普段は無口なのに食べ物のことになると別人のように喋りだす女の子は真の力を開放することで異世界最強の魔女になれる――その子と相棒になった男はおしゃべり機関車というあだ名の一人で喋り続けるヤバイやつだった
第17話 ドラゴニックフレアと生命を否定する黒い光
第17話 ドラゴニックフレアと生命を否定する黒い光
ザーセクは、融合モンスターの複合攻撃を、悪魔の翼による高機動で回避。悪魔化した対モンスター用重機関銃を連発した。
戦場と化した軌道エレベータ周辺に、民間人は存在していないので、これだけ強力な弾丸でも心置きなく撃てる。
「三種の化け物め、どんどん俺に向かって攻撃してこい。ルルの呪文詠唱は邪魔させない」
融合モンスターは、ルルを優先的に狙おうとするのだが、ザーセクの鬱陶しい攻撃も無視できなかった。
銃撃を封じ込めるために、まるで山脈のようなサイズのアクアスライムで覆いかぶさった。
「さすがに回避は難しいか!?」
ザーセクは高速飛行で逃げようとしたのだが、右側面だけ間に合わなかった。
右腕パーツと対モンスター用の重機関銃にアクアスライムがビチョリと絡みつき、恐ろしい質量に圧迫されてあっけなく潰れた。
それどころか右腕の骨を通じて溶解が始まり、胴体にまで浸食されそうになる。
激痛を感じるよりも、命の危機を回避する本能が上回る。
無事な左腕で高周波ブレードを引き抜くと、自分の右腕ごとアクアスライムを切り飛ばした。
ようやくピンチを脱したら、失った右腕の痛みが遅れて押し寄せてきた。
「なんど負傷しても慣れないな、魔女の騎士になっても痛覚は消せないから」
魔女の騎士になった恩恵により、右腕はエーテルアーマーごと再生した。
しかしダメージが消えたわけではない。体力はごっそり減っていて、軽いめまいも起きていた。
こんなことを続けていたら、いつか生命力が尽きて死ぬ。
だがそんなことは覚悟の上だ。
ルルの呪文詠唱を守らないと、市街地の民間人と、地下にいるAMIの仲間たちが死ぬ。
「第二ラウンドと行こうか、化け物さんよ」
ザーセクは、脳内の生体チップを起動して、召喚魔法の応用で予備の対モンスター用重機関銃を呼び寄せる
予備の機関銃にも魔女の騎士の力を送り込んで、消滅の弾丸をばらまき続けた。
融合モンスターは、そこそこ知能が高いらしく、ザーセクが再生能力を持っていることに気づいて、真正面から相手にしなくなった。
彼らは、ルルの魔法詠唱を邪魔することに、全力を注ぐようになったのだ。
しかしザーセクとて、魔女の騎士としてなにをやるべきかわかっていた。
「意地でも守るんだよ、魔法の詠唱が終わるまで」
脳内の生体チップを起動して、対モンスター用の大型シールドを呼び寄せた。これをしっかり構えてから、自らの体をルルの前に差し込んだ。
融合モンスターの高熱ガスと触手攻撃が、ばしんばしんと大型シールドに突き刺さる。
しかしすべてを防御できるわけではなかった。
今度は左肩に触手がめり込んだ。ごりっと関節と骨が砕け散って、大型シールドを構える姿勢が崩れてしまう。
しかし気合で耐えきると、高周波ブレードも同時に振り回して触手を切り払った。
潰れた左肩は再生したので、愚直に防御行動を繰り返す。
五回、六回、七回……敵の攻撃を防ぐたびに、ザーセクの全身はボロボロになっていった。
いくら再生能力を獲得しても、精神が無敵になったわけではないし、生命力が無限に続くわけでもない。
まるでノコギリで魂を削られるような苦境に、ザーセクは己の弱さを痛感した。
もっと技量が高ければ、きっとここまで負傷しないでルルを守れるはずなのだ。
AMIの隊員としても弱いし、魔女の騎士としても未熟であった。
だが落ち込んでいる場合ではない。自分の役割をまっとうしなければ。
「ルル、あとどれぐらい時間を稼げばいい?」
ルルは魂の繋がりで答えた。
『あと一分』
たった一分、されど一分だ。
もう一度、三種類の波状攻撃を仕掛けられて、綺麗にさばける自信がない。
ザーセクは奥の手を使うことにした。
魔女の騎士になったことで、人間状態では使えない技が、いくつか増えている。
ただしこの技は反動が大きく、ただ使うだけで生命力をごっそり失うことになる。
魔女化したルルのように寿命が削れるのだ。
しかしこのまま融合モンスターの物量で追い込まれたら、ザーセクは死んでしまうので、それよりマシであった。
「【ドラゴニックフレア】を使用する。報道ヘリども、この空域には近づくなよ」
有機物と化したエーテルアーマーの口パーツが、ぱかっとドラゴンの口みたいに開いた。
そこから無属性の魔力砲撃【ドラゴニックフレア】が発動した。
魔女の騎士の口から竜族の破壊的な波動が漏れてきて、空気中のチリを焼きながら野太い無色の光に成長していく。
そのまま首を動かして、上下左右を丁寧に焼いていけば、接近してくる融合モンスターの巨体をまとめて消し炭にした。
あれほど手数で押していた融合モンスターは、体積の四割ぐらいを失ってしまい、あっという間に劣勢に陥った。
ただしザーセクの反動も大きい。まるで一週間無休憩で全力疾走したみたいに疲労して、いまにも失神しそうになっていた。
しかも【ドラゴニックフレア】の貫通を考慮して光線を吐き出したつもりが、敵を焼き払うことに集中しすぎて、軌道エレベータの一部をかすめていた。
かつてザーセクとルルが待機していた応接間が消し飛んで、中腹部の骨組みが剥き出しになっていた。
レイドリン課長が、生体チップによる通信で絶叫した。
『こらザーセク! ちゃんと狙って攻撃せんか!』
ザーセクは失神しそうになりながらも、レイドリン課長を心配した。
『そういう課長こそ、ちゃんと無事でしょうね?』
『……悪かったな、地下にいる我々を救うために、無茶をさせることになってしまって』
『いいんですよ、課長。だからルルの魔法で軌道エレベータが壊れることは無視してください』
『…………ちなみに、どれぐらい壊れる?』
『約束通り、動力は壊れないですよ。貨物エレベータも無事でしょう。しかし外装は全部壊れます』
『そんな頓智みたいな指示を出したわけじゃないんだが……まぁいい。こんな非常事態になったら目をつむるしかないな』
ついに魔法詠唱が完了した。
ルルが魔女の杖を天高く掲げると、体の周囲を回転している古代文字が輝いた。
【生命を否定する黒い光】
生きとし生けるものの天敵である暗黒の光が現れると、巨大融合モンスターを包み込んだ。
そう、包み込んだのだ、軌道エレベーターごと。
地上から衛星軌道上まで届くほど巨大な構造物を包んでしまうなんて、こんな恐ろしい量の魔力は古代の魔女しか生み出せない。
まるで化学反応で汚れを除去するみたいに、暗黒の光は融合モンスターの生命力を打ち消して、再生能力ごと滅ぼしていく。
大破壊というより、効率的な消滅だ。
魔女専用の特大魔法にしては、純粋な火力も効果範囲もすべて狭かった。
なぜならこの魔法は、ザコモンスターの群体をまとめて滅ぼすための魔法なのだ。
だから魔王クラスみたいな強力な個体には通用しない。
だが融合モンスターみたいな三種類のザコモンスターが重なったタイプに対しては、効果絶大であった。
こんな説明をすると、まるで軌道エレベータに損害が出ていないような雰囲気だが、そうではない。
魔女の魔法にしては火力が低すぎるだけで、きちんと損害は出ていた。
軌道エレベーターの外装部分が、野菜の皮を剥いたみたいに剥がれ落ちていた。
その代わりレイドリン課長の要望通り、軌道エレベータの中心部を通っている動力と、月の鉱物資源を運ぶための貨物エレベータは無傷であった。
とはいえ軌道エレベータは超巨大建造物なので、すべての外装を張りなおすだけでも莫大な費用と工事期間が必要である。
レイドリン課長は、地下から脱出してくると、軌道エレベータの損害状況を見て、頭を抱えた。
「とんでもない損害になってしまったなぁ。軌道エレベータの修復費用、いくらぐらいになるんだろうか」
ザーセクとルルは、きちんと上司の命令を守りつつ、民間人とAMIの仲間たちを助けようとした。
その結果、軌道エレベータの外装部分が全損したのだが、地下で敵に包囲されていたレイドリン課長には、彼らを責める権利がない。
少なくとも動力と貨物エレベータが生きているなら、軌道エレベータの本来の機能は問題なく動かせるので、政府からしても損害は許容範囲のはずだ。
それにしても、やはり古代の魔女の力は凄まじかった。たった一人の人間が、あれだけ巨大化したモンスターを一撃で葬ったし、軌道エレベータという巨大構造物を傷つけたのだ。
恐ろしいなぁと思うし、役に立つなとも思っていた。
レイドリン課長は、これまで何人ものガンドラーム一族の魔女たちを見てきたが、ルルは力の制御という一点では優等生であった。
無論、もっと真面目に仕事をしてほしいという正直な気持ちもあるのだが、魔女の魔法がこちらに向かないだけでも幸運であった。
そんなことを考えていると、魔女化を解除したルルが、レイドリン課長の隣に着陸した。
いつもの無口な仏頂面に戻っていたから、彼女はなにもいわずにお土産袋を渡した。
その中身は、レイドリン課長の大好物であるゼンセンガーデンのみたらし団子。
レイドリン課長は、保冷剤でひんやりしたお土産袋を受け取ると、苦笑いした。
「お前は良い子なのか、悪い子なのか、いまいちわからんよ……」
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