六
どこから洩れたのか、おれが万引きで捕まったという噂は学校中に広がっていた。事実だがあくまで噂なので、教師がどうこう言ってくることはなかったが、元子分たちの親が怒鳴り込んできた。噂が耳に入ったのだ。
「なんてことをしてくれた!」
「子供の将来に傷がついたらどうする!」
「お宅の野蛮な息子をうちの子供に近づけるな!」
何を言われても、おかんは黙って耐えていた。
相手の親たちは、それぞれの子供から、自分たちはおれに命令されたが何も盗っていない、万引きしたおれと一緒にいただけだと聞いていた。おかんはそれを知っても反論せず、黙って耐えていた。おれが無理やり万引きさせていたという想いがあったからだろう。
だが、次の瞬間、おかんは……キレた。
親の一人が怒鳴っているうちに気分が高揚してきたのか、叔母のことまで言い出したのだ。
「あんたのお姉さん、水商売やろ。男に色目使ってメシ食いやがって!」
それを受けた別の親たちも後に続く。
「すぐに服脱ぐらしいな!」
「酒を売らずに裸を売ってんのか?」
子供ながらに、相手の言っていることを理解したおれは、相手の一人に掴みかかろうとした。だが、そんなおれを突き飛ばすようにして、おかんは相手の前に立ちはだかった。
「今、姉のことは関係ないやろ! あんたらが今言うたこと、名誉毀損や。子供の前でそんなこと、よう言えたもんやな! あんたらの人格疑うわ!」
「名誉毀損? ほな、訴えろや! ワシらもそのガキ訴えたる!」
「勝手に訴えたらええ。せやけど、訴えたら、ほんまのことが明らかになって、恥かくのはそっちやで」
「……」
「あんたら、ほんまは気づいてるんやろ? 自分の息子がやったことに」
親たちは顔を見合わせ黙ってしまった。
親たちは、薄々自分たちの子供が本当のことを言っていないことに気づいていたのだろう。そして、気づいていたからこそ、おれが一方的に悪いということをアピールするため、怒鳴り込んできたに違いない。すべてパフォーマンスだったのだ。
だからおかんに反論できず、捨てゼリフを吐いた。
「こんなヤンチャなガキ、どっか転校させてしまえ!」
相手が一斉に背を向ける。その背中に向かい、おかんが怒鳴った。
「ヤンチャでどこが悪い! ヤンチャな人間はお宅らの子供と違て嘘がない! 中途半端な嘘ついて、お宅ら焚きつけたお宅らの息子の方が問題あるんとちゃうか!」
相手は皆、苦虫を噛み潰したような顔で帰っていった。
おれは、おかんが叔母のことでキレたことはもちろん、おれのことを褒めて(?)くれたことがすごく嬉しかった。
「おかん、ありがとう」
「何がや。当たり前のことしただけやがな」
おかんは笑っていた。しかし、すぐに真面目な顔になり、
「姉ちゃんに今日のこと言うたらアカンで。わかってると思うけど、姉ちゃんは一生懸命働いてる。誰にも後ろ指さされることのない立派な仕事してるんやから」
「うん、もちろんや。おかあちゃんが子供の頃、叔母ちゃんが働いて支えてくれたんやろ?」
「うん、そや」
おかんの目が潤んだ気がした。
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