第21話 15日目
目を覚ますと、いつもの天井、いつもの寝息。可愛らしいエリーの寝息が、隣から聞こえてくる。
昨日あった出来事は、やはり夢だったのか?
血だらけで骨まで見えていた拳も、全く痛くないし、傷一つ無い。
俺は、安心して、いつも隣に居るエリーの方を見やる。
やはり、エリーはそこに居た。
やっぱり、昨日の出来事は、夢だったのだ。
「アッ! タカシ兄! やっと起きたの!
私、とっても心配したんだからね!
お姉ちゃんが、アビスの割れ目に旅立つのが嫌だからって、あんなに拳から血が吹き出てたのに、貧血して倒れるまで結界を殴り続けるんだもん!」
「ちょっと、待て!」
俺は、マリエの言葉に驚き、飛び起きる。
というか、昨日の出来事は、本当にあった出来事だったのか?
エリーだと思ってたら、マリエだったし、しかも手も治ってるし、全く意味が分からない。
「エリーは、無事なのか?それから、マイクの奴は、どうなった?!」
「ちょっと痛いよ! そんなに強く肩持たなくても話すから! ちょっと落ち着いてって!」
「すまん」
俺は、興奮し過ぎて、マリエの肩を強く握ってた事に気付き反省する。
「お姉ちゃんは、ちゃんと、アビスの割れ目に旅立ったし、マイクは、もう既に、タイガー君達とアビスの割れ目に旅立ってたんじゃなかったの?」
「エッ? お前、何言ってんだ?」
「お前って、私はマリエだよ! まあ、お前って呼ばれるのも、タカシ兄の所有物になったみたいで嬉しいけど……」
よく分からんが、マリエがお前と呼ばれて照れている。
イヤイヤ、そんな事より、マイクが既に旅立ってた?昨日、ヤヌーの儀式に居ただろ?!
何かがおかしい。それとも、俺が夢でも見ていたのか?
そもそも、昨日、あんな状態でエリーと別れたというのに、マリエは昨日の事を何とも思ってないのか?
「お前、昨日の事、本当に何も覚えてないのか?」
俺は、もう一度、マリエに確認してみる。
「だから、ずっと言ってるよね。エリーお姉ちゃんが、晴れてアビスの割れ目に旅立って、それを見たタカシ兄が号泣。そして、ヤッパリ置いてかないでと、血が吹き出るまで結界を殴り続けて、血を失い過ぎて気絶したんだよ!本当に、タカシ兄は馬鹿なんだから!」
意味が分からない?俺の記憶とマリエの記憶が全く違う。
俺の記憶か、マリエの記憶のどっちらかが、誰かの手により改竄されてるという事か?
というか、何で俺の拳は元通りに戻ってる?
もしや、これはマイクが言ってた魔法の力?
俺には、隠された魔法の力があるっと言ってたし。
兎に角、今は、一つ一つ疑問を整理して行くしかない。
「俺の手は、何で治ってるんだ?」
「それは、神父さんが奇跡の力で治してくれたんだよ!」
「神父って、奇跡の力が使えるのか?」
俺は、マリエに質問する。
「銀の首輪を付けたサルーは、みんな使えるよ! 奇跡の力が使える事こそが、サルーの証明だしね!」
「そのサルーが使う奇跡の力を使って、俺の記憶を改竄したとか?」
「何言ってるの?サルーがそんな事する筈ないでしょ!
もしかしたら、サルーの奇跡をもってすれば、記憶の改竄を出来るかもしれないけど、サルーはアビスの割れ目の外の世界で徳を積んだ者達だけがなれる、ヤヌーの名誉職みたいなもんなんだよ!
サルーに限って、そんな事、絶対にしないよ!」
まさか、サルーは記憶の改竄まで出来ちゃうかもしれないのかよ……
これ、俺じゃなくて、確実にマリエの記憶が改竄されてるよな。
だとすると、エリーはやはり、アビスの割れ目の外の世界で奴隷にされてしまう。
糞! どうする! 止めなきゃ!
というか、俺、いつまで寝てた?
もう、競売は終わってるんじゃ……
俺は、物凄く不安になる。
兎に角、今やれる事をするしかない。
取り敢えず、ここから出る方法を考えなきゃ。
取り敢えずは、結界を割れ目の結界を破る方法だよな。
そうだ! 16歳になったヤヌーが儀式の時使う、あの指輪、あの銀の指輪を使えば、結界を通れる筈だ!
「俺、ちょっと行って来る!」
俺は、直ぐに行動する。既に競売が終わってマイクにエリーが奴隷にされてたとしても、すぐに、マイクをぶっ殺して取り返せば良いだけの事。
俺の中で、もう、マイクは殺しのリストに入っているのだ。
「エッ?! ちょっと待ってよ! 学校はどうするの!」
俺はマリエを振り切って、急いで教会に急いだ。
教会に着くと、案の定、教会の扉は閉まっている。
「オイ! 開けろ!」
扉をぶっ壊す勢いで、ドンドン扉を叩くと、中から人の声が聞こえてきた。
「暫し、お待ち下さいませ。今、開けますから。どうにか、扉を壊さないで下さいませ」
暫く待つと、扉が開き、中からサルーの神父が出て来た。
「お前、マリエの記憶を改竄しただろ!」
「ハイ。しましたよ」
まさかと思ったが、サルーの神父は、あっさり白状した。
「何でだよ!」
ちょっと肩透かしされてしまった感があるが、俺はめげずに質問する。
「それは、本国からの指示に従ってです」
「本国って、もしかして、フローレンス帝国の事かよ?」
「そうです。フローレンス帝国からの指示です」
ぶん殴ってでも白状させようと思ってたのに、サルーの神父は従順に答えてくれる。
「じゃあ、昨日、起こった事は、全て現実なのかよ……」
「ですね。全て現実です」
どうやら、俺の言う事を何でも答えてくれる雰囲気だ。ならば、より突っ込んだ質問をしてみる事にする。
「じゃあ、マイクが言ってたように、エリスは、もう売られてしまったのかよ!」
「多分、売られてしまってます。アビスの割れ目を出ると、ヤヌーは、すぐに競売に掛けられますので……」
絶対に信じたくは無い言葉が返って来てしまった。
しかしながら、神父も、なんだか辛そうに見える。
よく考えたら、サルーの神父も同胞を売る真似をしてしまったのだから。
「もう、エリスは、マイクに買われちまったって事かよ……」
「あのご様子なら、もう……」
神父は、とても申し訳なさそうに答える。
「何で、あの時、マイクの言う事を聞いたんだよ!」
俺は、何となく分かってるのだが、どうしても納得出来ないので、思わず質問してしまう。
「それは、あの場に居た者の中で、マイク様の地位が1番高かったからでございます」
分かってはいたが、昨日、マイクが言ってた通りだったようだ……
「今は?」
「それはもう、私共サルーは、タカシ様の言いなりです。この隷属の首輪を付けている限りは……」
サルーの神父は、銀色の隷属の首輪をさすってみせる。
「お前達、サルーは、あの時、マイクに逆らえなかったって事か?」
「左様でございます」
「でも、今は、俺の言う事を聞くんだよな?
なにせ、今、このヤヌー国で、俺が一番地位が高いから」
俺は、念の為、確認してみる。
「そうなりますね。何なりと御要望をお聞かせ下さいませ」
俺の地位が、このヤヌー国の中で一番高いのなら、以外とヤヌー国の外に出るのは簡単かもしれない。
この目の前に居るサルーの神父に、銀の指輪を貸してくれと頼めばいいだけだし。
「じゃあ、銀の指輪を貸してくれ!」
「それだけは、なりませんね。銀の指輪に関しては、フローレンス帝王の承認を受けなければ、何人たりとも貸し出す事はなりません」
「俺の言う事、何でも聞いてくれるんじゃなかったのかよ!」
「私共の出来る範囲でです。フローレンス帝国で決められた法律を、私共サルーは決して破れませんので」
「破ったら、どうなるんだ? もしかして、闇が来て、首をチョッキンパするのか?」
「いえ、隷属の首輪が爆発して、首が吹き飛びます」
闇に首を斬られるより、酷い……
「俺が、無理矢理奪っても?」
「私が、タカシ殿が銀の指輪を欲しいと知ってる時点で、ドッカンですね。
多分、私が、わざとタカシ殿に銀の指輪を貸し出したと判定されてしまいます。
私個人の考えだと、タカシ殿に銀の指輪を貸し出してあげたいので……」
「じゃあ、マイクには、何で銀の指輪を貸し出したんだよ!」
「それはマイク様との契約が終わったからであります。
マイク様の契約は、タカシ様の契約と同様、ヤヌー牧場で契りを交わしたヤヌーを連れて帰るという契約でございます。
なので、ヤヌー牧場から出たいのであれば、誰かヤヌーと契りを交わして頂ければ、そのヤヌーは、タカシ様のお買い上げという事で、一緒に、フローレンス帝国に帰国出来る流れになっております」
「そんな簡単に、ここから出れたのかよ!」
「私は、最初にタカシ殿に説明した筈ですが?
それから、この契約は、タカシ殿のご実家エベレスト侯爵家が考えついた契約と伺っておりますが?
何でもタカシ殿が、何も知らないウブでいたいけなヤヌーの生娘を御所望とかで、何でも、一からヤヌーを育ててみたいたいと仰られていたとか……」
まさかの、俺自身から出たマッチポンプ。自分の最低さに辟易してしまう。
しかも、俺自身が見つけた理想の女性であるエリーをマイクに奪い取られるとか……俺はどんだけおマヌケなんだ……
まあ、記憶が無くなる前の俺が何を思って、何をしたかったのか全く分からないが、今の俺がエリーを求めてるのは確か。
記憶が無くなる前の俺が、自らヤヌー牧場に足を運んでしまう程のヤヌー狂いだったのと、地球の記憶が復活した、現在の俺の女性の趣味と重なるのも偶然じゃないだろう。
だって、俺って、前世から絶滅危惧種の黒ギャルが大好きだったから。
まあ、住む世界は全く違ったけど、あわよくば付き合って、エッチな事してみたいと思ってたし。
兎に角、今は、どうにかしてこのヤヌー牧場から脱出して、エリーをマイクの魔の手から救い出す事が先決!
俺はすぐに、教会を飛び出て、エリーの妹であるマリエと子作りする事を決意したのだ。
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