?」


「それは、アンタ達が強烈な聖なる魔力を放ってたからよ!

 だから、アンタ達に助けて貰おうと思ったの!

 大体、心が清い人は、聖なる魔力を纏ってると相場が決まってんの!

 このチンカーヘル様のようにね!」


 何故か、チンカーヘルが、無い胸を張ってエッヘンとする。


「お前、心が清いのか?」


 どう見ても、偉そうにしてるチンカーヘルは、心が清そうに見えない。


「何言ってんのよ! 私は光の妖精なのよ!光魔法が聖属性なのは常識でしょ!」


「だけど、お前、名前にヘルって入ってるだろ?本当は、地獄の妖精じゃないのか?」


「それは、格好良いからチンカーヘルって名乗ってんのよ! 文句ある?」


 何故か、開き直ったチンカーヘルは、再び、エッヘンとした。

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