第18話 誓い

 

 次の日、ついに、エリーとのお別れの日がやって来た。


 エリーは、朝6時に教会に行かなければならないので、俺とエリーとマリエは5時半には家を出る。


 教会に向かう足取りは重い。これがエリーとの今生の別れではないとは思うが、数年間も会えなくなってしまうと思うと、とてもブルーな気分になってしまう。


 そして、教会に到着すると、本当にこれが、エリーとの最後のお別れ。

 この後は、儀式の準備があるので、俺達はエリーと接触する事が出来なくなってしまうのだ。


「タカシ、マリーの事頼んだよ!

 マリーを私だと思って接してあげてね!

 マリーもタカシの事が大好きな筈だから、タカシを受け入れてくれる筈だよ!」


 マリーが気丈に、俺との最後の言葉を言う。


「ああ。マリエの事は、任せといてくれ!

 マリエが、俺を受けいれてくれるてくれるとか、ちょっと、言ってる意味が分からないけど、俺はマリエの事は、本当の妹のように思ってるから!」


 俺は、エリーが心配しないように、マリエの事は任せろと伝える。


「本当に、私が帰ってくる前に、タカシが帽子剥けて大人になってたら、別に私を待ってなくて、マリーと子作りしててもいいんだからね!」


 なんか、エリーは真剣だ。


「だから、普通、お姉ちゃんと結婚する予定なのに、妹と子作りしないだろ!」


「え? 何で?」


 エリーは、本気で頭を捻ってる。

 やはりというか、金髪黒ギャルの貞操観念は破たんしてるようだ。


「え?何で?じゃないよ!絶対に、この世界の常識じゃなくて、エリーだけの常識だろ?!」


 俺は、悲しいお別れの筈なのに、思わずツッコミを入れてしまう。


「保険体育の授業では推奨してたよ?」


 エリーの口から、まさかの答え。


「この世界は、どんな世界だよ!

 まあ、俺は、この世界の記憶が全くないから、それがこの世界の常識なら受け入れなきゃと思うけど、俺が元居た世界の常識では、結婚相手の妹に手を出すのは倫理上よくないから、俺は、エリーが戻ってくるまで、絶対に童貞守るからな!」


 俺は、俺の価値観を宣言する。

 例え、この世界では、結婚相手の姉の妹と子作りするのが普通でも、俺の良心が絶対に許さないのだ。


「そんなのダメだよ! 真面目なヤヌーは、子作りのチャンスは、絶対に逃したらダメなんだから!」


 なんか、エリーが真剣に怒ってくる。


「それも、もしかして保険体育で習ったのか?」


「うん! ヤヌーの掟! ヤヌーにとって、子孫を残す事が一番大事なの!」


 なんか、今更ながら、エリーと別れるのが不安になってきた。

 ヤヌーの貞操観念、本当にユルユル過ぎる。

 これ、絶対に浮気されるパターンだろ……


「エリーは、俺の結婚するんだよね?」


「そうだよ。私はタカシと結婚して、たくさん子作りするの!」


「だったら、他の人とは絶対に子作りしちゃダメでしょ!」


「エッ?何で?保険体育の授業では、不特定多数の人とたくさん子作りして励みなさいと学んだよ。それが、最短でサルーに至る道だって!」


「何だよそれ?何か、おかし過ぎるだろ?!」


「でも、アビスの外でたくさん子作りしてサルーにならないと、ヤヌー国に戻って来れなくなっちゃうんだよ!」


「嘘だろ! そんな……」


 何かがおかしい。ヤヌーって、一体何なんだよ……


 ヤヌー同士での性交は、血が濃くなり過ぎて奇形児が生まれるかもしれないから、やったら駄目だというのは理解できるけど、不特定多数とたくさん励めというのは、全く理解できない。


 別に、他種族の好きなひと一人といっぱい励んで、たくさん子作りすれば良いだけの事で、不特定多数と子作りする必要なんてコレっぽっちも無い筈なのだ。


 というか、このままだと、俺は、エリーに一生会えなくなってしまう。

 だって、俺以外の奴と、エリーが子作りするなんて到底耐えられない事だし。


「エリー!頼むから、アビスに旅立たないでくれ!」


 俺は、涙目でお願いする。

 ヤヌーにとって、重要な儀式だという事は分かってるけど、これだけは絶対に譲れない。エリーが、他の男と子作りしまくるなんて、俺には絶対に耐えられないのだ。


「そんなの無理だよ。掟を破ったら、闇が来て首を斬られちゃうよ!」


「嘘だろ……」


「本当だよ」


 俺は、エリーの話を聞いて絶望する。


「何なんだよ! その掟! まるでヤヌーの自由を縛る鎖じゃねーかよ!」


「仕方ないよ」


 エリーは、申し訳なさそうに答える。


 本当に、どうすればエリーを助けられる?

 エリーに、ヤヌー国にずっと居てくれとお願いしたら、エリーは闇に殺されてしまうし、かといって、ヤヌー国から出て行っても、不特定多数の男子と子作りしなくてはならなくなるのだ。


 そして、俺以外の男と子作りしないでとお願いしたら、ずっとサルーになれなくて、一生俺の元には戻って来れなくなってしまう。


 完全に詰んで居る。

 俺は、ここで、どんな選択をすればいいのだ?


 エリーがヤヌー国から出て行かずに、闇に殺されて死んでしまうのは、一番論外だ。エリーが死んでしまうなんて耐えられい。


 かといって、エリーが他の男とヤリまくるのも、俺の方がショック過ぎて自死しまうかもしれない。


 だとすると、エリーには、アビスの外の世界に出てもヤラないでいて貰うしかないのだが……


 よく考えると、もう、選択肢は一つしか残っていなかった。そして、俺のやるべき事は、ただ、1つだけ。


「俺が、なんとか頑張って、ヤヌー国から出国するから、エリーは誰とも子作りせずに待っててくれ!」


 俺は、エリーにお願いする。

 もう、俺にはその道しか残っていないのだから。


「待つのはいいけど、保険体育の授業で、女子のヤヌーは、出国してから、一年以内に誰かと子作りしないと、闇が来て、首を斬られると言ってたよ!」


「何だよ! それ?! やっぱり何かがおかしい! 闇って一体何なんだよ!」


「闇は、闇だよ」


 エリーの答えに、俺は、再び絶望する。


「兎に角、ギリギリまで待っててくれ! 俺は、何がなんでもヤヌー国から出国して、エリーを迎えに行くから!」


 無理に等しいミッションだが、俺はやるしかないのである。

 じゃなければ、エリーは、俺以外の男と子作りしないといけなくなってしまうから。


「うん! 待ってる。私、タカシが迎えに来るまで、いつまでも、ずっと待ってるよ!」


 エリーは、いつものように俺の手を握り締め、ニッコリと笑う。


「ちょっと、待て。いつまでもって、俺も絶対に出国するつもりだけど、いつまでもはダメだぞ!一年限定だ!」


「うん。私、タカシを信じてるから、いつまでも待ってる」


「だから、ダメだって!」


 エリーは、俺の言葉を聞いても、いつもの通りニッコリと微笑むだけ。


「なんて言ったら、分かってくれるんだよ? 俺が、もし、間に合わなかったら、エリーは闇に首を斬られちゃうんだぞ!」


「だから、私は、タカシの事が大好きだから、いつまでも待ってるの!」


 エリーも、俺の涙に誘われてしまったのか、ニッコリ笑いながらも、両の目から涙が溢れそうになっている。

 これは、完全に覚悟しきった、誇り高き、ヤヌーの女の子の目だ。


「クソ! わからず屋め! なら、待ってろよ! 俺は必ず、エリーを迎えに行く! そしたら、いっぱい子作りしてやるからな!」


「ウン!」


 エリーは、瞳に溢れそうな涙を貯めながらも、万遍の笑顔で、ニッコリと頷いた。

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