第15話 13日目

 

 次の日の早朝、眠い目を擦りながら、急いで学校に向かった。

 闇にチョッキンパされた、タイガー君の確認をしに行く為だ。


 何で、昨日のうちに確認しに行かなかったって?


 そんなの俺のヤヌー殺しの冤罪を、エリーとマリエに説明するのに朝まで掛かってしまったからに決まってる。

 エリーはなんとか理解してくれたというか、信じてくれたが、まだマリエは、半分、俺が嘘を言ってると疑ってるのである。


 まあ、タカシ・エベレストという鬼畜貴族の息子の体に、別世界の人間の魂が入ってると言われても、普通、誰も信用してくれないよね。


 異世界ラノベに毒された日本人なら、一々説明しなくても、『ああ、異世界転生ね!』と、3秒理解してくれるかもしれないけど、そもそもヤヌーって、隔離された世界に生きてる種族だから、想像以上に世間知らずなのである。


「タカシお兄ちゃん、私はまだ、お兄ちゃんを完全に信じた訳じゃないんだからね!

 お姉ちゃんが信じてるから信じてあげる訳で、だから、手は繋いであげないんだから!」


 なんか、物凄く悲しい。

 マリエがグレてしまった。昨日の昼まではとても優しくて良い子だったのに。まあ、闇に首を斬られたタイガー君を目の前で見てた訳だから、心境の変化もあるのだろう。


 俺なんかは、自分の潔白を証明する事に疲れ果てて、既に、タイガー君どころの問題じゃなくなってたし……


 ん?薄情だって? 断じて違うから!

 俺は、心優しいヤヌーの男だし!


 例えば、突然、自分の子供が事故とかで死んでしまった場合、ずっとその事を引きずって生き続けてる親とかもテレビなどで見るが、おばあちゃんとか大往生で死んだ時とかは、逆に長生きできて良かったね。とか言って、通夜の時とか大宴会になってたりする。


 ちょっとだけ悲しんで、後は楽しくおばあちゃんの思い出なんか話して、あの時はこうだったとか、おばあちゃんの、お茶目な笑い話などして。


 人の死って、突然だとショックを受ける度合いが大きいけど、段階踏んで、例えば、亡くなる人物が長い年月入院してたりすると、心の準備が出来て、それほどショックは受けないもんだったりするんだよ。


 人間は、人の死をいつまでも引きづって生きて行く訳には行かなから。薄情とも思うけど、それが人間。金を稼がないと、人は食っていけないのだから。


 ん?タイガー君の場合は、突然の死だからショックが大きい部類じゃないのかって?

 違うんだな。コレが。突然の場合でも、それ以上の困難が自分に降り掛かった場合、悲しみなんてもんは一瞬で吹っ飛ぶもんなんだよ。

 例えば、故人が変な筋から借金を負ってて、自分がその借金を返済する羽目になった場合とか。


 例え、その人が良い人だったとしても、恨んだり、すぐに金策に走らなくちゃならなくて、悲しみどころじゃなくなるんだよ。


 タイガー君の場合もコレに当てはまる。

 俺は、自分の潔白を晴らす為にそれどころじゃなかったし、マリエの場合なんか、殺人鬼と一緒に暮らしてるかもしれないと、それどころじゃなかったのだ。


 本当に、世知辛い世の中だよね。


 でもって、心の友であるタイガー君が死んだというのに、いつの間にか悲しんでいなかった自分を、勝手過ぎる屁理屈で肯定し、本来なら、一番最初に行かなくてはならなかった、タイガー君が闇に殺害された現場に、今更ながら到着したのだが、そこには既に、タイガー君の死体は無かったのである。


「どうしよー!! タイガー君の死体が無くなってるよ!」


 マリエは大慌て。


「夢か何かだったんじゃないのか?」


「本当だもん!」


「じゃあ、多分、先生が死体を片付けたんじゃないのか?」


「それは無いよ。闇に殺されたヤヌーは、見せしめとして、1日はそのままにしておくもの」


 ヤヌーが闇に殺さた現場を見た事があるという、エリーが答える。

 というか、なんてヤヌーって残酷なの?

 1日晒しもにするって、もしかして、見せしめの為か? 晒し首的な?


  また、間違いが起こらないようにする為だとしても、子供ばかりしか住んでないヤヌー国では刺激が強過ぎるだろ……


 まあ、ヤヌーの習わしについては置いといて、それより今は、タイガー君の死体がどこに消えたかが重要案件。


「エリーの言う通りだとすると、マイクの奴が、どっかに穴掘って捨てたとかか?」


「絶対、そうだよ! アイツ、自分が原因で、タイガー君が闇に殺されたと思われないように、証拠隠滅したんだよ!」


 マリエが、俺の意見を肯定する。


「マイクって、タイガー君が闇に殺さた後も、ここに居たのか?」


「私は、怖くなってすぐに逃げて来たけど、マイクは嬉しそうに、タイガー君の首を持ち上げて見てたよ」


「サイコ野郎だな……」


「マイクは自分より、タカシお兄ちゃんの方がサイコ野郎だと言ってたよ!」


 まだ、言うかよ……今日の早朝まで、必死に俺の無実を説明した筈なのに……


「兎に角、昨日も説明したけど、俺と俺の体の元の持ち主は別人だし、きっと元の持ち主は、死んでしまって、その死体に俺の魂が入ったパーターンの異世界転生と、昨日も散々説明しただろ!

 それより、タイガー君が、マイクのせいで闇に殺された事を、先生に言いに行くほうが先だろ!」


 そんな訳で、俺とエリーとマリエは、職員室に昨日の出来事を話に行ったのだが、そこで、俺達はトンデモない事実を聞いてしまう事となったのだった。

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