第9話 飲食街で聞き込み調査

 レイドリン課長は、部下たちに指示を出した。


「工場の地下で繁殖してから、別ルートに流れたモンスターの巣を探す。以前と同じく、複数の班に分けて同時に捜査だ。お菓子工場の地下に侵入して、除去されたモンスターの巣を直に調べる班。下水管理局と協力して、下水道全般を調べる班。下水路に沿って街中で聞き込みをする班だ」


 またもやザーセクは自分の希望を伝えた。


「はい課長! 俺は下水管理局と一緒に仕事したいです! なぜならあそこの局長はおもしろいからです!」


 下水管理局の局長は、手品が得意なのだ。以前ザーセクは、彼ににトランプマジックを見せてもらって、とても感動したので、もう一度見せてほしかった。


 だがレイドリン課長は、別の命令を出した。


「ザーセクとルルは、街中で聞き込みだ。お前たちは新商品の会場とお菓子工場で連戦してるから、もっともモンスターと遭遇しない場所で仕事するんだ」


 お菓子工場の地下と、下水管理局と一緒に下水路全般を調べるとなれば、モンスターと遭遇する確率はかなり高いだろう。


 下水路に沿って街中で聞き込みをするだけであれば、ひたすら一般市民と会話するだけなので、モンスターと遭遇する確率はかなり低い。


 ザーセクは、自分の体調より、相棒であるルルの体調を気にした。


「ルルは魔法連発してますからね。たしかにモンスターと遭遇しない仕事をしたほうがよさそうです」


 ルルは、すでに個人用の携帯端末を取り出して、三時のおやつを食べられそうなお店をチェックしていた。


 街中で聞き込み調査するとなれば、仕事中に堂々と飲み食いできるわけだ。


 レイドリン課長は、ルルに苦言を呈した。


「食べるのも構わないが、聞き込み調査はちゃんとやってくれよな」


 いつものルルであれば、この手の苦言は無視して返事すらしない。


 だが今日は珍しく返事した。


「課長には、ゼンセンガーデンのみたらし団子を買っておく」


「無口な魔女様が、どういう風の吹き回しだ……っていうか、オレの好物覚えてたのか」


「モンスターと連戦したことを気にかけてくれたから、そのお礼に」


 ルルは、いつも無口だし、そこそこ冷たいところもあるが、けっして仁義を忘れない子であった。


 まるで不良娘が珍しく善行を働いたみたいな効果に、レイドリン課長は目じりを下げた。


「いつもこうであれば、もっと簡単に組織に馴染めるだろうに……」


 なぜかザーセクが張り合った。


「はいはい課長! 俺もお土産買うんで、なんか褒めてください!」


「お前はもう少し黙れ」


「えー!? こんなに課長のこと気にかけてるのに~? いいじゃないですかぁ、ほらどんなお土産がいいんですか。正直に教えてくださいよ」


「本当にお前ら両極端だなぁ……」


 こうしてザーセクとルルは、みたらし団子をお土産に買うというミッションを背負いつつ、市街地に聞き込み調査に向かうのだった。





 ザーセクとルルは、パトカーで市街地に出てから、徒歩に切り替えた。


 調査範囲は、お菓子工場と接続された下水路沿いの町である。


 工業廃水が通るルートだから、飲食店が並ぶ地区であった。


 すでに昼時は終わっているが、三時のおやつどきになれば、スイーツ類の売り上げが伸びてくる。


 街中は、焼けた砂糖の香りが、ほわんと漂っていた。


「この甘ったるい匂い、たまらんぜ。とにかくなんか食べておくか」


 ザーセクは、最寄りの駄菓子屋でスモアを購入しつつ、店主に質問した。


「ニュースを賑わせてる融合モンスター、見てないですか?」


「いや見てないね。なんかお菓子メーカーの新商品を狙うらしいけど、まさかうちの商品は狙わないよな?」


「いえ、もしあいつらが普通のお菓子も狙うようなら、とっくの昔に襲撃されてますから、そのへんは安心してください。近所の人たちも、融合モンスターは見てないんですか?」


「そんな話は聞かないねぇ」


「わかりました。ご協力ありがとうございました」


 と聞き込み調査をしている間に、ルルもスモアを山盛りで購入して、ばくばくと爆食していた。


 ザーセクは、脳内の生体チップで飲食街の地図を表示すると、下水路のマップと重ねた。


「もう一本向こう側の道路沿いも対象範囲だ。そこの店でも聞き込みしておくか」


 大通りを抜けて、脇道に入ると、中華街になった。


「なぁ、ルル。ラーメンの立ち食いってありかなぁ」


「ありあり」


「だよなぁ。ならラーメン食べながら、聞き込み調査するかぁ」


 二人は、らーめんを注文した。ザーセクはとんこつで、ルルは全種類だ。


 商品が完成するまでの間に、店主に聞いた。


「融合モンスターの目撃情報を探しています。このあたりにいませんか?」


 店主は、麺をゆでながら、肩をすくめた。


「まったく見たことないね。っていうか、飲食街はこれだけ人の出入りが激しいんだし、モンスターを見かけたら、もっと騒ぎになってるよ」


 正論であった。とにかくラーメンが完成したので、二人は立ち食いしながら、他の店でも聞き込みしていく。


 ザーセクは器を持ちながら食べ歩きで、ルルは魔法で全種類の器を浮かべて食べ歩きしていた。


 そこそこマナーが悪い行為だが、凸凹コンビにそんな常識は通用しなかった。


 ずそーっと麺をすすりながら、ザーセクは周囲を見渡した。


「あれから三件ぐらい調査したが、目撃情報ゼロだな」


 ルルはすでに全種類のラーメンを食べ終わっていて、二種類のクレープを両手に持って交互に食べていた。


「むふー! おやつサイコー!」


「まぁたしかに、おやつの時間っていえるぐらいに、飲食街にモンスターの巣はないみたいだ。きっと課長も、この結末を予想してたから、俺たちにここを調べさせたんだろうさ。ってわけで、課長のお土産買って帰るか」


 ゼンセンガーデンという有名な和菓子店に寄って、みたらし団子を和紙に包んでもらう。最後に保冷剤を入れて買い物袋の口を閉じれば、お土産になった。


 それをルルがリュックサックに詰め込んだとき、店長が気になることを言った。


「モンスターの目撃情報といえば、うちの親戚が奇妙な噂を聞きましてね。軌道エレベータの電力パイプで怪しい音が鳴るとかなんとか」


 ザーセクとルルは顔を見合わせると、紙の地図を開いて販売カウンターに広げた。


 飲食街の下水路に指を当てると、下流に向かって、すーっと指を滑らせていく。


 軌道エレベータ―があった。


 もしここにモンスターの巣が繁殖しているとしたら、がぜん対処が難しくなる。


 ザーセクは紙の地図を畳んでから、ラーメンの残り汁を飲み干した。


「もし他に仕事があるなら、噂の正体を確かめに行く暇はないが、俺たち暇になるからな。課長に一報入れてから、軌道エレベータを調べてみるか」


 ルルは、和菓子店の草餅を購入すると、がぶりと噛みついた。


「軌道エレベータの特産品は、衛星軌道ステーキと月面パフェ」


 あれだけ食べてまだ満足しないなんて、やっぱりフードファイターはとんでもないなぁ、とザーセクは思った。

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