第17話 告白
「タカシ……改めて、話したい事があるの」
学校が終わって家に帰ってくると、エリーが神妙な顔をして話し掛けてきた。
「じゃあ、私はお邪魔みたいだから、先にお風呂に入っておくね」
マリエは、気を聞かせて、リビングルームから去って行く。
そして、マリエがお風呂に入るのを確認すると、エリーが改めて俺の前に立ち、近い距離で、何故か手を握って話し始める。
「さっき、先生が言ってたように、実は今日、私の16歳の誕生日なんだ」
「うん……聞いた……おめでとう……」
おめでとうと、言っていいものなのか……
兎に角、悲しく、不安な気持ちを悟られないように、心を落ち着かせて答える。
「そして本当は、昨日、その事を、タカシに伝えようと思ってたんだけど、タイガー君の事や色々あって、話せなかったんだよね……」
エリーは、とても申し訳なさそうに話す。
「俺がエリーの立場でも、流石に、クラスメイトが死んだと聞かされたら、話せる雰囲気じゃなくなると思う……」
実際、先生から、エリーが明日、アビスの割れ目に旅立つと聞かされた直後は、何で、俺にもっと早くに教えてくれなかったんだよって、エリーにムカつく気持ちもあった。
だけれども、時間が経つにつれて心も落ち着き、仕方が無い事だったんだと、割り切って考えられるようになっている。
だって、証拠は無いが、親友のタイガー君が死んでしまったのだ。
本来なら悲しむべき所なのだが、俺にとっては、タイガー君の死より、エリーが、俺の前から居なくなってしまう事の方が重要だったのだ。
そりゃあ、サルーの先生の口から聞いた時は、エリーにムカついたど、言うタイミングは、確かに無かったし。
「本当は、先週の日曜日に話そうと思ってたんだよ!」
「嘘だろ!?」
俺は、思わず言い返してしまう。
エリーが明日、アビスの割れ目に旅立つ事が分かってたら、この1週間、1分1秒も無駄にせず、エリーとの時間を大切にしようと、確実に思ってた筈だし。
「嘘じゃないよ! 先週日曜日に、一緒にアビスの割れ目に、16歳になったヤヌーを見送りに行った後、話したい事があるって、私言ったよね」
確かに、言った。だけれども、
「ああ、アレって、マリエが13歳になって、高等部になるから、これから一緒に住む事になったって話じゃなかったのかよ」
「違うよ! 本当は、今週の土曜日に16歳になるから、次の日曜日には、私もアビスの割れ目に旅立たなければならないと言おうとしてたの!」
今更感が半端ないが、衝撃事実。
一気に、たくさんの情報が入り過ぎて、俺の頭は、もうパンク寸前。
だって、この1週間本当に色々な事件があったのだ。
最初に、マリエが家に来て、そして、マイクが編入して来て、タイガー君の彼女が寝盗られて、マイクにマリエが襲われそうになって、そしてタイガー君が闇に首をちょん切られて、タイガー君の死体が無くなって、マイクが金髪黒ギャル3人とヤヌー国から出国して、そしてエリーの告白。
この1週間、内容が濃すぎる。
「だったら、何で、その時、言ってくれなかったんだよ! 言ってくれてたら、俺も心の準備が出来てたのに!」
俺は、思わず、いっぱいいっぱいの心の丈をエリーにぶつけてしまった。
「だって、タカシがとても悲しい顔をしてたから……タカシ、アビスの割れ目から帰る道すがら、自分がどんな顔してたか知ってる?
涙をポロポロ流して、もう、この世の終わりみたいな顔してたんだよ?
そんなの喋れる訳ないじゃん!
きっと、あの時、話してたら、タカシきっと、号泣して一生立ち直れなくなっちゃうかと思ったんだもん!
だから、家に帰ってからじっくり話そうと思ってたら、何故か、マリエが予定より一日前に家に来てて、その流れで、タカシに話すタイミングが無くなっちゃったんだよ!」
エリーは、涙目で告白する。
確かに、あの時のエリーは、少し言葉に詰まってたような気もする。
なので俺は、勝手に、自分の都合の良いように解釈してしまったのだ。
だって、あの時は、エリーが居なくなってしまう未来なんて考えれなかったから。
だから、俺は、自分が聞きたくない、都合の悪い話に、わざと耳を傾けないようにしてたのだ……
エリーの話は続く。
「その後も、ずっとタカシと話そうと機会を伺ってたんだよ!
だけど、いつも、タカシの傍にはマリーが居て……なんか、タカシはマリーばかりと楽しそうに話してたんだもん……」
エリーは俺の手をギュッと握りながら、不安そうに俺の顔を見つめている。
というか、俺に対して、焼きもち妬いてるのか?
これは、ハッキリ否定しなくてはならない。
俺の気持ちは、一つだけなのだから。
「イヤイヤイヤ! 違うから! 俺はエリー一筋だから!
マリエはエリーの妹だから、仲良くなろうと頑張ってたんだよ!
ほら、将来、マリエは、俺の本当の妹になる訳だし……」
思わず、言ってしまった……
俺は、エリーが焼きもち妬いてるもんだから、それを正す為に、思わず自分の気持ちを口走ってしまっていた。
まだ、一線も越えてないのに、イキナリ結婚しようとか、間接的にでも言ってしまい、エリーにキモイ奴と思われたかも……
ていうか、何言ってんだ俺!
今言わなければ、いつ言うのだ。今言わなければ、もう明日にも、エリーは、アビスに旅立ってしまうかもしれないのに。
とか、俺は、ほんの数秒の間に、真剣に悩んでいたのだけど……
「エッ? ! どういう事、マリーは私の妹だよ?」
まさかのまさか。エリーは俺の告白を、全く理解していなかったみたい。
クッ! 今更ながら、金髪黒ギャルのエリーに比喩表現は、難し過ぎたか……
「だから……その……」
俺、もう一度、言った方がいいのか?
だけど、これ、二度言う事?
メッチャ、恥ずかしいのだけど……
「ねえ! タカシ、どういう事?」
エリーは、とても可愛い顔をして、本当に分からないのか、グイグイ不思議そうに俺に聞いて来る。
本当は、分かってるような気もするが……
でも、もうこうなったら、ハッキリ言うしかない!エリーにもしっかり分かるように!
「だから、エリー! 俺と、結婚してくれ! 」
「エッ?!何で!」
エリーは、とても驚いている。
というか、何で?
今更、まだ一線も越えてないのに、イキナリ結婚を申し込んだキショい奴と思われた?
というか、先の言葉で理解してくれてたら……俺は、こんなにも2倍も恥ずかし気持ちにならなかった筈なのに……
なんか、俺、凄くお間抜けな感じになってる。
だけど、俺は、ヤヌーの男として、もう突き進むしかないのだ!
「俺、エリーが立派なサルーになるまで、ずっとここで待ってるから!
だから、エリーが、ヤヌー国に帰って来たら、俺と結婚して欲しんいんだ!」
「エッ?! 私と、本当に結婚?嘘だよね?」
「嘘じゃない! 俺は本気だ!
君を初めて、ベッドの横で見たその時から、俺は、エリーに恋に落ちてしまったんだ!」
なんか、まるで俺の言葉じゃないような、臭いセリフが出てしまった。
とても、自分で言ってて恥ずかしが、嘘偽りの無い本心からの言葉だから、思わず出てしまったのだと思う。
「私もだよ! 私も、最初、家の戸の外で頭から血を流して倒れたタカシを発見して、慌てて興奮して、ドキドキして、タカシの事が好きになっちゃったんだ!」
エリーも、俺と同じように、俺の事が好きになった馴れ初めを教えてくれたのだが……
「それって、吊り橋効果なんじゃ?」
俺は、変な事を気付いしまった……
「何、それ?」
知らないのかよ!
まあ、異世界人だから当然だけど。
「ええと……一応説明すると、男女が一緒に吊り橋を渡る時なんかに感じる、緊張や恐怖などによるドキドキ感を、恋愛のドキドキと勘違いして、相手の事を好きになっちゃう事かな?」
「アッ! それ! まさにその通り、それで私は、タカシの事が好きになっちゃったの!」
エリーは、迷う事なく断言する。
「えっと……それは、俺は喜ぶべき事なのか……」
「うん!喜ぶべき事だよ! だってそれで、私はタカシの事を大好きになって、タカシも私の事を好きになってくれたんだから!」
エリーは、全くもって、吊り橋効果など気にしていないようだ。
流石は、金髪黒ギャル。見た目通り、細かい事は気にしない性格みたい。
だけれども、そんな天然なエリーの事が、俺は愛おしく、そして、大好きなのだ。
「エリー」
そして、俺は、改めてエリーに聞く。
「俺と結婚してくれるんだよね?」
俺は、緊張しながらも、エリーの手を包むように握り締める。突然だから、婚約指輪はないけれど。
「ウン! 私頑張って、すぐにサルーになって、ここに戻ってくるから!
そしたら、結婚して、たくさんエッチしようね!」
まさかの、ここで、金髪黒ギャルの本領発揮!?
「エ……エッチなら、今日の夜でもOKだけど」
俺は、モジモジしながらも宣言する。
「ダメだよ! 私、保険体育の時間で習ったの! 帽子被った男の子に対しては、しっかり段階踏んで楽しみなさいって!」
ヤヌー的には納得の答え。だけれども、
「楽しむって……」
「だから、私が戻って来る頃には、タカシも大人になって、バナナの皮も熟してめくれてる筈だから、その時、たくさん楽しも!」
こうして俺は、エリーが立派なサルーになってヤヌー国に戻って来たら、晴れて、結婚エッチをする約束をしたのだ。
そして、俺は、その時までには、必ず婚約指輪と、結婚指輪を用意しようと決めたのである。
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