第4話 モンスターによる襲撃現場を捜査していく
新商品の会場は、融合モンスターの掃討が完了したので、現場検証が始まった。
AMIの隊員たちは、融合モンスターがどこから侵入したのか捜査していく。
ザーセクは敵の出現位置を覚えていたので、マンホールの出入口をエーテルアーマーの分析機能でスキャニングした。
アクアスライムとフレイムクラウドの反応が残っていた。
「マンホールが侵入ポイントってことは、下水路から侵入してきたんだ。もしかして下水管理局のモンスター進入警戒システムが壊れてるのか?」
脳内の生体チップを起動すると、下水管理局に言語データを飛ばした。
『こちらAMIのザーセク隊員です。事件現場の下水路からモンスターが侵入してきたので、下水管理局のモンスター進入警戒システムをチェックしてほしいんですが』
下水管理局の担当職員は、手元にあるパネルでシステムをチェックした。
『こちら下水管理局。システムにエラーは見られない。下水道の出入口にある監視システムにも異常なし。モンスターは都市の郊外から侵入してないぞ』
『現場で暴れたモンスターの画像を送信するので、チェックしてください。なにか思い出すことはありませんか?』
『いや、まったく見覚えがない。いまうちのスタッフを、システムの基盤に派遣して目視で確認させたが、物理的にも電子的にも壊れていない。そちらの現場で暴れたモンスターは、他のルートから侵入してきたんじゃないか?』
『わかりました。ご協力に感謝します。通信終了』
ザーセクは、下水管理局とのやりとりを、現場入りしたレイドリン課長に報告した。
レイドリン課長は、今年五十五歳になる大ベテランで、ハゲワシみたいな怖い顔が特徴的だった。高卒でAMIに入隊した苦労人で、いくつもの現場で功績をあげて、副都心支部の課長まで上り詰めた。
すでに髪の毛の半分は白髪になっているが、ホムンクルス強化手術を受けているため、二十代の青年みたいに筋骨隆々であった。
そんな現場のたたき上げを象徴する男は、脳内にある生体チップで、事件当時の動画を再生した。
「たしかにマンホールから侵入しているな。しかし下水管理局のシステムは正常稼働している……摩訶不思議な事件だ」
「そもそもモンスターの見た目がおかしいんですよ、課長。下半分がアクアスライムで、上半分がフレイムクラウドですよ。なんで種類の異なるモンスターが合体してるんですか?」
「実を言うと、モンスターが混ざってしまうことは、たまに起きるんだ。現代特有の現象だと思ってほしい」
「そんなことありえるんですか、モンスターが混ざるなんて」
「錬金事故だ。錬金術の実験で事故が起きると、ああやって混ざることがある。モンスターも、動物も、人間も」
「人間も!? ぞっとしますね……」
「ぞっとしてどうするザーセク。我々が受けたホムンクルス強化手術は、錬金事故の副産物として偶発的に生まれたんだぞ」
エーテルアーマーを装着するために必要なホムンクルス強化手術は、生身の人間に動植物の因子を移植することで実現している。
たとえば脳内に埋め込まれた生体チップは、狼たちが遠吠えで意思を疎通させる能力が下地になっていた。
なぜこんな生命の倫理に違反した手術が必要だったかというと、エーテルアーマーが生み出す人工的な魔力は生身の人間を蝕むからだ。
生まれつき魔力を持った人間は、魔力に対する耐性も同時に持ち合わせている。
だが、そうではない人間は、魔力耐性を持っていないため、エーテルアーマーの人工的な魔力に耐えきれず、肉体と魂が自壊してしまうのだ。
なんてシビアな理由があって、しかも誕生した経緯が錬金事故となれば、普通の感性であれば強化手術に忌避感を覚えるんだろう。
だがザーセクは独特の性格なので、あっけらかんとしていた。
「はっはっは。まぁ強化手術受けないとモンスターと戦えないんですから、あんまり細かいことは気にしないで、さっさと捜査を進めていきましょう」
「お前っていうやつは、相変わらず軽いなぁ、ノリも発言も」
「軽いぐらいでちょうどいいんですよ、モンスターっていう物理攻撃の通用しない化け物と戦うんですから。あっそうだ課長、いま思い出したんですけど、先日話題になった新型の釣り竿、リール部分に不具合があって、回収になるみたいですよ」
「せっかく前半部分で良いことを言ったのに、後半部分で余計なおしゃべりをして評価を下げる……おしゃべり機関車じゃなければ、もっと優良な隊員なのにな……」
とボヤいてから、レイドリン課長は、一言もしゃべらないルルを見た。
「こっちはこっちで本当に喋らんからなぁ。なんでお前らは、こうも両極端なのか」
たしかにルルは喋っていないが、きちんと捜査をしていた。
魔法の網を張って会場を警戒していたのは彼女だから、そこを取っ掛かりにして融合モンスターの足取りを拾おうとしているのだ。
だが、それといって手がかりは見つからないらしく、いつもの仏頂面のままであった。
レイドリン課長は、手元に集まってきた情報を基にして、部下たちに指示を出した。
「多方面から同時に調べたほうがよさそうだ。現場に残って調査を続けるチーム、下水をひたすら調べるチーム、なぜモンスターが新商品を食べたのか調べるチームにわけるぞ」
ザーセクは勢いよく挙手した。
「はい課長! 俺たちはなぜモンスターが新商品を食べたのか調べるチームがいいです。なぜならエーテルアーマーを脱いで昼飯を食べたいからです!」
純粋に腹が減っていた。朝から警備の仕事をしていて、昼になってトラブルが起きたせいで、昼飯を食べていないのだ。
そして昼飯を食べるためには、エーテルアーマーを脱がないといけない。
もしこの現場を調べるチームになったり、下水を調べるチームになってしまえば、エーテルアーマーを装着したままなので、昼飯を食べられないわけだ。
レイドリン課長は、なんでこいつはいつもこうなんだろうか、といわんばかりに渋い顔になった。
「誰がどのチームになるのかを決めるのは、上司であるオレなんだよ。それなのにお前ってやつは、おしゃべりなだけじゃなくてお調子者だな」
やんわり戒められても、ザーセクはまさに暴走した機関車のように止まらなかった。
「いいじゃないですか、課長! 腹が減りました、昼飯休憩をください!」
いつもは無口なルルも、昼飯休憩という言葉に反応した。
「お昼休憩がないなら、今日はもう帰る」
彼女は食いしん坊のフードファイターである。いくら新商品のお菓子を爆食していても、きっちり炭水化物とたんぱく質を摂取しないと満足できないのだ。
レイドリン課長は、やれやれと肩をすくめた。
「ああもうわかった、わかった。お前らは新商品を製造した工場を調べてくれ。そのついでに昼飯な」
「ありがとうございます!」
こうしてザーセクとルルは、モンスターの襲撃現場を離れて、製造工場に向かいつつ、その道中で昼飯を食べることになった。
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