第12話 11日 12日目タイガー君の災難

 

 昼過ぎ、眠そうな顔をしてマイク・ベッケンベウアー君が重役登校してきた。

 どうやら、タイガー君の元彼女は疲れてお休みらしい。


 タイガー君の話を聞いて胸糞悪くなってた俺は、マイク・ベッケンベウアー君に突っかかる。


「オイ! お前、酷いじゃないか! タイガー君の彼女を寝盗るなんて!」


 俺は、マイク君の胸ぐらを掴んで、言ってやったのだ。

 俺は、こんなにも自分が、友達思いの奴だとは思ってなかったのだが、何故だか分からないが、体が勝手に動いてしまっていたのである。


「痛てーな! 何しやがるんだ! 侯爵のドラ息子風情が気安く、俺に触るんじゃねー!」


「何言ってるんだ?侯爵のドラ息子?」


 マイク君の口から、思ってもみない反応が返ってきた。


「ハッ? お前、エベレスト侯爵家のタカシ・エベレストだろ!

 知ってるぜ! お前がどんな奴なのか。相当、親に無理言って、ここに来させてもらったんだろ?

 本当に、頭が下がるぜ。だが、お前のお陰で、俺もここに来れたんだけどな!」


「お前、何言ってんだ?」


 俺は、マイクの意味の分からない言葉に困惑を隠せない。


「とぼけんなよ! お前の親父が、お前をここに入れる為に、金にものを言わせて、国の法律まで捻じ曲げたんだろうが!」


「俺の親父が?」


「何、しらばっくれてやがる!お前も楽しんでるんだろ!このクラスで一番可愛いヤヌーの姉妹をものにしやがって!

 サルーに聞いたぜ! お前、入学前に無理言って、その女の家に行って、その日のうちに襲ったって!

 俺も、それを聞いて真似してみただけだ! まあ、お前みたいに頭イカれてねーから、学校に入学する前じゃないけどな!」


 こいつ……本当に何を言ってるのだ?

 俺が、エリーを襲った?

 俺がエリーに襲われる事があっても、俺は決してエリーを襲わない。だってエリーはイケイケエロエロの金髪黒ギャルなんだぞ?!


「俺は、お前が、何を言ってるか分かんねえよ!」


「ハッ? 何言ってんの?お前、ヤヌーと仲良しプレイでもしてるんかよ?」


「俺は、白いヤヌー! ハイブリッドヤヌーだ!」


 俺は、マイク・ベッケンベウアーの前で胸を張る。ヤヌーの男は、裏表嘘偽りなく、いつも堂々としなくてはいけないのである。


「チッ……やっぱ、エベレスト侯爵家の息子は、噂以上にヤバ過ぎる。話が全く通じね……

 分かったよ。お前は、ハイブリッドヤヌーでも、何でもやってろよ!

 こっちも、大金払って、このヤヌー国に来てんだよ! お互い不干渉って事で、いいだろ?

 俺も、お前のようなイカれた奴に付き合いきれねーからな!」


 どう考えても、俺よりイカれた行動をしてる奴には言われたくない言葉だ。

 だけれども、不干渉はいい。俺もマイクのような胸糞悪い奴とは友達にもなりたくないし、同じ国出身の奴だとも思われなくない。


 俺はもう、身も心もヤヌーなのだ。

 いや違った。俺は、白いヤヌー! ハイブリッドヤヌーであるのだ。


「タカシ……」


 エリーが、俺を心配して話しかけてきた。


「大丈夫だ! 俺はアイツと同じ国出身の貴族の息子らしいが、俺はアイツとは違う。何故なら俺は白いヤヌー! ハイブリッドヤヌーだからな!」


 俺は胸を張る。


「そうだよね! タカシはあの人みたいに、酷い事しないもんね!」


「当たり前だぞ! 俺は、しっかり保険体育の授業で学んだんだ!

 ヤヌーの男は、少しでも女の子が嫌がってたら、決して子作りしないのだ!

 いつでも女性ファースト。それが、ヤヌーの男ってもんだ!」


「タカシー!!」


 何故か知らないが、エリーに抱きつかれた。

 多分、俺の言葉に感動して惚れ直してしまったのだろう。

 俺は、女性に優しい男。前世も今世も。

 それで、前世も今世も、ずっと童貞のままなのだけど。


 そして、すまん。タイガー君。

 俺は、君に何もしてあげる事が出来なかった。


 一発でも、タイガー君の代わりに、マイクを殴ってやっても良かったのだが、俺は、エリーと接して、それから気の良いヤヌー達と接して、既に、身も心もヤヌーの男になってしまってるのである。


『ヤヌーの4つの戒律』の3つ目。

『嫌な人を愛し、敵を愛し、迫害する人を愛せよ』が、血肉まで染み付いしまっていたのである。


「スマン。タイガー君。俺にはマイクを改心させる事が出来なかった……」


 俺は、申し訳なくて、深々と頭を下げる。


「頭を上げろよ。お前は、俺の代わりに、マイクの野郎に怒ってくれたんだろ? それだけで、俺は嬉しいよ!」


 タイガー君、なんて良い奴。

 彼女を寝盗られ、そして、実質、何もしてやれなかった、俺を許してくれるなんて……


 だけれども、被害が、タイガー君とタイガー君の彼女さんだけで終わるとは思えない。

 だって、糞貴族の息子マイクは、反省も何もしてないのだから。


 ーーー


 12日目。


 マイクは、金髪黒ギャルを2人も侍らせて、学校に登校してきた。


 1人は、タイガー君の彼女か?だって?

 違う! 別のヤヌーの黒ギャルだ。


「マイク君、昨日は凄かったよ!」


「私、昨日は、何度もイッちゃったよ!マイク君とだと、演技しなくていいから、本当に気持ちいい!」


 完全に、2人の黒ギャルは、マイクのマイクにメロメロであるようだ。


「そうだろ! そうだろ! 俺は、インポ野郎のヤヌーとは違うからな!

 奴ら、闇が怖くて、ヤヌーの女とヤレねんだろ? 本当に、ヤヌーの男は腰抜けばかりだぜ!」


 なんか、マイクに向けて、ヤヌーの男達から殺気が漲っている。


 決して、ヤヌーは、インポ野郎でも腰抜けでもない。

 実際、ヤヌーの男とヤッたら、どんな女性もメロメロになってしまうと思うし。

 俺は、トイレで横になった時、何度かヤヌーの男子のナニを見た事があったんだけど、それはそれは凶悪なナニをぶら下げているのを見た。


「クソー!マイクの野郎! 俺の彼女はどうなったんだよ!俺は、彼女に幸せなになって欲しいと、身を引いたのに……それなのに、もう、他の女に手を出していやがるなんて!!」


 タイガー君は、怒髪天の勢いで怒り狂っている。

 マイクを睨み付けて、プルプル震えてるし。


「昨日のビッチヤヌーより、お前達の方が気持ち良かったぜ!」


 マイクは、侍らせた金髪黒ギャル2人の胸を揉みながら、タイガー君を煽るように言う。


「マイク! 貴様!!」


 タイガー君は、机から立ち上がり、マイクの胸ぐらを掴み掛かる。


「おい? いいのかよ? ヤヌーの4つの戒律破ってもよ! 戒律破っちまったら、サルーには一生なれねーんだぜ!」


「クソォォォォ……」


 タイガー君は、マイクに殴り掛かろうと振り上げた腕を止めて、プルプル震わせている。

 マイクの野郎、どんだけ糞野郎なんだ。


「オイ? どうしたよ? インポ野郎のタイガー君よ?お前、あのヤヌーのビッチを満足させられねーんだろ?」


「あの子は、ビッチなんかじゃねー」


 タイガー君は、悔しさでプルプル打ち震えながら口を噛み締め言う。


「何、言ってやがんだ?ヤヌー女なんて、みんなビッチだろ? 他種族にスグ股を拡げる公衆便器じゃねーかよ!」


 これは聞き捨てならん。俺のエリーに対しても、公衆便器と言ってるように聞こえるぞ!


「オイ! それまでにしとけよ! これ以上ヤヌーを陥れる事を言うなら、この、白いヤヌー! ハイブリッドヤヌーの俺が許さねーぞ!」


 俺はムカつき過ぎて、思わずマイクとタイガー君の間に入ってしまった。


「ハッ? 何言ってんだ? 昨日、俺とお前とは不干渉って決めただろ?」


「アレは無しだ!」


 俺は、堂々と言う。こんな卑劣なゲス野郎との約束なんて守れるかよ!


「お前、分かってんのか?帝国では、貴族同士が一度交わした約束は、絶対に守らなきゃならねーってこと。それを破るって事は、どういう事なのか分かってんのか?」


「俺は、なんたら帝国の貴族じゃねー!

 俺は、ヤヌーの男だ! ヤヌーの4つの戒律に、貴族云々のそんな戒律ねーんだよ!」


 バキッ!


 俺は、拳を振り上げ、思いっきりマイクの顔面をぶん殴ってやった。


「い……痛てーよぉーー! 父上にも、母上にもぶたれた事ないのに……」


 マイクは、半べそ。多分、高位貴族なので、人に殴られた事などないのだろう。

 その点俺は、現在、派遣社員じゃないので、心置きなく誰でも殴れる身分なのである。


「何、泣いてやがんだ! タイガー君の心の痛みに比べたら、そんなの撫でてるのと同じだろ?」


「お前、本当に分かってんのか?俺は公爵家の跡取り息子で、お前は侯爵家の息子、地位が違うんだよ!」


 マイクは、泣きながら逆ギレ。

 地位をバックに威張るとか、男として終わってるし、それに、なんかおかしなこと言ってるし。


「お前こそ、何、言ってんの?同じコウシャク様だろ?同じ地位に決まってんじゃねーか!」


 優しい俺は、アホなマイクの言葉を訂正してやった。


「ヤバい。本当にヤバい。公爵と侯爵の違いが分からないなんて……噂は本当だった。エベレスト侯爵家の長男は、話が通じないヤバ過ぎる奴だって……

 今も、自分はヤヌーの男とか、頭がおかしなこと言って、変なプレイを続けてるし……」


 なんか、マイクが、俺にビビって、プルプル震えてる。

 何、言ってやがるんだ?みんなヤヌーの男に成りたいに決まってんだろ?


 ヤヌーの男は、規格外に格好良いし、色黒で金髪で爽やかで、どう見てもイケメンサーフィーにしか見えないのだ。


 日本に居たら、きっとモテモテだろ?


「と……兎に角、覚えてろよ! この仕返しは、絶対にしてやるからな!

 帝国に戻ったら必ず、公爵家の力を使って、全力で復讐してやる!」


 マイクは、モブっぽい捨てセリフを吐いて、学校から逃げるように去って行った。


 どうやら、俺の派遣社員パンチじゃなくて、ハイブリットヤヌーパンチは、マイクに相当効いていたようであった。

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