第26話 16日目 17日目
俺とマリエのパーティーは、悪くない。
どんな魔物もワンパンで倒せる俺と、ヒーラーであるマリエ。
これで、俺が怪我したとしてもなんとかなる。
あまり知られてないかもしれないが、古代の戦争の死亡率で一番多かったのは、戦闘での死者でなく、餓死や病死者だと言われてる。
俺がどんだけ強かったとしても、病気になって死んでしまったら元も子もない。
ちょっとした切り傷から、化膿して死んでしまう事だってあるのだ。
樹海には、毒蜘蛛や毒蛇とかもいそうだし。
その点、マリエが入れば安心だ。既に、靴擦れを治して貰ってるしね。
ただの靴擦れだって、侮るなかれ。酷くなれば歩けなくなる場合だってあるのだ。
そんな事を考えつつ、黙々と歩いていたのだが、
「というか、山まで思ってたより遠いな……」
俺は、いつまで経っても、樹海から出られない事に気付く。
最初、結界の外から見た感じだと、既に、樹海を突破してても、おかしくないくらい歩いた感覚だったのだ。
「だね……それより、同じ所を何度も通ってない?」
「嘘だろ?」
俺は確認の為、辺りを見渡す。
「だって、あの木、さっきも見たよ!」
「確かに……」
マリエが言うように、あの木はさっきも見た。熊の爪痕が残ってる木。多分、熊のマーキングか何かだろう。
まあ、山が見えれば、山に向かって歩けば良いだけなのだが、頭上は森の木が鬱蒼と覆っていて、周りの景色がよく分からないのだ。
「コンパスとか無いのかよ……」
まあ、コンパスとかあっても、この世界が地球と同じ法則の世界か分からないので、使えるか分からないのだけど。
そういえば、年輪で方向が分かるって聞いた事があったな。
俺は取り敢えず、手刀で木を切ってみる。
俺が纏ってる魔力は何でもありだ。
大体の物は破壊できちゃうし。
多分、俺の手刀は岩だって真っ二つに出来ると断言できる。
「タカシ兄、何してるの?」
「ああ。年輪見てる。多分だが南側がより日光が当たって成長する筈だから、年輪が伸びてるコッチが南側かな?」
「タカシ兄、もしかして方角が分かるの?」
「この世界の方角が、俺が元居た世界と同じならな」
「方角って、世界によって違うの?」
マリエが、逆に質問してくる。
「太陽が昇ってくるのは、どっちだ?」
「東側だよね?」
「じゃあ、日が沈む方角は?」
「西側だよ!」
どうやら、地球と一緒のようだ。
「そしたら、俺が知ってる方角の法則と一緒だな」
「私達、太陽が昇ってくる方角から森に入ったよ!」
「じゃあ、年輪が成長して伸びてる方が南側だとすると、東はコッチだな」
「タカシ兄! 凄いよ! 流石は、なんでも知ってるハイブリッドサルーだね!」
なんか、マリエが、俺の手を握り、飛び跳ねながら褒めてくる。
殆どの日本人なら、年輪で方角が分かるって事ぐらい知ってるし、正直どういう仕組みで方向が分かるかは知らなかったけど、まあ、実際、年輪見てみたら、何となく分かった。
南側が日当たりが良いって、誰でも知ってるもんね。
そんな訳で、定期的に木を切り倒し、東に向け歩いてると、夕方近く、日が落ちるギリギリに樹海から出る事に成功したのだった。
「思った以上に樹海から出るのに時間がかかったな……」
「でも、タカシ兄の知識が無かったら、まだ今頃、森の中をさまよってたよ!」
「だな」
なんか、マリエに褒められて凄く嬉しい。
というか、顔が格好良いとか、背が高いとかじゃなく、知識で褒めらると、尚更嬉しかったりする。
まあ、一番嬉しいのは、息子が大きいとか、黒くて逞しいとか言われる事だけど。
それに関しては、きっと、時間が解決してくれるだろう。多分……
「取り敢えず、夕食にするか?」
「ウン」
俺達は、貴重な水とパンを少しだけ食べる。
というか、完全に俺達は失敗してるように感じる。
樹海から出るだけで、こんなに大変なのに山脈越えは、どれだけ大変で時間が掛かるのだろう。
絶対に、食糧が足りなくなるのは目に見えてるのだ。
「今日は、とっとと寝るぞ。多分、俺が普通に寝てたら、この辺の魔物は襲って来ないと思うしな」
「だね。私もタカシ兄のこと知らなかったら、こんな有り得ないプレッシャー発してる人の近くなんて、絶対に近寄らないよ!」
そんな感じで、マリエと添い寝して寝たのだが、次の日、俺とマリエの周りには、ピクピク震えた角兎の魔物がたくさん転がっていたのだった。
「何だ、これ?」
「多分、タカシ兄が無防備に寝てるもんだから襲おうとしたんじゃない?
だけど、近づいてみると想像以上に有り得いプレッシャーを発してたもんだから、途中でみんな気絶しちゃったんだよ!」
「なるほど……」
なんか知らんが、やっぱり俺には、特殊技能があったようである。
昨日の段階で、なんとなく魔力の調整が出来る事に気付いてたんだが、俺って寝てても魔力の調整が出来たみたい。
まあ、普通に過ごしてるだけだと、魔力ダダ漏れだけど、意識すると自由に魔力を調整出来るのだ。
自分を中心にして魔力を拡げたり、ある一点だけに魔力を集中したりね。
なので昨日、魔力を絞って、近づいてきた魔物をキッ!と睨んで、一点集中で魔力を放出して、魔物が去って行くかとか実験もしてたりした。
俺の睨み一つで、魔物が逃げて行くって格好良くない?
まあ、実際は、魔力を放出してるだけなんだけど。
そんなのを応用して、昨日の寝る前、ダメ元で、体全体に緩い魔力を広範囲に覆い、そして、俺の体の半径6メートル程になると、有り得ない濃さの魔力を放出してみたのだ。
勿論、物凄く近くに居るマリエには影響受けないように半径2メートルだけは、魔力の放出を絞って、随分難しい魔力放出をして寝たのである。
まあ、失敗したとしても、俺の場合、無意識に魔力ダダ漏れになるだけだから、魔物は寄って来ないしね。
昨日、この樹海で一番強そうな熊の魔物が襲って来た時も、たまたま魔力を抑えた時だから、この樹海に生息してる魔物で、俺を倒せる魔物は居ない筈だし。
そんな訳で、俺は、安心して寝たのである。
だけれども、俺は寝てしまっても、どうやら思い通りに魔力をコントロールしてたみたい。結果は、ご覧の通り、角兎の山。
俺は取り敢えず、日本に居た時、異世界ラノベで読んだ知識をフル動員して、角兎の解体を試みる。
確か、最初に血抜きって奴をやらないといけないとラノベで読んだので、角兎のアタマをチョッキンパして、逆さにして木に吊るしてみた。
角兎を10匹程度吊るし、1匹1匹、内臓を取って行く。
それにしても、俺の力、本当にヤバい。
獣の皮剥きも、まるでゆで玉子の皮を剥いてるみたいだし、肉の部位の取り分けも、スライスチーズを裂いてるみたい。
包丁要らずで、尚且つ、魔力で体を覆ってるので手も汚れずに清潔。
魔獣の解体って、こんなに簡単だったの?てくらい簡単。
最後に家から大量に持ってきてた塩を大量に振り掛けて、天日干しするだけ。
どこに干そうかと思ったけど、その辺の木を加工して、マリエ用の槍を作ってやった。先端に、角兎の角を付けてね。
取り敢えずは、そこに吊るしておく。
マリエには重くないかって?まあ、暫くは俺が持つから大丈夫。魔力を纏ってる俺って、有り得ないぐらい力持ちだから。
そんな感じで、食糧問題もクリアーしつつ、俺達はついに山越えを始めるたのだった。
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