1544年 夏 茶器 常備兵の準備
「大友義鑑の娘の文でございます」
「毛利元就の娘春香でございます」
婚姻の儀が終わり、私の居城である勝山城に住まわせた。
勝山城では私が住みやすい様に城を改造しており、それが畳の間の拡張であった。
い草がこの時代まだ江戸時代ほど量産されていなかったので、畳は権力の象徴であり、それを使って寝室と茶室は畳の床にした。
その他、深井戸を掘らせて、錬金術で作った水の出る宝玉を投げ入れて真水と水の便を良くしたり、それの応用で湯が出る場所を確保して温泉を城内に作ったり、煉瓦造りのアトリエを作ったりもした。
城に入った姫や侍女達は山城なのに色々と快適な事に困惑していたし、一番困惑したのは料理を私が作ることであった。
「いやな、料理人を育ててはいるのだが、覚えることが多すぎて手が回らなくなっているから、私が教えているのだ」
と、私がそれっぽく言うが、色々と食べたいだけである。
それに私が作らないと肉体の改造薬を混入させるのが難しいからというのもある。
小姓達も私が料理を作った方が美味しく、そして主が料理を振る舞ってもらえることに感激して自然と忠義が芽生えてくれているのでありがたい。
まぁ食事だけでなく温泉にも色々と薬品を混ぜているのはナイショであるが···
あとは温泉の廃湯を使って鶏の羽化装置を作ったり、城内で新鮮な卵を食べられるようにしたり(勿論生卵は食えないが)、大栗や品種改良した大型馬が城内で飼われていたりした。
他の城とは違った快適な生活ができることに姫達は喜び、更に私が山口で公家と共に行っている書院に納める書物の写本から面白い物語を集めたり、外国の童話や物語等を私が覚えている限り書き起こして姫達が自由に入れる書庫を開放した。
侍女達も入れるようにし、写本しても良いが盗むなと厳命し、盗んだ侍女は人格排出の刑と元の人格に近づける改良型の疑似人格の投入をこっそり行い、侍女をじわじわと入れ替えていった。
まぁ私としては別に農書の内容が毛利や大友に流れるのは別に良く、侍女の幾人かをこちらの忠実な味方にするための方便でもあった。
で、姫達は夜に私と遊ぶ以外では教養と武家の女として護身術を身につけるべく勉学と武芸を昼間に学び、三食しっかり食べ、時には城下に降りて、私の与えたお小遣いの範囲で買い物を楽しんだりもした。
町民や商人と触れ合うのが相当楽しかったらしく、更に茶の湯にもド嵌りし、茶道を習うようになっていった。
ちなみにこの時代の茶道はまだ黎明期であり、かの有名な千利休の師匠が全国に茶の湯を広めていた時期で、この時代では最新の文化であった。
そして千利休以前なので唐物(大陸から流れてきた茶器)が高価で取引されており、それを入手しやすい場所と地位に居た私に茶道を学んだ二人がねだってきた。
「唐物も良いけど和物(日本産)も負けてないのだぞ」
と私の制作意欲に火が付き、基準となる物を用意する。
例えば茶釜とか茶碗、もしくは花を入れる花瓶だったり抹茶の粉を入れる容器だったり、はたまた掛け軸等から軸を決める。
その軸を引き立てる物を選ぶように教えた。
どれもこれも唐物で揃えれば茶器同士の見た目で喧嘩が起こるからである。
というか茶道が現代のコレクション文化やカードゲームに近く、自身の手持ちや資金力等でいかに客人を楽しませ、自慢するのが目的の者も多かった。
その為、私が作った茶室に合う茶器を揃えようと私は言い、農繁期の忙しい時期の合間に博多や山口の町、安慈村と名付けられた最初に居た村で作られた茶器等を購入し、時には城内のアトリエで素材を作って窯で焼いたりもした。
で、二人にスターターセットの如く一式をプレゼントした。
まず白を中心とし、使えば使うほど色合いが出てくる茶碗を軸に、白を引き立てるために黒茶色の茶釜と抹茶の入れ物、花瓶は白色に青い染料で模様を描き、掛け軸は山口に居る貴族に茶器を見せて、それに合う絵を描いてもらった。
もう一方は青磁茶碗(青緑色の茶碗)を軸に私が調和を取るために作った深緑色の茶釜、抹茶の入れ物、花瓶も深緑で統一した一式でより価値を引き上げるようにした。
最後は花瓶を黄緑色の硝子で私が作り、それに合わせて日焼けした畳の色に合わせた茶器や茶釜で揃えた物を用意した。
文は黄緑色で統一した茶器一式を、春香は深緑色の茶器一式を選び、大はしゃぎ。
で、私の許可をとり、小姓達や城に出入りする商人達と連日茶会を開いたが、調和の取れた茶器の数々に商人達は度肝を抜かれ
「大内のご嫡子は茶の文化をよくわかっておられる」
「側室にかのような業物を揃える財力は凄まじく、やはり大内の権威は侮れない」
と噂が広まった。
で、自慢したい二人の姫は大友義鎮と毛利隆元を勝山城に来てほしいと呼び出しの手紙を送り、文化人の二人も興味を持って見に来たら、妹達が当時考えられる最高の茶器一式コーデを見てしまい、大内の財力に驚いていたが、妹達が一部は私が城で作っていたと言うと、二人は私におねだりをしてきた。
「仕方ありませんねぇ」
と私は二人に何色が良いか聞き、義鎮は赤、隆元は緑が好きと答えたので城に一泊してもらい、その間に下はオレンジ、上は真っ赤に輝くペルシャ式のガラス茶碗と透き通るような緑色のこちらもペルシャ式のガラス茶碗をそれぞれに贈った。
ちなみにこの時代ガラスは日本では作れない為、価値は青天井である。
二人は茶碗をおがくずで詰められた箱の中に直ぐに仕舞って大喜び。
博多に近いため文化的教養が家臣にも広まっていた大友家は勿論、田舎の国人衆出身の為、教養に疎い毛利でも渡された茶器の価値に気が付き(毛利元就はこっそり茶器を商人に鑑定してもらったら国一つ余裕で買える。正倉院【天皇家の宝物庫】の宝具にも劣らないと言われて腰を抜かした)、家臣達も見栄えの良い茶器を欲するようになり、信長が後期に茶器を報酬で渡すことで恩賞の選択肢が増え、多くの家臣の忠義を引き立てる事ができた様に、大友、大内、毛利(安芸国)でも茶器を報酬にという声が出るようになり、茶道ブームが数年後から幕開けすることとなるのだった。
また茶道が流行っていると噂を聞きつけて堺の豪商である武野紹鴎(千利休の師匠)が勝山城に来ることにも繋がったのだった。
さて、皆さんお忘れかもしれませんが、大内には文治派と武断派の派閥争いが存在しているが、家臣の構造が他の大名と比較しても特殊であった。
武断派は主に城持ち等の大内の軍権を握っており、大内家が戦をする場合大内義隆が武断派の家臣に命令して動かす仕組みで、文治派は土地の保有量は狭いが、銭や商人からの贈り物(賄賂)等で土地以上に財力を持っていた家臣が多い。
官僚と軍人の関係が近く、中華王朝の様な軍を率いる将軍と内政を回す大臣が居るみたいな関係性がある。
ただこれが戦国時代に合っているかというと微妙であり、軍権が武断派に流れていることで中央集権とは言い難く、事実大内義隆が武断派に反乱を起こされた際に軍権を丸投げしていたせいで兵が集まらずに滅んだという事実がある。
信長みたいに各軍集団を作るにしても本隊がいなければ反乱で簡単に崩壊してしまう。
なので大内家の軍政改革をしたいのだが、軍権を武断派から取り上げる訳にはいかないのでまずは冷泉等の武断派であるが、内政もわかっている者を集めて勝山城で話し合いを行った。
「銭で常備兵を集めるですか」
「ああ、月山富田城での戦いの敗因は補給不足による士気の崩壊によるものだ。だから戦闘よりも後方の補給や陣地構築に特化した兵を揃えたい。そして戦闘でも農兵よりも城下で戦闘訓練を行うことで兵の戦闘能力が飛躍的に上がることが確認できた。その成果を見て判断してほしい」
と城下にある訓練場に移動し、黒川隆像の号令で肉人形達が綺麗に整列していた。
「抜刀!」
勢いよく刀を抜く。
「納刀!」
刀を鞘にしまう。
「射撃準備開始」
並んでいた兵達が弓(弩 クロスボウ)を構え、立膝をしてしゃがみ撃ちをしようとする者と立って弓を交互に放っていく。
連写性能で和弓より劣るとはいえ、集中訓練をし、上下で交互に撃ち込めば発射間隔を短くできる。
何より食事をバランスよく摂らせ、自衛隊の基礎訓練を真似した訓練をさせれば半年で引き締まった肉体が完成する。
それに錬金術で作った肉体増強の薬を混ぜれば精強な兵の出来上がりである。
訓練の様子を見た家臣達は短期間で精強な兵を育てた事や和弓に劣るとされていた弩を実用化及び量産したこと、兵達が空堀を掘り、陣地を早急に構築するのを見て常備兵であれば農兵ではできない事ができるのだと気がついたらしい。
「しかし、銭で雇うとなると銭を持って逃げるのではないですかね?」
「それは家族を人質とする。自らが死んだ時に家族や一族に給金が出て、敵前逃亡した場合は家族に害が及ぶとなれば死ぬ気で働くことでしょう。そして兵も任期制に基本することで任期が終われば纏まった金が貰え、兵の期間で身につけた技術で商いや開拓に使えるとなればなり手も増えるし、見込みのある者はそのまま引き立てれば良い」
「なるほど···しかし農兵とは違い金がかかりますな」
「ああ、だが大内ならできるとは思わないか」
「ごもっとも、大内にしかできないでしょうなぁ」
「私としては軍権が家臣に分散している状態はよろしくないと思っている。勿論常備兵だけでは回らないからある程度は必要だろうが···」
「文治派との繋がりの深い我々に見せたということは、義植様は我々にも真似をしてもらいたいのでは?」
「ああ、勝山で抱えられる兵数は多くて千、故に金と兵の育成方法を教えた小姓を送るからその指示に従い常備兵少しずつ育ててはくれないか」
「お任せを」
「なに、戦でない時の兵は開墾を手伝わせれば良い。ちょうど大規模な道作りを進める予定だからな」
と武断派の一部を切り崩していく。
ただ問題は父上からの寵愛を失いながら最大の兵力を保有する陶一族をどうするかという問題があるのだった。
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