第13話 マリエ クライシス

 

「マリエさん、これから、新入生のオリエンテーションがあるから、教室に残っているように」


 授業が終わった後、銀の首輪が光り輝くサルーの先生が、マリエに個人的に声を掛けて来た。


 今週の新入生は、留学生のマイクを除くとマリエだけなので、必然的に一人っきりで、新入生オリエンテーションを受けるようである。


「お姉ちゃん、タカシお兄ちゃん、先に帰っておいて、私、オリエンテーションが終わったら、一人で帰って来るから!」


「ほんとか、一人で帰って来れるのか?」


 俺は、少し心配で、妹ちゃんに聞いみる。


「もう、タカシお兄ちゃんは、過保護だな……ちゃんと一人で帰って来れるから大丈夫!

 もう、私は、高等部の大人のヤヌーなんだよ!」


「そうか。じゃあ家で待ってるからな!」


「うん! 一緒にお風呂に入りたいから、勝手にお姉ちゃんと2人で入らないでよ!」


「ああ! 帰ってきたら、俺が隅々まで洗ってやるからな!」


「私の方こそ、お兄ちゃんを隅々まで洗ってあげるんだから!」


 いつもの会話、いつものやり取り。

 このやり取りが、永遠に終わってしまってたかも知れない事件が起こるとは……


 ーーー


 話は、俺が、マイクを殴った後まで遡る。

 家に帰ったと思っていたマイクは、学校に残っていたのだ。


「許さね-。たかが成金侯爵家の分際で、フローレンス王家とも親戚筋の、このベッケンベウアー公爵家のマイク様の顔を殴るなんて……」


 マイクは、グツグツと怒りが込上げてくる。


「ヤヌー国を出た後、家の力を使って復讐してやるだけじゃ物足んねー! 今すぐにでも復讐してやる!」


 マイクは、ブツブツと独り言をいいながら、そのまま、サルーが常勤してる職員室に向かったのであった。


 そして現在。


 新入生オリエンテーションが終わって、マリエが教室の扉を開けると、そこには待ち構えてたように、顔面を腫らしたマイクが立っていたのだ。


「よお! タカシの公衆便器。お前、今日から、俺の愛玩ペットにしてやる! 有難く思え!」


「えっ?! やだ!キモッ!」


 マリエは、当然、ドン引き。

 タイガー君の彼女を寝とった話も聞いてたし、ヤヌーをバカにした態度をとるマイクには、嫌悪感しか湧かないのだ。


「お前に口答えする権利はねー!」


 バキッ!


 マイクは、これみよがしにマリエの顔面を殴りつける。


「痛い!何するのよ!先生ーー!助けてーー!」


 マリエは、職員室に届くように大声を上げる。


「クッワッハッハッハッ! 幾ら叫んでも、サルーは教室に戻って来ねーぜ!」


「どういう事よ!」


「さあな!」


 バキッ!


 マイクは、もう一度、思いっきり、マリエを殴りつける。


「痛い!助けてー!」


「いいねー! もっと、泣き叫べよ! そしたら、ハイブリットヤヌーとかいう、イカれたアホ王子様が助けに来てくれるかもしれねーぞ?」


 マイクは、服を脱ぎ出す。


「えっ?! 何するつもり?タカシーお兄ちゃん、助けてー!!」


「ギャッハッハッハッ! いいね! やっぱりこうでなきゃ! ヤヌーはスグ股開くから、あんまり興奮しねーんだよ! やっぱり、女は無理矢理やってこそ、興奮するってもんだよな!おらよ!」


 マイクは、マリエを押し倒して、馬乗りになる!


「止めてーー!!」


「だから、ここには、誰も来ねーて! そういう契約だかんな!」


 バキッ!


「痛い!」


「キャッハッハッハッハッ! いいね~もっと泣けよ! 」


 マイクは、マリエの胸に巻かれた布を、乱暴に脱がしにかかる。


「や……止めてよぉーー!」


「止めてって言っても、スグに気持ち良くなっちゃって、もっと続けてって、俺様に懇願するようになるんだぜ! ヤヌーてのは、そういう生き物だかんな!」


「そんな事ないもん!」


「そうなるって。お前も、もうすぐ俺のサルーになって、俺無しじゃ生きられなくなるからな!」


「ほら! 取り敢えず、しゃぶれ!」


 マイクは、自分のマイクをマリエの口に向ける。


「イヤァァァーー!!」


 マリエは、真っ白なタカシのとは違う、トウモロコシのようなブツブツ入りのマイクのを見て絶叫する。


 ガタン!


「マイク! てめぇー!! 廊下でたまたま見掛けたから、気になって付けて来たら何やってんだ!」


 教室の扉が、突然開き、そこにはタイガー君が、怒りの形相で立っていた。


「はぁ?何だお前? お前こそ、そこで何やってんだ? 俺のストーカーかよ! それより、また、俺がやってるとこ見て、隣でシコシコするか?」


「俺は、シコシコなんかしない!」


「いや、お前やってただろ?」


「してない!」


「お前はやってたね。シコシコ何度も何度も俺の腰の動きに合わせて、右手でシコシコしてたじゃねーか!」


「俺は、やってねーー!!」


 バキッ!


 タイガー君は、思わずマイクを殴ってしまう。


「痛てーな! てめぇ、ヤヌーの分際で、人間様に手を上げて、どうなるか分かってんのか?」


 マイクは立ち上がり、タイガー君を睨み付ける、拘束を解かれたマリエは立ち上がり、脱がされた布を持って、教室の隅に移動する、そして、マリエは目撃してしまうのだ。闇という恐怖の死神を。


「俺は、やってねーんだよーー!!」


「いや、お前はやってたね。そして、人間様に手をあげた。お前は、もう終わりだよ」


 マイクは、楽しい遊びの時間は、もう終わりと、冷めた態度でタイガー君に言う。


「俺の怒りは、こんなんじゃ終わらねー!」


「だから、終わりだって。ヤヌーの4つの戒律を破った時点で、既に、お前は終わったの! もうすぐ闇が来るぜ!」


 マイクは、タイガー君に言い放つ。


「うるせーよ! 俺は別に、ヤヌー同士でヤッた訳じゃないから、闇なんて来ねーよ!」


「まあ、そうだな。ヤヌーのお前が、ヤヌーを殴ったくれーじゃ、闇は来ねー。

 だけれども、それは、ヤヌーが人間様を殴った場合、話は別だ」


「何で、ヤヌーじゃないお前が、そんな事分かるだ!」


「そんな事、当然だろ? 俺ん家は、高位貴族の公爵家ベンケンバウアー家だぜ!

 公爵家では、お前のようなヤヌーやサルーをたくさん飼ってるんだよ!」


「お前、何、言ってんだ?」


「だから、俺ん家には、ヤヌーやサルーがいっぱい居るんだよ! だから、お前らの扱い方は良~く知ってるんだよ!」


「何で、お前の家に、ヤヌーとサルーが居るんだよ?何が、何だか分かんねーよ!」


「ほら、喋ってないで、もうすぐ来るぜ? 首斬られないように、首守らなくてもいいのか?」


 マイクが、タイガー君に忠告する。


「だから、何で、お前を殴ったくらいで、闇が来るんだよ! タカシだって、お前を殴っただろうが!」


「タカシ? アイツは別だ。だってアイツは侯爵家の人間だからな。お前らのような家畜の犬畜生じゃないし。

 まあ、本人はハイブリッドヤヌーとかおかしな事言ってるが、元々、アイツってフローレンス帝国の貴族の間でも、相当ヤバい奴って有名だったからな……多分、俺よりヤヌーやサルーをいっぱい殺してるぜ」


「お前……本当に、何を言ってんだよ……タカシが、ヤヌーやサルーを殺す訳ないだろ……」


「ハハハハハ、どうだろうな? アイツ、ここでは猫被ってるみたいだけど、フローレンス帝国では、相当なサイコ野郎って有名だったんだぜ!

 まあ、今は、なんかアイツなりのよく分からんプレイをして楽しんでるようだけどな!

 て、おっと、もう時間みたいだぜ! 闇が、すぐ傍まで迫って来てる気配がするぜ!」


 マイクに言われて、タイガー君が教室の窓を見ると、まだ暗くなるには早い時間だというのに、辺りが薄暗くなって来ている。

 そして、生温い空気が、教室の扉から、教室の中に入り込んで来る。


「まさか……本当に……」


 一度、学校で、闇を見た事があったというマイク君は、あまりに似通ったその時と同じ状況に、体が自然に震え出す。


「お前の彼女のビッチは、俺が責任持って、肉便器に育て上げてやるからな! そして、飽きたら最底辺の娼館にでも売ってやる!

 きっと、元ベッケンバウアー公爵家お抱えのサルーとして、とても人気が出ると思うぜ!」


「貴様ぁーー!!」


 タイガー君が、再び、マイクを殴り掛かろうとすると、それを遮るように、タイガー君とマイクの間に、闇が現れて……


「終わりだ」


 マイクの言葉と同時に、スパン!と、闇が、タイガー君の首を、大鎌で斬り裂いたのだ。

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