1553年 信長から見た大内義植
〜尾張那古野城〜
熱田からやって来た商人より西国の情勢を織田信長は聞いていた。
「凄まじいな···征西将軍殿は」
「はい、西国···特に九州では戦が数年起こっていません。元々征西将軍殿は父親である権大納言殿(大内義隆、現在正二位だが役職では人数の調整が効く権大納言の役職を拝命していた)から出生を疑われた過去があり、幼少期は知恵遅れの風評もありましたが、出家後頭角を現し、九州を巡り恵みを与える旅をされました」
「お主が持ってきた百冊にも及ぶ書物は全て征西将軍殿が書かれたもしくは写本と聞いたが」
「はい、征西将軍殿は自身の知識をとにかく書にすることを好んでおりまして、こちらに書いてある農書のお陰で西国では飢饉が征西将軍が大内家の後継者に指名された頃より無くなっております」
「ほう、この農書の農法をする前とした後ではどれほど効果が違うかわかるか?」
「はい、この種籾を使用し、肥料をしっかり使った場合収穫量は倍に跳ね上がります。が、肥料を与えなかった場合尼子領にて土地がどんどん痩せて大飢饉が発生した為、肥料が確保できるまでは通常の種籾を使い、この種籾は一部の場所で次の種籾を増やす為に行うが良いかと」
「その様なものか」
信長は西国から来たという商人の話をよく聞いた。
商人達は征西将軍である大内義植を神の如く崇めているという話を聞いて、銭を信奉している商人達が何故征西将軍を崇拝しているか聞くと、征西将軍は銭を作り出しているからということ海外貿易の元締めをしているからだという。
異国の者達と対等···いや南蛮人達には優位を確保し、異国人をも取り込んで、商売の規模を拡大しているらしい。
明からも征西将軍は名乗らないが日本国王の称号を与えられ、異国にも余(信長)と年齢もあまり変わらないのに認められている男(義植)に憧れを抱くのはそう時間はかからなかった。
農書を以外にも料理本が幾つもあり、料理人に料理書通りに作らせてみたが、どれも美味しかった。
彼(義植)がお芋様と呼ばれていることを知り、何故お芋様と呼ばれているのかと商人に聞くと
「馬鈴薯と甘芋を広めたからですよ。次にこちらに来たときにお持ちしましょう」
と言い、彼が実際に持ってきた芋はたかがいもと侮っていたが、食べてみると甘芋は栗の様に甘く、余の好物にすぐなった。
特に大学芋と呼ばれる甘芋を更に甘くする料理に余は虜になってしまった。
馬鈴賞も油を使うが、蒸して潰し、パンと言う異国の小麦を使った料理の余りを乾燥させて砕き、それを生卵をかき混ぜたものと一緒にまぶして油で揚げるとコロッケという料理が出来上がり、余はその料理に塩をまぶすとそれ単品でも美味しく、米と一緒に食べても美味かった。
商人曰く西国···特に大内領では農民でもこの料理を食べることができると聞き仰天した。
砂糖を使う大学芋、油を多く使うコロッケ、どちらも尾張では裕福な者···武士の上の方か商人しか口にすることができないだろう。
それが農民でも食べられると聞いて、農民でもこれらの材料を買うことができる裕福さと銭が浸透していることを痛感した。
銭の価値がわかっているのだろう。
余以外では尾張の武士で商人並みに銭の価値を理解できている者は子飼いの連中でも丹羽(長秀)くらいだろう。
料理だけで大内の国力というのが測ることができる。
そして商人は大内で売られている物を持ってきてもらったが、文明レベルが違っていた。
布の質だけでも尾張の職人が作った物を超えているのに、これが量産品と言われて仰天した。
刀も数打ちが余がコレクションしている名刀には劣るものの、兵達に持たせるには惜しいくらいの品質であった。
茶、調味料、油、酒、塩、砂糖、蜂蜜、しいたけ、真珠、紙、布等々···他国では一つでも特産品となる品質、量共に生産量が圧倒していることを商人の話で余は知った。
尾張は豊かな国で美濃と合わせれば他国を圧倒できると思っていたが、大内は次元が違っていた。
そして大内の商品を東に流すときに熱田等の尾張西部の港は適しているとも言われた。
ただそれだけでは尾張は大内との貿易で釣り合う品が無い為に一方的に搾取されてしまうのではないかという危機感を覚えた。
子飼いの部下達はこういう経済について考えるのは苦手で、商人達も品を作り出すのは苦手だ。
職人達に聞いても大内に工芸品を売っても二束三文で買い叩かれる品質しか作れないという始末。
悩みに犬(前田利家)が
「悩んでも答えが出ないのならば聞いてみれば良いのでは?」
と言ってきた。
余はそれだと思った。
どうせ立場はこちらが圧倒的に下なのだから下の者が上の者に尋ねるのは別に不自然でもなんでもない。
故に商人に手紙を送った。
内容としては大内との取引を拡大したいがこちらから輸出できる品が無く困っていることや、征西将軍の整理した法令等を学べたらと言う書を送った。
余にしては長い文を書いたがどうか返事が来ることを願い、少なくない貢物も添えたのだった。
「ノッブめっちゃ困ってるやん」
その手紙は義植の元に届き、筆まめな事は歴史から知っていたが、結構な長文で書いてくるとは思わなかった。
ただ長文ではあるが礼儀正しい文章と言いたいことを明瞭に書き記されていた為に読みやすかった。
逆に読みづらいのは毛利元就で思ったことを何度も繰り返して書くのでとにかく長いし、くどい。
そんな信長が私と接触したいというファンレターに私もしっかり返礼品を贈る。
私としては端金であったが、尾張の一部しか支配できていないし、家中争い真っ只中の信長にとっては大金だろう。
そんな彼の誠意に応えるために、私は信長と繋がっている商人を呼び出して種や農書、大内家の法令関連や軍事体系(戦術や兵器等ではなく常備兵等の知られても問題ない部分)を纏めた書物、鉄砲の改良が進み型落ちとなってしまった弩を矢とセットで在庫処分として大量に贈った。
あとは緋緋色金を使って私が打った実用刀も贈った。
信長は返事が届いたと商人が手紙を送ると(いつ登城していいか聞くためだったが)、信長は子飼いの者を連れて商人の屋敷に突撃した。
「どうであった!」
「誠意に感激したと仰っていました。返礼の品として武器や尾張の地で育てやすい野菜の種や信長殿が牛の乳を飲むと言うと牛の乳を使った料理と乳が大量に出る牛、大型の馬に···これは見たほうがよろしいでしょう」
と商人は箱を信長に渡した。
箱を開けると見事な脇差しが入っており、織田の家紋と双龍が鍔から先端に昇る様に鞘に掘られていた。
子飼いの者はそれだけでも驚いたが、鞘を抜くと緋緋色に輝く刀を見ると皆腰を抜かした。
「義植様が直接打たれた名刀です。岩をも切断すると言っておりました」
「岩をも···」
信長はそう呟くと、商人の庭に大岩があったことを思い出し、庭に飛び出すと岩に向かって刀を振るった。
部下からは悲鳴(国宝とも言える刀がこれで刃こぼれでもしたらと思っての悲鳴)が上がったが、スパンと岩が真っ二つに斬り裂かれ、刀の方は全くの無傷···というより先程よりも輝きを増しているように思えた。
「妖刀双龍···義植様は刀にそう名前を付けられておりました。そして刀に負けない武将となり、京で茶会でも開き、日ノ本を未来を語れる日を楽しみにしているとも仰っていました」
信長は目を見開き、震えた。
現代で例えるとプロ野球の若き至宝が無名の高校球児にプロ野球で共に戦うことを楽しみにしていると名指で言われたに等しい。
信長は打ち震えた。
そして渡された農書や書物を読み漁った。
それこそ子飼い連中にも読ませて、義植の居城だった勝山城では義植自身が民に広めるために農作物を作ったと商人から話されると、信長も真似して城の中畑を作り、子飼いの部下と共に贈られた作物を農書を読み、枯らさない様に注意しながら増やすのであった。
この時部下に加わっていた藤吉郎(秀吉)は自身が農民だった知識と知恵を振り絞り、嫌っていた農作業を信長に取り入る為に率先して行い、信長の許可をもらい大内の農書を読み漁り、キャベツ、ブロッコリー、トウモロコシの栽培に成功するのだった。
そして義植自らが家臣や民に料理を振る舞って新たな作物を広めたから信長もやってみればと言われ、火が付いた信長は武芸の合間に包丁式を習い、趣味が料理と言えるくらい料理の勉強をするのだった。
で、子飼いのメンバーは信長が料理を振る舞ってくれることで忠誠心は更に上がり、同じ釜の飯を食った仲として子飼いのメンバー同士の結束も強くなるのだった。
そして領主が美味しく食べるという物は商人や町人も食べるようになり、需要が生まれれば農民も作り始める。
そして牛の乳からチーズやバターを作ってくれればこっちでも需要が追いついてないから高値で買い取ると言われ、畜産も信長は力を入れることになり、未来の人々から信長は乳製品を広めた第一人者扱いされることになるのであった。
信長の行いは町民達の心を掴んだが、一部の武士達から奇行として見られたが、奇行は今に始まったことではないので評価が落ちることは無かった。
逆に義植から名指しで期待されていると言われたことや、義植が贈った馬と刀は尾張の武士達の渇望の的となり、雄大な馬に跨る姿は貫禄すらもあり、逆に評価が上がることに繋がるのだった。
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