第27話

 

 俺達は、山道というか獣道を発見したので、そこを通って山越えを試みる。

 一応、アビス山脈の中で、一番なだらかな場所から山越えしようとしてるので、切り立った崖を登るとかは無いであろう。


 そして、一々戦闘するのも面倒なので、魔力垂れ流しのまま、山道を進む。干し肉を干した槍を背負ってね。

 肉をぶら下げて歩いてるもんだから、遠目から魔物達がヨダレ垂らし様子を伺ってくるが、俺達を襲ってくる気配はない。


 相当、俺の事が怖いのであろう。覇気だけで魔物を寄せ付けないって、世紀末覇者にでもなった気分。


 そんな感じで、俺達の旅は順調に進み、昼になったので昼休憩する事にする。


「生肉うめ~」


 塩を剥ぎ取り、まだ干し肉になりきってない兎肉を食べる。

 俺って、前世では、ユッケとか鳥の刺身とか好きだったから、生肉大好物なんだよね。これでゴマ油かなんかあったら最高なのに。


 まあ、鳥の刺身で2回当たった事があるけど、マリエが回復魔法使えるから大丈夫でしょ。

 最悪、お腹に回復魔法掛けてもらえば治りそうだし。


 こんなに自由に生肉食べれる世界って最高かよ!マリエも恐る恐る生肉食べてたけど、結局は美味しそうに食べてるし。


 本当に、日本人って凄いよね。生魚とかも普通に食べちゃうし。まあ、これもしっかり血抜きしてるからであって、血抜きしてなかったら、きっと生臭過ぎて食べれたものじゃなかったと思うし。


「お水、美味しぃ~」


 マリエは、貴重な水筒の水をグビグビ飲む。


「マリエ、水は考えて飲めよ!」


 マリエは、今後の事を全く考えてなさそうなので注意する。

 まあ、ヤヌーって、多分、ヤヌー牧場の外に出た事ないから、遠出の大変さを全く分かってないのだ。


「大丈夫だよ! 私、サルーの先生が奇跡の力で水を出してるとこ、見た事あるし!」


 そして、「ウォーター!」と、マリエが念じると、手のひらから、ドバドバと水が溢れだしてきた。

 一度見ただけで、魔法が使えちゃうって天才?


「お前、魔法の才能あったんだな……」


「ん?魔法って奇跡の力の事?」


「ああ」


「そりゃあ、私は普通のサルーじゃなくて、ハイブリッドサルーのタカシの使徒だから、これくらい出来て当然だよね!」


 何なの、その自信?

 まあ、魔法で水が出せたらありがたいけど、間違いなく、マリエは俺より魔法の才能がある。

 俺なんか、いくらウォーターと唱えても、水なんか出て来ないしね。


 俺が出来るのは、体に魔力を纏わす事だけ。

 まあ、実際、それで事足りてるのだけど。


 俺の魔力操作も段々こなれて来て、物凄く薄く伸ばせば、半径30メートルぐらいまで伸びる事に気付き、しかも、俺の魔力の中に入って来た魔物とかも、普通に感知できたりする。


 多分、これが気配察知能力というのだろう。

 他の人と、やり方が一緒かどうかは知らないけど。


 しかも、俺の魔力って、温度調整も出来るみたい。暖かくなれと思えば暖かくなるし、冷たくなれと思えば冷たくなるし。

 本当に、冷暖房の燃料代を節約できちゃう。


 でもって、まだまだ傾斜は緩やかなのだけど、少し標高も上がってきて、肌寒くなってきたので、俺の周りだけ少し温度を上げてやった。

 だって、マリエの服装って、下着みたいなもんだからね。お腹出して寒そうだし。


 どう考えても、山登りする服装じゃないけど、ヤヌーの学校の制服だからしょうがない。


 まあ、俺の近くにいれば、マリエは極寒の地でも今の格好でヘッチャラで歩けちゃうのだけど。


 そんな事も確認しつつ、俺達は先に進む。


「疲れないか?」


 自分が疲れて来たので、マリエに質問してみる。女の子より先に疲れたとか言うと、格好悪いからね。


「うん。ヘッチャラだよ!体育の時間に鍛えてるからね!」


 マリエは力こぶを見せる。

 本当に、ヤヌーやサルーは体格に恵まれてる。

 見た目、痩せ型のモデル体型だけど、健康的に筋肉付いてるし、うっすらだけど、お腹もシックスパックに割れているし、運動神経メチャクチャ良さそうに見えるしね。


 それもあって、エリーを救う旅に、マリエも連れて行く決心をしたのだけど。

 そして、結局、休憩出来ずに歩いてたら、やっとこさ暗くなって来た。


「もうそろそろ暗くなってきたから、ここで野営するか?」


 というか、もう歩けないし、歩くの止めたい。俺は、マリエの体力を舐めていた。


「うん。私、汗ばんじゃったから水浴びするね!」


 マリエは、そう言うと躊躇なく服というか布を脱ぎ出す。

 本当は、結構寒いんだけど、マリエは俺の魔力の中に居るから適温。素っ裸でも、全然大丈夫。


 普通、こんな魔物だらけの寒い山奥で水浴びなんかできないからね。


「タカシ兄も、水浴びしよ! 私が水掛けて上げるよ!」


 俺も言われて服を脱ぐ。

 だけど、俺……なんか海外の刑務所の囚人みたい。

 裸の俺に、勢い良く水をぶっ掛ける刑務官マリエの図。

 何度も言うけど、普通、こんな山奥で素っ裸で過ごせないからね。


 魔物から見たら、食べられる為に裸になって、身を清めてるようにしか見えないと思うし。

 だけれども、俺の膨大な魔力のお陰で、何も問題無い。逆に襲って来たら、3枚に卸して、晩御飯にしてやろうと思ってる。


 というか、今日の晩御飯は何にしよう。

 まだ干し肉にはなってない塩漬け状態の肉が有るし、やっぱり焼肉?


 しかし、残念な事に火が起こせない。

 まさかとは思うが、俺はマリエに聞いてみた。


「もしかして、サルーの先生が奇跡の力で火を起こすとこ、見た事ない?」


「見た事あるよ! ほら、ファイアー!」


 マリエは、簡単に指先から火を出してみせた。

 ヤッパリ、マリエは魔法の才能がある。

 それにしても、ウォーターとか、ファイアーとか、この世界の魔法の詠唱って、メチャクチャ簡素みたい。

 俺は、ちょっと気になるので、マリエに質問する。


「奇跡の力の呪文って、普通、一言言うだけで発動するものなのか?」


「ん? サルーの先生は何かゴニョニョ言ってたけど、短縮しても発動しそうだったからやってみた!」


 まさかの詠唱短縮?というか詠唱破棄?

 やはり、マリエは魔法の天才だったようだ。

 感覚だけで、簡単に魔法を発動してるし。


 まあ、それは置いとて、今は焼肉をやるのが一番重要な問題。腹減ってるしね。

 マリエが火を出せるのが分かったら、後は鉄板。

 まあ、鉄板は無いので、岩を手刀でスライスして、石板を作ってやった。


 そして、マリエに火を起こしてもらい、見事、焼肉する事に成功したのだった。

 なんか、遠赤外線効果も出てたのか、とても肉が美味く感じる。

 味付けは塩のみだけど、高級肉を食べる感じで良いよね。後、ワサビもあれば最高かも。


 取り敢えず、今日は、体も洗えて、美味しい焼肉も食べれて、快適な旅が出来ている。しかも、俺の魔力によって体温調整完璧だから裸で寝れちゃったりするし。


 なんか、俺が想像してた野営と大分違う気がするが、快適なのは良いよね。まあ、実際はかなり原始的だけど……


 兎に角、俺とマリエのコンビは、結構、補完性がある事に気付いた。

 俺は、温度調整係と魔物駆除係で、マリエは、回復魔法係と水と火起こし係。


 随分、思ったよりも、快適に旅が出来ちゃってるけど、まだこの時の俺達は、アビス山脈の真の恐ろしさに、全く気付いてなかったのだ……

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