第7話 6日目、7日目 闇 そして儀式

 

 6日目。


 今日も俺は、エリーと手を繋いで学校に向かう。


 昨日までは、あれほどビンビンになってたのに、エリーと付き合ってからというもの、萎縮してしまって完全にインポになってしまってる。


 よっぽど、昨日の事がトラウマになってしまったのだろう。


 そして、今日の道徳の授業なのだが、俺は先生から、とても恐ろしい話を聞いてしまったのだ。


 なんでも、ヤヌー同士で、間違って子作りしてしまうと、闇がやってきて、子作りした男女の首を、大鎌で斬り落としてしまうとか。


 何、それ? メチャンコ怖いのだけど。


 そして、嘘でしょ?と、友達のタイガー君に聞いたのだけど、なんと本当の事らしい。


 タイガー君は、小さい時に、ヤヌーの掟を破って一線を越えてしまった恋人同士が、闇に首をちょんぎられた場面を目撃してしまった事があったらしい。


「えっと……闇って何なの?」


「闇は、闇だ。本当に暗闇が来て、大鎌で首をちょん切るんだ!」


 タイガー君は、俺を脅すように言ってくる。

 多分、タイガー君は、俺をからかっているに違いない。


 俺とエリーが、付き合い始めた事を、さっき話しちゃたからね。

 自分が彼女と子作り出来ないからって、俺達にヤキモチ妬いて、見てもないなのに、見たと嘘を言ってるに違いないのである。


 きっと、俺がビビって、エリーと子作りできないように画策してるのだ。

 本当に、ヤヌーの風上に置けない男である。

 ヤヌーって、聖なるアビス山の割れ目から生まれ落ちた、誇り高き民族じゃなかったのかよ!


 そんな事もありつつ、学校に帰って、また夜になったのだが、今度は、ヤヌー同士が子作りしてしまうと、どこからともなく現れて、首をチョッキンパするという闇が恐ろしすぎて、俺はまたまた勇気を振り絞る事が出来なかったのである。


 だって、エリーまで、闇に首チョキンパされたヤヌーの恋人同士を見た事あるとか言うんだもん!


 そんな事言われたら、もう、ヤヌーの男だと自負してる俺の白バナナは萎んでしまう。


「クッ! 身も心もヤヌーの男になってしまっている、俺自身を恨む時が来てしまうとは……」


 そんな言い訳を、エリーに言いつつ、俺は夜の暗がりが怖すぎて、エリーによしよし慰められながら、どうにか寝りについたのである。


 ーーー


 7日目。


 今日は、学校が休日。


 ヤヌーは、朝から、教会でお祈りをする日らしい。


 教会で、アビスの深淵の目が刻まれた銀の首輪を付けてるサルーの神父による有り難い話を聞き、今日、聖アビス山の割れ目に旅立つ事となる、16歳になった男女のヤヌー数人が紹介される。


 というか、16歳になると、聖アビス山の割れ目に旅立つという話は、本当の話だったのか?

 まあ、歴史の授業で、くどいほど聞かされていたのだが、実際に聖アビス山の割れ目に旅立つと聞かされると、途端に実感が湧いてくる。


「タカシ、見に行こう!」


 本来なら教会でお祈りしたら帰って良いのだが、エリーが、16歳になったヤヌー達が聖アビス山の割れ目の向かう様子を見に行こうという。


「うん、行こう!」


 俺も興味があったから、神父と16歳になったヤヌー達の後に着いて行く事にする。


 神父を先頭に、16歳のヤヌー達を囲むように、数人のサルーが付き添いに付いている。


 なんか、物凄く仰々しい。

 俺達みたいに、一緒に付いて行くヤヌーも結構居る。

 まあ、今日、アビスの割れ目に旅立つ者達の友達やら、恋人とかも居ると思うし。俺とエリーと同じクラスだったヤヌーも居るし、もう、哀しくてシクシク泣いてる者も現れてるし。


 よく考えたら、無理もない。数年後、徳を積んでサルーとしてヤヌー国に帰ってくる者達は、極小数。

 ヤヌー国って、銀の首輪を得たサルーの人数が圧倒的に少ないのだ。


 だって、俺が見た事あるサルーって、学校の先生と、今日、初めて見た神父と教会で働いているサルーだけだし。

 後は、国の中枢で働いてるサルーしか居ないと思うしね。


 今日が、殆ど、永遠の別れと言っていいのだ。

 そう考えると、俺も何だか悲しくなってくる。


 エリーは、確か15歳の筈だから、後、数ヶ月後。もしかしたら数週間後にお別れかもしれない。

 ついさっきまでは、エリーと別れる事になるなんて、これっぽっちも考えてなかったのに。イザ、この状況を見てしまうと……


 お別れに立ち会うヤヌー達が、シクシク泣いてるのを見てしまうと、俺も思わず、エリーが聖アビス山の割れ目に旅立つ日を想像してしまうのだ。


「エリー……俺、エリーと別れたくないよ」


「私もだよ、タカシ」


 エリーは繋いでた手を、ギュッと、強く握って来る。


 俺も、何だか感極まって、思わず握り返してしまう。


「タカシ、ちょっと痛いよ……」


「アッ、ゴメン……」


 俺達、二人は暫く沈黙してしまう。


「あの……タカシ、これ見終わったら、私、タカシに大事な話があるんだ……」


「エッ……」


 俺は、思わず固まってしまう。大事な話って、まさか、まさかだよな……


 もしかして、もうすぐ、エリーは16歳になってしまい、聖アビス山の割れ目に旅立ってしまうという話とか……


 もう、何も考えたくない。エリーが居ない世界なんて、エリーが居ない現実なんて、俺には、絶対に受け入れられないのだ。


「エリー!」


 俺は、思わず、大きな声を出してしまう。

 だって、まだエリーと出会って、たった数日だというのに、俺は完全にエリーに依存し、何でもしてくれるエリー無しでは生きられなくなってしまっていたのだから。


「タカシ。ダメだよ。今日はヤヌーにとって、一生に一度の神聖な儀式の日なんだから、大きな声だしちゃ。

 私と一緒に、聖なる割れ目に旅立つ、ヤヌーの門出を見守ろ」


 エリーは、精一杯の笑顔を見せて俺に言った。


 そして、その瞳には、今にも溢れ出しそうな涙が溜まっていたのを、俺は、決して忘れないだろう。

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