第24話 16日目、出発
決行の日の朝、サルーの神父が用意してくれたのか、朝食が8人分もあった。
取り敢えず、俺とマリエは朝食を食べて、残りは昨日作っておいた、布の鞄の中に入れおく。
「タカシ兄! ナイフとフォークは、BOXに返さないといけないルールだよ!」
俺が、布の鞄の中に木製のナイフとフォークを入れると、マリエが慌て出す。
「今から、魔物がウジャウジャ居る山脈越えをしないといけないのだぞ?
魔物を倒すのに、何か武器は必要だろ?」
「駄目だよ! ルールを破ると、闇が来て、首を斬られちゃうよ!」
「俺は、ハイブリットサルーだから大丈夫だ!」
「本当に?」
「ああ。実際、闇は来てないだろ?」
「確かに来てないけど、本当に大丈夫なの?」
「ああ。絶対に来ない」
俺が、闇が絶対に来ないと言い切れるのには、訳がある。
サルーの神父の話によると、闇は、ヤヌーとサルーの限定の執行者であって、フローレンス帝国の帝王が掛けた呪い。
詳しい事は良く分からないが、兎に角、闇は、ヤヌーとサルーしか襲わないのだ。
なので、一応、フローレンス帝国民である俺は、絶対に闇に襲われない。
俺とマリエは、山越えの準備を終えると、急いで、ヤヌー牧場を囲うように連なるアビス山脈の中で、一番低そうな場所を目指して出発する。
流石に、標高が高い場所からは、山越え出来ないと思うし。
暫く歩くと、盆地と山脈の別れ目の結界が張ってある場所に到着する。
「今、8:50分か……何とか間に合ったな」
「タカシ兄、本当に行くの?止めるなら、今の内だよ?」
マリエが、不安そうに聞いてくる。
「俺は行く。じゃないとエリーを助けられない」
正直、既にマイクに買われてると思うが、俺は、絶対にエリーを諦めきれないのだ。
俺が、ヤヌー牧場でグズグズしてる内にも、エリーはマイクのマイクで慰めものになってると思うと、気が狂いそうになるし、絶対に耐えられない。
早く、俺がエリーの元に行って、マイクから助け出さないといけないのだ。
そして、そんなショッキングな話は、絶対にマリエには話せない。
というか、話しても信じて貰えないと思うし。
完全にマリエは、フローレンス帝国が施した洗脳教育に毒されてしまっているから。
「よく分かんないけど、兎に角、エリーお姉ちゃんを助けないといけないのね」
「ああ。エリーを助け出して、そのまま誰も知らない場所まで逃げて、エリーとマリエと俺と3人で暮らそう」
「うん。それいいね! エリーお姉ちゃんと、私と、タカシと3人となら、絶対に楽しそう!」
何も知らないマリエは、嬉しそうだ。
ただ、ヤヌーとサルーが被差別民だと思われてるフローレンス帝国では、絶対に暮らせないので、フローレンス帝国を脱出するのは必須なだけで、兎に角にも、エリーを助け出せなければ、何も始まらない。
今は、ただ山越えを成功させる事だけを真剣に考える事にする。
実際、アビス山脈の近くまで来て、本当に、このアビス山脈を越える事が出来るのかと不安な気持ちになってきてるし……
「タカシ兄、もうすぐ時間だよ!」
「ああ。結界が消えたら直ぐに出発するぞ。サルーの神父によると、結界を消せて置けるのは、20秒が限界だと言ってたからな。それ以上開けると、山脈の魔物がヤヌー牧場に侵入して来るかもしれないと言ってた!」
「そうなの?! ていうか、結界消えたよ!」
「ああ。急ぐぞ!」
俺とマリエは、急いで結界の外に出る。
そして、暫くすると、また結界が復活した。
「タカシ兄、本当に20秒で結界が復活しちゃったよ!私、これで本当に、ヤヌー国に戻れなくなっちゃったんだね……」
「マリエ、本当に、これで良かったんだよな?」
「ウン。私、タカシ兄やエリーお姉ちゃんと離れたくないから! だから、これからはしっかり、私を養ってね!
代わりにサービスもたくさんするし。泡踊りとか!」
「ああ。俺の白バナナの皮が剥けたらお願いするかも……」
「だね!」
マリエは、ニッコリと微笑んだ。
ちょっとエロい、黒ギャル的な無駄話はここまでで、俺とマリエは、直ぐにエリーを助ける為に出発する。
最初は、樹海のような森が広がっており、その中から魔物の鳴き声が聞こえてくる。
「居るな……」
「ウン」
「取り敢えず、マリエはフォークを持っとけ」
「タカシ兄、フォークといっても木製だよ?」
「確かに……」
少しでも武器になるかもと、持ってきてみたが、改めて見ると、木製の小さなフォークで魔物を倒すのは難しそうだ……
というか、確か、俺って結界の外なら魔法が使えるとか言ってたな……
「ファイアーボール!」
俺は、試しに手の平からファイアーボールが飛び出るイメージで念じてみたが、案の定、何も魔法は飛び出て来なかった。
「駄目じゃん……」
俺は、いきなり魔法の行使に挫折する。
本当に、俺は魔法使えたのかよ……
確かに、体から無駄に魔力が溢れ出てくるのは感じる。
というか、今、額に角が生えた兎の魔物みたいのが見えたが、俺を見るや否や、兎だけに、脱兎の如く逃げて行った。
「タカシ兄、本当に凄いね……なんかタカシ兄から、物凄いプレッシャーみたいのを感じるよ」
確かに、俺も感じる。なんか体からオーラのようなのが出て来て、自分が世紀末覇者にでもなったように感じているのだ。
もしかしたら、本当に、俺は難無くこのアビス山脈を越える事が出来るかもしれない。
さっきの兎の魔物みたいに、みんな俺に恐れて逃げてくれたら。
とか、思ってたのは最初だけ。
5分もすると、イキナリ熊の魔物に襲われた。
「キャアーーー!」
熊の魔物は、弱そうなマリエを標的に襲って来る。
「俺のマリエに触るな!」
俺は無意識に、マリエと熊の魔物の間に入り込んで、熊の魔物にアッパーカットを食らわせた。
熊の魔物は、俺のアッパーカットにより、空中三回転してから、そのまま絶命してしまった。
「何なのコレ?」
俺は、自分自身がしでかした事にビックリする。
「タカシ兄! 凄い! 流石はハイブリッドサルー!」
「俺も自分自身で驚いてるんだけど……俺に、こん秘めた力があったなんて……」
「きっと、徳を積んでハイブリッドサルーになったからだよ!」
「そうか?」
「絶対にそうだよ! それから『俺のマリエに触るな!』て、私、興奮して濡れちゃったよ!」
「何?その表現?」
「ん? 保険体育の授業で、男の人を喜ばす最大の比喩表現だと習ったんだけど、違った?」
「そういう事ね……」
確かに、ちょっと嬉しく思ったので、これは良しとしよう。
俺は、ヤヌーの教育方針も捨てたもんじゃないと、ほんのちょっとだけ思ったのだった。
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